Waseda Weekly早稲田ウィークリー

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危険空き家改修で1億円超の税収増が可能!? 政経院生 豊島区の対策を試算

「経済学を知っている人間として、研究者と国の施策をつなぐ架け橋になりたい」

大学院経済学研究科 修士課程 1年 金山 友喜(かなやま・ゆうき)

経済学研究科の有村研究室に所属。9号館に有村俊秀教授が所長を務める環境経済・経営研究所があり、そこを研究拠点としている

2018年9月に行われた「環境科学会 2018 年会」(公益社団法人環境科学会主催)。環境科学分野の発展とその将来を担う創意ある若手研究者・学生などを育成・奨励することを目的として2008年に創設された同会で、優秀発表賞の一人に選ばれたのが、大学院経済学研究科修士課程1年の金山友喜さんです。テーマは「空き家の外部不経済の推計―東京都豊島区を対象として―」。空き家を研究テーマにした理由や、研究内容、今後の目標などを聞きました。

――研究テーマ「空き家の外部不経済の推計」について教えてください。

発表当日に掲示したポスターの前で

街の中に空き家があると、地震や災害が起きたときに倒壊したり、放火などの犯罪の要因になったり、また景観が悪くなるなど、住環境にさまざまな悪影響が生じます。しかし、空き家の除去や利活用などの空き家対策には莫大な費用が掛かります。そこで、空き家対策の方向性を検討するために、空き家が近隣の住環境に与える影響(空き家によって周辺の賃貸物件の家賃がどのくらい下がったのか)を定量化しました。

――なぜこのテーマを研究しようと思ったのですか? 豊島区では今年4月に「空家活用条例」が施行されたそうですが、豊島区を対象とした理由は?

大学院に進んだ理由でもあるのですが、卒論のテーマに「空き家」を選んだことがきっかけです。もともと都市の問題や街づくりに関心があり、学部生のときに有村俊秀先生(政治経済学術院 教授)のゼミに所属していました。正直、最初は空き家自体にはそれほど興味はなかったのですが、文献を読んだり、いろいろな人と話をする中で、空き家がこれからの日本にとってビッグイシューであるということが分かってきて、これは研究する意義があると感じ、大学院に進むことを決意しました。

豊島区を対象としたのは、空き家率が高かったからです。総務省統計局の平成25年の「住宅・土地統計調査」によると、豊島区の空き家率は15.8%で、23区内で最も高い数値でした。今回の研究発表では、豊島区からデータ提供などの協力をいただき、卒論のテーマをブラッシュアップする形で報告させていただきました。

学部生のときのゼミでの様子(右端が有村教授、中央の赤い服が金山さん)

――金山さんの研究のどのようなところが評価されたのでしょうか?

ゼミで研究報告会を行う金山さん(写真右)

研究の特徴は三つあります。一つは空き家の状態別に外部不経済の程度の違いを推計した点です。空き家と言っても、景観を悪化させている物件や、倒壊の危険性がある物件など、状態はさまざまです。そこで、空き家を状態別に分類してみました。一般的に空き家は周辺の家賃を1~2%低下させるのですが、分類結果から、可燃物放置が見られる空き家は2%以上家賃を低下させ、物件への悪影響が大きいことが分かりました。

二つ目は、1年分のデータ(クロスセクションデータ)しかないという限られた状況でも、地域ごとの特色を入念に考慮したことで、地域性の影響を統計的に対処できた点です。経済学で望ましいのは複数年のデータ(パネルデータ)を用いて分析することですが、豊島区から提供されたのは1年分のデータしかなかったため、商店街に近いエリアなのか、それとも裏道のもともと人気(にんき)のないエリアなのかなど、地域の特色を分析の中に入れる工夫をしました。このデータ解析がとても大変で苦労しましたが、クロスセクションデータによる先行研究でここまできちんと地域性を考慮したものはないので、今後の手法の参考になると思います。

三つ目は、空き家対策の効果を試算した点です。空き家が改善されれば住環境が良くなり、土地の価格が上がって税収も増えます。先ほどの可燃物放置の空き家は豊島区内に93件ありましたが、全てきれいに改修すれば1億2400万円の増収が見込まれます。ある程度税金を使っても空き家の改修は意味がある、ということを提案しました。

このように、統計的な手法を使って分析したものを、各大学の先生方や専門外の方にも分かりやすく発表した点が評価につながったのかなと思っています。

――研究者として忙しく過ごしていると思いますが、オフタイムはどのように過ごしているのですか?

中学生のときにギターを始めましたが、高校生のときは部活が忙しくてやめていました。大学に入って再開し、今は友人とバンドを組んで活動しています。あとは旅行が好きで、長期休暇になると国内外問わず出掛けています。ロンドンへ一人で行ったときは「せっかく来たのだから」と、思い切ってストリートミュージシャンの中に入り演奏したこともありました。ロンドンはレベルが高くて…稼ぎ(チップ)は全くありませんでした(笑)。

旅先でストリートミュージシャンとセッション

――今回の研究発表で得たこと、また今後の目標などを聞かせてください。

データの解析を始めたころは右も左も分からず大変でしたが、有村先生と、研究の方向性についてアドバイスをくださった定行泰甫(さだゆき・ たいすけ)先生(政治経済学術院 任期付講師)のおかげで成果を出すことができました。研究の使命は実社会に反映されることだと思うので、今後は豊島区の施策としてどう生かしていくかということにも注意して研究を進めていきたいと考えています。

私は、どちらかと言うと研究することより研究を社会に生かしたいという思いが強く、将来は国家公務員を目指したいと考えています。実は、経済学はもったいない分野で、例えば公共経営や都市計画などの分野だと、研究者と国や自治体が一体となって施策作りをするなど、実学として社会に生かされているのですが、経済学は社会の効率性や公平性を考えて研究しているにもかかわらず施策に十分反映されていない印象です。なので、少しばかり経済学のことを知っている人間として、研究者と施策を国家公務員という立場でつなげていけたらと思っています。

第719回

【プロフィール】

千葉県出身。早稲田大学本庄高等学院卒業。本庄学院の魅力は「広大なキャンパス、部活に打ち込める環境、多様なバックグラウンドを認める校風、個性派の先生方」だそう。「受験勉強より、形に残る卒業論文に力を注ぎたい」と本庄学院へ入学。高校の授業で学んだ「ゲーム理論」が面白くて経済学に興味を持ち、早稲田大学政治経済学部経済学科へ進学した。高校時代は陸上部に所属し、駅伝の選手として埼玉県で8位の成績を残した。趣味は音楽。地元の友人と組んでいるバンドではボーカルとギターを担当。月1のペースでライブハウスや某駅前で路上ライブを行っている。お気に入りの『早稲田ウィークリー』の記事は「Special Issue西寺郷太(NONA REEVES)×土岐麻子の『ブラワセダ』」。

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