Waseda Weekly早稲田ウィークリー

早稲田の学問

〈産官学連携で目指す〉AIと共に生きる(前編)

今、世界を席巻するキーワードの一つが「AI(人工知能)」だ。その進化が私たちにもたらすのは、豊かさか脅威か。内閣府が主催する「人工知能と人間社会に関する懇談会」に参加した政治経済学術院の若田部昌澄教授が、同懇談会でテーブルを囲んだ産官のエキスパートと対談を実施。人とAIの共生や、産官学が連携する意義について、それぞれの立場で語り合った。

Part 1 学×産

 

 

テクノロジーの進化で、AIが世の中に大きなインパクトを与える存在に

若田部教授が最初に対談を行ったのは、AI専門のベンチャー企業を立ち上げ、先駆的に取り組んできた株式会社Preferred Networksの西川徹さん。起業家、そしてエンジニアの視点から見たAIをめぐる課題や未来とは…。

株式会社Preferred Networks 代表取締役社長最高経営責任者 西川 徹(にしかわ・とおる)さん

2006年、コンピューター科学を専攻していた大学院生時代に起業。「最先端の技術を最短路で実用化する」を目標に掲げ、全文検索エンジン「Sedue」、連想検索エンジン「reflexa」などを開発してきた。2014年にはAIに特化した「Preferred Networks」を立ち上げ、現職。若田部教授と同じく、2016年に内閣府が開催した「人工知能と人間社会に関する懇談会」の構成員を務めた。

早稲田大学政治経済学術院 教授 若田部 昌澄(わかたべ・まさずみ)

早稲田大学政治経済学部経済学科卒業後、早稲田大学大学院経済学研究科・トロント大学経済学大学院博士課程単位取得退学。2005年から現職。専攻は経済学史。米国の経済学者であるタイラー・コーエン教授の著書『大格差』の翻訳をきっかけに、AIに着目。経済学からAIにアプローチする数少ない研究者として、内閣府の懇談会などに参画している。

「ブーム」の背景にある学習機能の飛躍的進化

若田部 過去にAIが社会的な注目を浴びたことは何度かありますが、最近は加熱気味ともいえるほど議論が盛り上がっています。西川さんは背景をどう捉えていますか。

西川 人が指定した通りのタスクのみをこなす従来型のコンピュータープログラムに対し、AIは経験を基に答えを自ら見出す機械学習の機能を持っている点が特徴です。近年、ビッグデータ(※1)が手に入るようになったこと、コンピューターの計算処理能力が向上したことなどを背景に、ディープラーニング(※2)をはじめ機械学習の中でも先進的とされる技術が実現されるようになったことが、AIの大きな転換点といえます。こうした進化は今までのコンピューターの概念を変え、世の中に大きなインパクトを与える可能性があると捉えています。

若田部 西川さんの会社では具体的に、どのような分野に注目していますか。

西川 2014年に私が立ち上げた会社Preferred Networksでは、主に「自動車」と「産業用ロボット」「ライフサイエンス」の3分野で、AIの核となるIoT(※3)やディープラーニングといった技術の開発を行っています。「自動車」では自動運転が次世代の技術開発の焦点となっていますし、「産業用ロボット」では人間の勘やコツでカバーしてきた“職人技”と称される領域をロボットが代用することが求められています。また「ライフサイエンス」では、膨大な遺伝子解析を実現することで新しいがんの治療法を確立することが期待されているなど、いずれもAIの活用が現実味を帯びている分野ばかりです。一方、世界を見るとAIの開発をけん引しているのは米国のIT企業です。日本も以前から定評のある産業用ロボットの分野で存在感を発揮しつつ、ライフサイエンスなど新しい分野も開拓して、遅れを取らないようにしたいものです。

※1 ビッグデータ:情報通信技術の進展で得られるようになった膨大なデータのこと。移動や消費、ネットの閲覧など、人の行動がつぶさにデータ化されるため、マーケティングをはじめ、さまざまな分野で活用されている。AIの学習や推論に不可欠な要素。
※2 ディープラーニング:深層学習と訳され、先進的な機械学習の手法として位置付けられる。人に指示されなくても、データの何に注目すべきか、どのように分類すべきか、機械が自動的に判断できる。
※3 IoT:Internet of Thingの略。パソコンやプリンターなどのIT機器に限らず、家や車、機械などさまざまなモノがインターネットに接続し、情報交換をする仕組み。

分野を越えたつながりが次なるステージに立つ鍵

若田部 最近、私が気がかりなのは、メディアのAIの取り上げ方です。例えば将来、AIと代替可能な仕事が49%に上るという報告書(※4)が出された際には数字が独り歩きするなど、必要以上に危機感をあおる傾向が見られました。しかし仮に一部の職種がなくなるにしても、AIに関する新たな仕事が生まれるはずです。AIが社会にもたらすメリットを冷静に見極める、あるいは変化する世の中をどのように生き抜くべきか提示する。そうした姿勢が、私たち社会科学者には求められていると感じます。

西川 既存のテクノロジーは人間の一機能を代替してきました。自動車は移動の代替手段ですし、インターネットはコミュニケーションの代替手段です。ただAIには、あたかも人間そのものと置き換わるイメージが付きまとう。それが今、社会に渦巻いている恐怖心の根底にあるのではないでしょうか。でもAIは“プログラム”にすぎず、人間とは根本的に異なる存在です。確かに、コンピューターウィルスに感染すれば、AIが想定外の動きを見せ、人間の脅威となる場合もあります。私たち技術に関わる人間が、そうした現実的なリスクへの対策をきちんと講じつつ、誇大な危機感を解消するための努力をすべきと感じています。

若田部 西川さん自身は、政府の懇談会に出席されるなど、幅広く活動をされています。行政や大学などと、分野を超えてネットワークを構築することにどのような意義を感じていますか。

西川 これまでのIT業界は、とにかく事業化してトライ・アンド・エラーで技術やサービスを発展させていくといった具合に、何よりもスピードが重視されてきました。グレーゾーンでいるほうが柔軟にチャレンジできるため、行政とはあえて距離を置いてきたところもあります。でもAIはライフサイエンスをはじめ命に関わる分野にも影響を及ぼすことから、孤立した立場のままではだめだと思っています。今は政府など多様な関係先と積極的につながって、ネットワークを築くべき段階だと考えています。

若田部 最後に、『新鐘』の読者である学生に向けて、学生起業家としての経験も踏まえ、アドバイスをお願いします。

西川 起業など自分で何かを始めたいと思っている人は世の中の変化をいち早く捉えることが重要です。私自身はMicrosoft社の急成長振りに触発されて、コンピューティングに興味を持ち、その中でも新しい潮目となりそうなAIに着目しました。皆さんも時代の潮流を見極め、新しい可能性に挑戦してみてください。

※4 報告書:野村総合研究所が2015年12月に発表した報告書。現在の国内労働人口の49%がAIで代替できる「可能性」を指摘。AIが「仕事を奪う」と見るか、「将来の人手不足を補う」と見るか、受け止め方で印象は異なる。

>> 後編へ続く(12月26日掲載予定)

(『新鐘』No.83掲載記事より)

※記事の内容、教員の職位などは取材当時(2016年)のものです。

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