Waseda Weekly早稲田ウィークリー

早稲田の学問

吉藤オリィ × 菅野重樹 ロボットに癒やしの力はあるのか?

「OriHime」と「TWENDY-ONE」

自分の分身になるコミュニケーションロボット「OriHime」の開発者である吉藤健太朗さんと、人間の生活をサポートすることを目的とした人間共存ロボット「TWENDY-ONE」を開発した菅野重樹教授が、さまざまな視点から語り合いました。前編のロボットの姿形による影響の話に続き、後編ではロボットの持つ癒しの力や今後のロボットと家族の関わりに話がおよびました。

>>前編はこちら

株式会社オリィ研究所代表 ロボットコミュニケーター 吉藤 健太朗(よしふじ・けんたろう)

1987年生まれ。早稲田大学創造理工学部卒業。中学生の時「ロボフェスタ2001」関西大会で準優勝。車椅子の開発で「JSEC」で文部科学大臣賞、世界大会の「ISEF」でエンジニアリング部門3位を受賞。2009年から孤独解消を目的とした分身ロボットに取り組み、2012年に株式会社オリィ研究所を設立。青年版国民栄誉賞「人間力大賞」、スタンフォード大学E-bootCamp日本代表、フォーブス誌が選ぶアジアを代表する青年30人「30 Under 30 2016ASIA」などを受賞。「吉藤オリィ」としてSNSで積極的に情報発信。

理工学術院教授 菅野 重樹(すがの・しげき)

1981年早稲田大学理工学部機械工学科卒業。同大学大学院修士・博士課程を経て、1986年同大学理工学部助手。工学博士。同大学専任講師、助教授を経て1998年より同教授。2007年より早稲田大学創造理工学部総合機械工学科教授。2014年より早稲田大学創造理工学部学部長/研究科長。バイオメカニズムの視点から見直した人間機械系の人間共存ロボット、ヒューマン・ロボットコミュニケーションへの適用に興味がある。2017年「文部科学大臣表彰科学技術賞」受賞。

コミュニケーションロボット「OriHime」  自分の分身として、人をつなぐロボット

距離や身体的理由によって、行きたいところに行けない人の分身になるロボット。カメラ、マイク、スピーカーが搭載され、家や会社、行きたい場所に置き、スマートフォンのアプリやインターネットを介して操作することが可能。「OriHime」を通して「あたかもそこにその人がいるように」会話をすることができる。

利用者の例
■病気の療養や身体的問題で外出ができない人
■単身赴任で家族と離れて生活しなければならない人
■精神的な理由などで学校に行けない人
■育児や介護、けがなどが理由で出勤ができない人

 

人間共存ロボット「TWENDY-ONE」  人間と共存し、支援するロボット

身体各部に搭載した外力吸収機能、なじみ機能を用いて、生活環境に内在するさまざまな誤差を吸収しつつ作業を遂行する。同時に人間との触れ合い時には高い応答性と適応能力を発揮する。これらの技術を生かし、家事支援、介助支援を実現している。

利用者の例
■家事の支援が必要な人
■身体的な介助を必要とする人

 

ロボットに人を癒やせるか

吉藤

話を家族に戻しますと、家族とは、相互に家族であると認識している関係という私の定義において、ロボットがこちらを家族と認識していることを証明するのは無理だと思います。ただ、家族のように大事にしているペットのような存在になることはできるでしょう。そう考えると、日常で身近に存在している家電製品も、家族に近い存在になるのではないでしょうか。私たちはよく、愛着のあるものを「こいつ」と呼んだりします。祖父はテレビを叩きながら「最近こいつ調子悪いな」と言っていましたし、ロボット掃除機を「この子」と呼ぶ人もいます。私はこれを“擬生命化現象”と呼んでいるのですが、人が「こいつ」と呼び出すスイッチがどこにあるのか、ずっと考えています。

菅野

日本人には、物には霊魂が宿っていると考えるアニミズムの文化があり、物に対して感情を持ちやすい。一方で欧米人は、日本人に比べれば、物を機能の集積としか見ていない傾向があります。ちなみに、OriHimeは外国人にはどう受け入れられていますか。

吉藤

海外の人にも利用されていますよ。でも米国ではほとんど使われませんね。積極的に顔を露出するFacebookが生まれた国ですから、分身であるOriHimeを使う必要がないのではないかと…。

菅野

国内メーカーの家電製品では、ポットに家族の見守り機能を持たせた象印の「みまもりほっとライン」があります。日常使う電気ポットに無線機能を内蔵し、ポットを使うとそのことが離れて暮らす家族に伝わり、結果として安否を確認できるというサービスです。そういった家電に将来、孤独の解消などを目的に人と対話する機能を持たせることはありえると思いますか。

吉藤

私の持論ですが、ロボット自体に人を癒やす力はないと思います。「癒やし」の対局にある「孤独」とは、孤独であることを認識してストレスを感じている状態のことです。友達がいないことがストレスになると、人と会うたびに劣等感を抱いて、ますます人に会いたくなくなるという孤独の悪循環に陥ってしまいます。それを断ち切ることができるのは、ロボットではなく人の力です。私自身、不登校を経験していますが、過去を振り返ると、何か行動のきっかけを得たり、褒められて前向きな気持ちになった時、そこには必ず人が介在していました。とはいえ、引きこもっている人が、いきなり人と対面でコミュニケーションすることは簡単ではありません。そこで、OriHimeを利用したコミュニケーションで、孤独の悪循環を断ち切るきっかけにしてほしいと願っています。

菅野

吉藤さんが人間同士のコミュケーションを重視していることがよく分かります。ロボットに癒やす力を持たせられるかどうかはこれからの研究課題ですが、アカデミアのロボット研究者、特にロボットの身体と知能・感情の研究を展開している研究者はそこをゴールにしているとも言えます。おそらく人間と共生できるロボットの開発には、人間同士のつながりをサポートする機能と、人間とのインタラクションを創発させる機能の2つの方向性があると言えるでしょう。

家族や友人とのコミュニケーションに新しい豊かさを

菅野

スマートフォンが普及して新しい感覚や面白さに出合ったように、OriHimeが家族や友人とのコミュニケーションに新しい豊かさをもたらしてくれるかもしれませんね。

吉藤

私のテーマは、テクノロジーの力で、あらゆる人のための居場所を作ることです。OriHimeの利用者には、ALS※の患者さんがいます。ALSは体がどんどん動かなくなってしまう病気で、それに絶望して生きるのを諦める方が多くいらっしゃいます。でも、大半の方は最後まで目は動きます。目の周りの筋肉の神経信号を読み取ってOriHimeを操作し、人とコミュニケーションすることもできるし、誰かの役に立つこともできます。「寝たきりでも、生きていていいんだ」と自分を肯定し、居場所を作ることができるのです。

菅野

すてきなテーマですね。研究者は、夢を持つことが大切です。創造理工学部の「創造」には、新規性とか独自性といった意味がありますが、そこから連想されるものの究極の姿が「夢」だと思います。ロボットを研究しているとなかなか実用化されないことも多いのですが、ロボット開発はそれだけ難しいことなのです。こうした現実と夢を世の中に発信し、理解を求めていくのも私たちの役割ですね。

吉藤

研究者や開発者は「こんな未来があったらどうだい?」と世の中に問う者だと思っています。その未来を具現化するために、先生は論文を書き、私たちはものづくりをしています。夢を持って、形にしていきたいですね。

※ ALS:筋萎縮性側索硬化症。脳や末梢神経からの命令を筋肉に伝える運動ニューロン(運動神経細胞)が侵される難病。進行すると、手足の麻痺による運動障害、コミュニケーション障害、嚥下(えんげ)障害、呼吸障害があらわれるが、最後まで意識や五感は正常で知能の働きは変わらない。

OriHimeは、日本ALS協会やALS患者とともに研究開発を行っている。ALSは徐々に筋肉が動かなくなる難病だが、眼球は最後まで動くケースが多いことから、眼球の動きでOriHimeを動かしたり、文字を入力できるようにした。患者は、OriHimeを通して、周囲とコミュニ ケーションがとれる。また、家族や友人が遊びに行く際、OriHimeを連れて行くことで、患者と体験の共有もできる。

(『新鐘』No.84掲載記事より)
※記事の内容、登場する教員の職位などは取材当時(2017年度)のものです。

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