Waseda Weekly早稲田ウィークリー

早稲田の学問

校友・寺島実郎 世界の見方 〈後編〉

テレビや新聞、雑誌、著書など各種メディアを通して、政治、経済、外交、宗教といった幅広い視点から提言を続ける寺島実郎さん。豊富な文献探索と濃密なフィールドワークで養われたその目に、現在の世界情勢はどう映っているのか。「グローバル」をいかに読み解けばいいのか。今我々は何をすべきなのか。前編に続き、活動拠点である寺島文庫で行ったインタビュー後編では、潮流を見極めるために必要なことをうかがった。

日本総合研究所 会長 寺島 実郎(てらしま・じつろう)さん

1947年北海道生まれ。1973年早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了後、三井物産入社。イランでの巨大石油化学プロジェクトに関わったことをきっかけに、中東・エネルギー問題を探求。10年にわたる米国勤務などを経て、帰国後は企業内シンクタンク「三井物産戦略研究所」を立ち上げる。現在、日本総合研究所会長、および多摩大学学長。メディアへの出演や文筆活動のほか、行政関連の有識者活動も豊富。

「傾向と対策」だけでは生き抜けない

──新たな秩序が形成されつつある世界の中で、問題の本質を見極め、力強く生き抜くためには何が必要でしょうか。

寺島文庫には今、5万冊に上る蔵書があります。決して趣味で集めたわけではありません。若い頃から世界を動く中、世界規模の問題と向き合ったり、宗教や各国の文化などに対する理解を深めたいと必死に本を読み漁り、思索を巡らしてきた。蔵書はそんな私の足跡そのものです。

今はどんな場所にいても膨大な情報ネットワークにアクセスできる時代。分からないことがあっても、検索一つですぐに答を導けます。ただ、私の若い頃に比べ、情報量が膨大になっても、個人の知識量が増えた、あるいは課題解決力が向上したかといえば、そうではありません。仕事、学問、恋愛と、生身の人間同士がぶつかり合う中で、簡単に心が折れてしまう若者を何度も見てきました。

また、日本に「グローバル化疲れ」ともいえる空気が漂っている点も気掛かりです。海外で文化や価値観の違いに苦労しながら勉強したり、働いたりしても、成功が保証されているわけではありません。リスクを冒すよりも日本で暮らすほうが効率的。そんな考えが強くなっているように感じます。

しかし、利便性や効率性だけを優先し、「傾向と対策」だけで生きてきた人間は結局、問題の本質をつかむことはできない。これが私の持論です。学生の皆さんには、死にものぐるいで何かに取り組む経験をしてほしいと思います。特に手間暇を惜しまず、そしてリスクを恐れずに努力をしなければ、良質な情報にアクセスすることはかないません。広い視野を持ち、自分で考え、行動し、時代の潮流を見極める。そうして見出した活路に人生をかける。その覚悟を持って物事に挑むことが大切です。

一方で、若い皆さんに世界へ目を向けてもらうため、教育の力、大学の力が試されているようにも思います。新しい世界の見方を提示して見せるような、今の時代にこそ求められる真に価値ある研究を発掘し、サポートする。早稲田大学にはそんな姿勢を期待しています。

私たち団塊の世代にも果たすべき役割があります。かつて学生運動に身を投じた世代が、社会人の現役を引退して余生を謳歌(おうか)するだけであれば、無責任極まりない。日本の未来を担う若者たちのために覚悟を持って立ち上がることを、私は同世代に向けて訴えていくつもりです。

「時間軸」と「空間軸」で世界を捉える

──時代の潮流を見極めるというのは、非常に困難なチャレンジだと感じます。最後に、そのためのヒント、アドバイスがあれば教えてください。

まず興味のあるテーマについて、一冊ノートを作ってみてください。自ら努力してアクセスした良質な情報を書き溜めていくのです。そして1年ごとに読み返してみてください。自分の成長と1年前には分からなかった新たな気付きが必ずあるはずです。新しく得た情報を付加しながら、自己の考えを練磨していってください。

そうした作業の中で、私自身は「時間軸」と「空間軸」の二つを意識しています。時間軸とは、人類が積み重ねてきた膨大な歴史の流れの中に、自分の生きる「今」を位置付けることを指します。一方の空間軸とは、広い世界の中で自らが身を置く地域は、どのような特性を持っているか、周辺地域との関係もふまえ、見極めることをいいます。

このように、目の前で起こっている出来事のみにとらわれるのではなく、必ず二つの視座を意識し、物事を立体的に捉える。学生の皆さんには、そうやって「全体知」を探究する努力をしながら世の中を見つめ、ひるむことなくグローバルな舞台を志してほしいと願っています。

寺島さんの近著

シルバーデモクラシー『シルバー・デモクラシー 戦後世代の覚悟と責任』
(2017年1月 岩波新書)
人口の約4割が65歳以上となる高齢者社会を見据え、シルバー世代が貢献する新たな参画型の社会を考察。戦後民主主義と高度成長の恩恵を受けてきた寺島氏と同年代の団塊の世代が、今何をすべきか、後世に何を残すべきか、提言する。

 

 

 

★中東・エネルギー・地政学_表紙データ最終『中東・エネルギー・地政学』
(2016年9月 東洋経済新報社)
三井物産に入社後、中東、アメリカを中心に欧州など、世界と深く関わってきた経験を語りつつ、今世界で何がおきているかを整理。宗教対立、グローバル・ジハード、エネルギーとしての原子力、アメリカの外交政策など、現代を動かす重要な要素のそれぞれがどう絡み合っているかを読み解いていく。

 

 >> 前編はこちら

(『新鐘』No.83掲載記事より)

※記事の内容は取材当時(2016年)のものです。

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