「逆境の中ほど、ワクワクしてしまう。そんなマインドが根付く会社です」
就職活動において、採用側はどのような人材を求め、学生のどこに注目しているのか? 多くの学生が気になるところでしょう。そこで、今回は早稲田ウィークリーレポーター(SJC学生スタッフ)が「星野リゾート」の人事採用担当者に就職活動の素朴な疑問を伺いました。
星野リゾートといえば「星のや」「リゾナーレ」「界」をはじめとする、個性的な宿泊施設で知られるホテル・リゾート運営会社。インタビューを担当したSJC学生スタッフの長谷川拓海さん(教育学部4年)は、今回のインタビューを通し、先行き不透明な世の中に適応し、チャレンジを続ける星野リゾートの企業文化に触れることができたようです。
株式会社星野リゾート・マネジメント
人事グループ キャリアデザインサポートユニット ユニットディレクター
鈴木 麻里江(すずき・まりえ)さん

(左から)鈴木さん、インタビュアーを務める長谷川さん。星野リゾート入り口にて
長谷川:コロナ禍でいまだ観光産業が厳しい状況に置かれています。こうした時代の中で御社の強みはどのようなところにあると思われますか?
鈴木さん 一つは「難題に挑戦する」マインドセットがあるところです。というのも、星野リゾートがホテル・リゾートの運営会社としてスタートを切った最初の20年間に、いわゆる「再生案件」に向き合ってきた経緯があります。経営難に陥ったホテル・リゾート施設の再生に挑戦するというもので、運営会社として力をつけるのが目的でした。ですから、難易度の高い挑戦に向き合うときは、今でも少しワクワクしてしまうのです。コロナ禍においては、代表の星野佳路がユーモアを交えて自社の倒産確率を社内ブログで発信し、現状を伝えました。どのような状況でも経営情報が共有されることで、全国の社員は必要とされる行動を自ら考え頑張ってこられたと思います。
とはいえ、マインドセットだけでビジネスは成り立ちません。数字などの明確な根拠を基に、中立的な視点で打つ手を考えることも重要です。そのような行動を支援し評価する制度があることと、「難題に挑戦する」マインドセット。この二つを持ち合わせているのが星野リゾートの強みの一つではないでしょうか。
長谷川:御社の社風を教えてください。
鈴木さん ホテル・リゾート運営において、お客さま一人一人に合わせたサービスを提供するためには、社員の「気付き」が大切だと思っています。それがお客さまへの良い提案につながるからです。しかし、社員間に上下関係があるとコミュニケーションが円滑に進められず、気付きが埋もれてしまう可能性がありますよね。だからこそ“フラット”な組織であることを大切にしています。私は京都の宿泊施設での勤務が長かったのですが、日々の顧客対応や、施設戦略の検討など、さまざまな場面において、お互いを尊重し合いながら年次関係なく意見を出し合っていました。また、フラットな関係性は会社と社員の間にも当てはまります。企業と個人がそれぞれ自立し、「マチュア(成熟した)」な大人として対等な契約関係の下に支え合いましょう、ということです。
長谷川:現在、力を入れて取り組まれている事業や、今後のビジョンはどのようなものがありますか?
鈴木さん 星野リゾートのビジョンは「Globally Competitive Hotel Management Company (世界で通用するホテル運営会社)」になることです。
世界には数兆円規模のホテル運営会社が存在していますが、グローバル市場で戦える日本の企業はまだありません。一方、日本には「おもてなし」や温泉旅館など独特のサービス文化があり、ここに価値を見いだす外資系企業は多くあります。このままでは、国内の多くの旅館を外資系企業が運営することになってしまう。日本独特の文化を理解する企業がグローバル市場で戦っていかなければその文化自体が消失する可能性もあるわけで、それは悔しいことですよね。

得意とするもてなしの技に加えて、機能性や利便性において西洋型のホテルに負けない宿を目指し、東京・大手町に開業した日本旅館「星のや東京」
最近、星野リゾートが5年以内に北米で温泉宿を開業する計画を発表しました。これは外資系企業と戦うための一歩。そして、現在力を入れて取り組んでいるのが、この基盤となる「国内のブランド確立」です。私たちが目指すのは「旅を楽しくする会社」というブランドであり、より幅広い旅の選択肢を提案していきたいと考えています。この目標に向け、都市型観光ホテルの「OMO(おも)」や「居酒屋以上 旅未満」がコンセプトの「BEB(ベブ)」といった、手の届きやすい価格で幅広い旅の提案を行うようなブランド展開をしています。
海外展開については、既に台中(台湾)や浙江省(中国)、バリ島(インドネシア)、ハワイ(米国)などで施設を運営していて、今後も国内外で施設が増えていくでしょう。社員の駐在勤務の機会も増えるため、現地でマネジメントの仕事を担う人材を早期に育成したいと考えています。
写真左:「居酒屋以上 旅未満。みんなでルーズに過ごすホテル」がテーマの「BEB5軽井沢」。遊び心あふれる客室とラウンジに、24時間営業のカフェ。飲食物の持ち込み推奨という気軽さが学生にも人気
写真右: 台湾第二の都市、台中の郊外にある温泉地・谷關(グーグァン)に、ラグジュアリー温泉リゾートとして 「星のやグーグァン」を開業
長谷川:キャリアパスの支援制度にはどのようなものがありますか?
鈴木さん 星野リゾートでの仕事は、変化する顧客のニーズを捉え提案し続ける、言わば終わりのない、究めがいのある仕事だと考えています。お客さま自身も気付いていないニーズに肉薄するには、社員自身が人として磨かれている必要があるからです。
例えば、新しい制度に「マイスターコース制」があります。入社時に「サービス」「マネジメント」などキャリアの入り口を決めてもらい、その道を究めるべく、研修を積んでいくというもの。マネジメントマイスターコースでは入社後の2年間で最大4カ所の施設もしくは人事などの間接部門を経験し、会社の事業内容を幅広く理解します。将来的に、どんな「マイスター(匠(たくみ))」を目指すかを考えてもらうのがこの制度の狙いです。
他にも社内ビジネススクール「麓村塾(ろくそんじゅく)」や、スキルアップなどを目的に最長2年間休職できる「学習休職制度」などさまざまな制度があります。 私自身も「学習休職制度」を利用しました。大学時代は美学を専攻し、ビジネスについては何も知らなかったため、あらためて経営学の基本を学びたいと考えたのです。約1年の休職期間で大学に通いMBA(経営学修士)を取得できたのは、この先の長い人生においても良い経験になったと思います。

スキル習得を希望する社員に向けて、経験を持つ社員が講師となり知識の共有を行う社内ビジネススクール「麓村塾」。マーケティング講座からワイン講座まで幅広い講座のラインナップが特徴
長谷川:今後、御社で活躍できる人材とはどのような人だと思いますか?
鈴木さん 今は「明日何が起こるか分からない」時代です。そもそも、どうしたらこの時代を生き残れるでしょうか? 私たちが考えるのは、変化する世界にしなやかに対応するスキルを持つことです。そして、それを支えるには確かな経験と自己理解が必要。自分はどんな人で、何を大事にし、何ができ、何ができないかを理解したうえで未来に向かって変化していける人材を求めています。
また、星野リゾートには「難題に挑戦する」マインドセットがあるとお伝えしましたが、必ずしも全員に同じような志向があるわけではありません。さまざまなお客さまにサービスを提供する仕事ですから、多様なバックグラウンドを持つ人材に活躍してほしいと思っています。
長谷川:御社のインターンシップや採用方法の特徴などを教えてください。
鈴木さん 昨年実施したインターンシップでは、学生の皆さんと一緒に「そもそも星野リゾートの現状の課題は何か」ということを考えました。これは、星野リゾートで働く上で必要とされる「課題創出」のプロセスを体験してもらうことで、組織文化を体感いただくことが目的でした。
2023年卒向けに2022年2月に実施したインターンシップでは、希望者が全員参加できる大人数制のオンライン形式と、5~10名の学生で行う対面のフィールドワークなどを開催した
採用は、企業が一方的に相手を選ぶのではなく、お互いにマッチングを確かめ合うプロセスであると考えています。また、事実上の通年採用であることも特徴です。エントリー時期は春、夏、秋にありますし、新卒の方がキャリア・中途採用の窓口からエントリーされる場合があれば、時期に限らず一度書類の内容を拝見し、相互理解を深める目的でお話を伺うこともあります。

「リゾート再生請負人」とも呼ばれ、その経営手腕が大きく評価されてきた、星野リゾート代表の星野佳路氏。2023~24年にかけて、阿蘇、別府、霧島につづいて由布院、雲仙と温泉旅館ブランド「界」が九州に開業するニュースが話題に!
私自身、入社は大学卒業の1年後でした。一斉に始まる就職活動の流れに乗って入社を決めることは、自分にとって重要ではないと考えたからです。そこで、1年間、学生という肩書きを捨てて納得できるまで、自分のペースで将来と向き合おうと決めました。その結果、自分が本当にやりたいことに出合えたと思っています。
長谷川:今後就活が本格化する2024年卒業の学生はコロナ禍で制限された学生生活を送り、就職活動にも影響が出ているように思います。そんな就活生に向けてアドバイスをお願いします。
鈴木さん 制限の多い学生生活を過ごされた皆さんは、自分は何が好きで、何をしたいかを知るための情報が限定的にならざるを得なかった可能性があると思います。その中で、自分とマッチングする企業を選ぶのは難易度が上がっているかもしれません。しかし、だからこそ持ちうる情報を駆使して多角的に捉えよく考え、表面的な印象やトレンドに流されることなく、自分が納得した状態で丁寧に選択していってください。それを諦めなければ、きっと思いがけない出合いが待っているはず。ぜひ、多様な選択肢に目を向けて挑戦をしていってほしいと思います。
2021年早大卒の新入社員に聞いた、就活から入社後までの理想と現実
人事グループ キャリアデザインサポートユニット 真野 紗英子(まの・さえこ)さん
(2021年9月 スポーツ科学部卒業)
旅を通して人々を前向きな気持ちにさせたくて、星野リゾートに決めました
「マネジメントマイスターコース」に所属し、「リゾナーレ八ヶ岳」で8カ月間サービス業務に携わった後、2期目となる現在は人事グループキャリアデザインサポートユニットで採用に関わる業務を担当しています。
学生時代はバックパッカーとして東南アジアを巡るほどの旅好きでした。将来は「地域ならではの魅力を伝え、人々に前向きなきっかけを与えたい」との思いから観光や鉄道、不動産などの業界を中心に就職活動を行いました。また、就活当時はコロナ禍で多くの会社の経営が傾いていたとき。大好きなお店がある観光地の活気も失われていて、そんな観光業界に貢献したいという思いがありました。中でも星野リゾートを選んだのは、コロナ禍に自宅から1〜2時間で行ける「マイクロツーリズム」という新しい旅の形を提案していたことがきっかけです。遠くに行くことや非日常の体験こそ旅の醍醐味(だいごみ)だという思い込みが覆されました。自分もこんなふうに新しい価値観を発信したいと思ったのです。

真野さんが入社直後から8カ月勤務した「リゾナーレ八ヶ岳」。2001年に開業。この施設の成功が星野リゾートの飛躍のきっかけとなった
入社前から、「社員同士がフラットな関係で、新人も自由に発言できる企業」だと想像していました。働き始めると、周囲には1年目の私の意見も快く聞いてくださる先輩ばかり。同時に、ただの思い付きではなく、根拠を示して提案をしなければ、本質的な改善にはつながらないことを思い知りました。想像以上に個々のスキルが施設運営に反映される環境に驚いています。
今後の目標は、スポーツ科学部で学んだ知識を生かし、旅に出ることで心身共に健康になれるような企画を提案すること。そのためにも、マネジメントや経営の視点を養い、企画力やプロジェクトマネジメントのスキルをしっかり身に付けたいと思います。

【株式会社星野リゾート・マネジメント】 1914年創業。世界で通用するホテル・リゾート運営会社を目指し、「星のや」「リゾナーレ」「界」「OMO」「BEB」など国内外に約60の施設を展開(2022年6月時点)。各地域が持つ魅力の発信や利用者一人一人に合わせたサービスの提供を通し、旅の新しい価値を提案し続けている。観光産業が厳しい局面を迎える中、株式会社学情「2023年卒 就職人気企業ランキング【速報】」21位に。また、株式会社マイナビ「学生が選ぶ インターンシップアワード 2022」入賞
取材を終えて~コロナ禍で目立った活動ができなくても、その中で何を考え学んだのかという思考プロセスをきちんと見てくれる企業
教育学部 4年 長谷川 拓海(はせがわ・たくみ)

「勢いとホスピタリティにあふれている星野リゾート。今回話を聞いて、よりイメージアップしました」
新型コロナウイルス感染症拡大により、観光業界は打撃を受け、苦境が続いています。そのような状況下で、星野リゾートでは「逆境マインド」と「明確な根拠」をもとに、新規施設の開業など挑戦を続けており、その姿勢に魅力を感じました。これから就職活動が本格化する2024年卒の学生は、コロナ禍で制限された学生生活を送り、エントリーシートの記入に苦労する学生も多いかもしれません。今回、人事担当の鈴木さんから話を聞き、エピソードの内容以上に「過去にどんな体験をし、何を考え学び、それを踏まえこれから何をしたいのか」、その思考プロセスがエントリーシートや面接の場で求められていると感じました。
取材・文:萩原あとり
撮影:布川航太
【次回特集予告】6月27日(月)公開「授業特集」