Waseda Weekly早稲田ウィークリー

早稲田の学問

〈産官学連携で目指す〉AIと共に生きる(後編)

今、世界を席巻するキーワードの一つが「AI(人工知能)」だ。その進化が私たちにもたらすのは、豊かさか脅威か。内閣府が主催する「人工知能と人間社会に関する懇談会」に参加した政治経済学術院の若田部昌澄教授が、同懇談会でテーブルを囲んだ産官のエキスパートと対談を実施。前編の産学連携に続き、後編では人とAIの共生や、官学が連携する意義について、それぞれの立場で語り合った。

Part 2 学×官

 

 

これからますます問われる、個の考える力

内閣府に設置された「総合科学技術・イノベーション会議(※1)」の有識者議員として政策提言を行う原山優子さん。社会全体を俯瞰(ふかん)する立場から、若田部教授とAIとの向き合い方について意見交換をしていただいた。

※1 総合科学技術・イノベーション会議:内閣府に設置された政策会議(http://www8.cao.go.jp/cstp/)。議長を首相が務め、関係閣僚や有識者が議員として参加。最先端の科学技術について議論を行っている。

総合科学技術・イノベーション会議  議員 原山 優子(はらやま・ゆうこ)さん

フランスの大学で数学を学んだ後、スイスの大学で教育学と経済学の博士課程を修了。ジュネーブ大学経済学部助教授、経済産業研究所(RIETI)研究員、東北大学工学研究科教授を経て、2013年から現職。内閣府の「人工知能と人間社会に関する懇談会」では座長を務めた。

早稲田大学政治経済学術院 教授 若田部 昌澄(わかたべ・まさずみ)

早稲田大学政治経済学部経済学科卒業後、早稲田大学大学院経済学研究科・トロント大学経済学大学院博士課程単位取得退学。2005年から現職。専攻は経済学史。米国の経済学者であるタイラー・コーエン教授の著書『大格差』の翻訳をきっかけに、AIに着目。経済学からAIにアプローチする数少ない研究者として、内閣府の懇談会などに参画している。

技術的議論にとどまらず多角的にアプローチ

若田部 内閣府主催のAIの懇談会では、原山さんが座長となり、AIと社会の今後について議論を行ってきました。

原山 AIは社会的に強いインパクトを持っています。そのため懇談会では技術的側面だけでなく、倫理、法律、社会、経済、教育と多角的な視点からアプローチしました。また、技術的実現性の高い、自動運転、製造業、サービス業、対話・交流の分野で事例を想定しながら議論を深めました。その中で、参加者共通の問題認識として浮かび上がったのが、AIが私たちの生活に入り込み、さらに感情や思考など人の深い部分にまで影響を及ぼすのを無制限に許して良いかということです。そうしたことも含めて、ビジネスや政府、消費者、大学など多様な関係者が接点を持ちながらルールメイキングをし、それをグローバルで共有することが重要と感じます。

ロボット若田部 実際、世界でもその機運は高まっています。米国では政府などがAIに関する報告書を相次いで発表していますし、欧州でも産官学での議論が盛んです。

原山 そうした世界の動きに遅れを取らないためにも、日本全体で議論を熟成させる必要があります。今回の懇談会はその下地づくりの意味も持っています。

若田部 特に最近は安全保障などセキュリティーの分野でAIの注目度が高まっており、メリットとリスクの両面が取りざたされています。

原山 欧米では国際情勢が不安定化することへの懸念から国防費が増加傾向にあり、AIはその有力な投資先となっています。ただ、自国のセキュリティー維持のためにAIは活用したいけれども、無節操に開発を進めれば、核兵器のように人類を脅かす存在になりかねないという懸念もあり、そのあたりはジレンマといえます。単純に割り切れない分野でもあり、透明性を担保しながら議論し、AIの活用方法について社会共通の認識を醸成すべきです。

AIをめぐる国の動き
内閣府が「人工知能と人間社会に関する懇談会」を開催したほか、総務省と文部科学省、経済産業省が合同で「人工知能技術戦略会議」を立ち上げ、AIの研究開発目標と産業化のロードマップ策定を行うなど、2016年度はAIをめぐる各省庁の動きが加速した年となった。また、報道によると2017年度の国の予算案では、概算要求でAI関連の研究に924億円が要求された。これは前年度比で約9倍の規模。

AIと「賢く」付き合うために

若田部 これからの未来を担う学生たちに対しては、どのようなことを期待しますか。

原山 AIに関しては不確実な要素が多いものの、一つだけ確実なことがあります。それは、私たちの生活に浸透する流れは、止められないということです。だからこそ、若い人にはAIとの賢い付き合い方を考えてほしい。例えば私自身、ネットショッピングでコンピューターからすすめられるがまま商品を購入したとき、それを決めたのが果たして自分だったのかどうか、ふと考え込むことがあります。でも本来、何か行動を起こすときには、思考する課程でAIに頼ることはあっても、最終的な判断は一つの人格を持つ自分が行わなければなりません。将来の選択はもちろん、消費者としての日々の行動にもその自覚を貫くことが大切です。

若田部 最近、人の平均寿命が100年に伸びることで、勉強、仕事、引退の3ステージだった従来の生き方から、何歳からでもいろいろな挑戦ができる「マルチステージ」の生き方にシフトするという主張が注目されています。AIはこうした新しい生き方を加速させる一要素になるでしょう。多様な道を選択できる世の中が到来することを考えれば、さまざまなリテラシーを身に付けることが求められます。

原山 若い人には固定観念に縛られず自由に議論してほしい。一方で、年長者の声に耳を傾けることも忘れてほしくないですね。やはり人間の経験に裏打ちされた知見には、それなりの価値がありますから。同様に、AIなど新しいテクノロジーによる知識だけでなく、古典的な紙ベースの知識も含め、バランス良く活用することも大切です。そうすることで、外付けハードディスクのような知能だけでなく自分の知能、つまり考える力が磨かれるはずです。

若田部教授推薦 AIを知るためのガイドブック

左: 『人工知能は人間を超えるか』 (2015年 松尾 豊著 KADOKAWA) 人工知能の第一人者による解説。人工知能は便利な道具だが、映画『ターミネーター』のような世界は出現しないことが分かる 中:『大格差』 (2014年 タイラー・コーエン著 NTT出版) 人工知能の発達で仕事はどう変わるか。人工知能で雇用がなくなることはないが、仕事の性質は大いに変わることを予感させる 右:『人工知能と経済の未来』 (2016年 井上 智洋著 文春新書) 想定を超えて人工知能が非常に発達したらどうなるか。その時に備えて対応できることを示唆している

 >> 前編はこちら

(『新鐘』No.83掲載記事より)

※記事の内容、登場する教員の職位などは取材当時(2016年度)のものです。

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