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次なる大災害に社会はどう対応するのか

災害対策における、地域的最適解を追究する

「地域の災害対策や復興において、従来の方法は通用しなくなりました」。ショッキングな言葉で語り始める文学学術院・浦野正樹教授は、災害対策における「地域的最適解」を追究する社会学者だ。東日本大震災を受け、私たちは社会のあり方を見つめ直さなければならない。どのような視点を身につけるべきか。浦野教授に問う。
※写真上 宮城県沖地震の地滑りの写真(1978年)

Profile
浦野正樹
文学学術院教授
1950年東京都生まれ。1973年早稲田大学政治経済学部卒業。1981年早稲田大学文学研究科修了。財団法人未来工学研究所研究員、早稲田大学文学部助手、専任講師、助教授などを経て、1994年より早稲田大学文学部教授。現在文学学術院教授。日本都市学会会長、社会学系コンソーシアム理事長、日本社会学会理事(防災学術連携体担当)、震災問題研究ネットワーク代表。

社会学の視点から見つめる被災地のリアリティ

家族、地域社会、都市、環境、情報メディア、文化に至る、幅広い領域を対象とする社会学。日本社会学会で理事を務める浦野教授は、その広範な研究成果を生かした災害対応・復興の研究プロジェクトを推進している。

「プロジェクトの目的は、東日本大震災発生以来、社会学が蓄積してきた調査成果に基づいて、災害復興の地域的な最適解を明らかにすること。そして、現在予想される大規模災害に備えて、政策提言を行うことです。学内外の研究者を集め、2019年より進めています」
※写真左 大槌町城山から市街地を望む(2019年)

東日本大震災の被災地となった各地域は、環境条件や被害状況が全く異なる。こうした社会構造の違いに適切に対応しながら、地域を再建していくためには、従来の手法では限界があるのだ。

「この10年で明らかになったのは、政府によるトップダウンかつ画一的な復興政策が、被災地にさまざまな問題や膠着をもたらしたことです。復興をめぐる住民間の対立、予想以上の人口減少と産業衰退、各地域の歴史文化を無視した事業が住民にもたらした無力感など、多くの課題が見えてきました。その実態を明らかにするのが、災害を対象にした社会学者の使命です。最適解を探ることは、南海トラフ巨大地震や首都直下地震など、新たな大災害が予想される現在、急務だと考えています」

“自然現象”か、“社会現象”か。災害に対する認識が地域を変える

社会学の調査が明らかにした、具体的な教訓とはどのようなものなのだろうか。浦野教授は四つの重要な視点が求められると語る。一つ目は、災害と社会システムの密接な結びつきを認識することだ。
※写真右 震災遺構(気仙沼向洋高校)

「災害が起こると、地震や津波の規模そのものが注目されがちです。しかし本当に重要なのは、被害がもたらされる社会のシステムです。人間がいない場所を大津波が襲っても、それは災害ではありません。新型コロナウイルスも、グローバル化や都市化による人口密集が課題なのであって、人里離れた孤島で発生したとしたら、国際問題に発展しなかったはずです。つまり、被害がどのように拡大し、その後どのような影響を及ぼすかは、各地域の社会システムに依存するということ。まずは社会構造を解明し、大災害に対する認識と対応を考えていくことが重要になるのです」

二つ目は、日常と非日常の両方に対する想像力だ。日常における社会や生活の課題を、非日常に置き換えて考える。また、非常時の対応を、日常の課題を踏まえて考える。この二つの想像力が、災害発生時の対応を大きく変えるのだという。

「例えば、日頃から高齢化による孤独死が問題になっている地域があるとします。その地域は災害発生時、高齢者が孤立し、生活物資の供給が難しくなるような問題が生じる可能性が非常に高い。つまり、日頃からの課題が、災害時に十倍、百倍になって、地域社会に襲いかかってくるのです。非常時のことだけを想定した災害対策やシミュレーションは、効果的ではないといえます」

時間と空間における対応のシームレス化が求められる

三つ目は、日常と非日常の境界を、明確に線引きしないという考えだ。政策において、日頃の防災・減災対策から、災害発生、復興に至る「段階」は、今日の日本では明確に区分されている。この各段階を、ギアチェンジを繰り返すように、細かく行き来すべきだと、浦野教授は説明する。
※写真左 阪神大震災(火災で焼けた建物の映像)

「災害対策基本法では、避難所の設置を6カ月と定めています。復興政策も、一定の期限が設けられているものがほとんどです。しかし実際の地域には、もっと微妙な移行段階のようなものがあり、時限式の政策が機能しないことが多い。予算や施策に終わりがあるのは仕方のない部分もありますが、これからの復興政策は、各地域が次に移行する段階を見据えたものでなければなりません」

こうした時間的区分に加え、空間的区分の融通性も高めなければならないというのが、四つ目の視点である。各地域の境界を越える、「多重的な防災」と「重層的なケア」が必要だ。

「原発事故における避難区域の設定は、人々の生活、さらに賠償額までが、道一本で大きく変わるという問題を引き起こしました。明確な境界を設定しようとする政策自体が、社会の分断や亀裂を引き起こすのです」

浦野教授は、これらの視点を、日本学術会議などでの活動を通じて政府に提言するとともに、シンポジウムでの民間への普及にも努めている。

多発する自然災害は地域のあり方を変えてきた

浦野教授の研究対象は地域社会学。環境による社会変動が中心であり、かつて災害対応は副次的なテーマであった。しかし、地域を根底から変えてしまう、災害という研究領域の重要性は、時代を降るにつれて増してきたという。
※写真右 大槌町安渡地区アーカイブ展をみる地元の人びと

「かなり前から、地域における自主防災組織などを研究していましたが、本格的に災害研究を始めたのは、雲仙普賢岳噴火や阪神淡路大震災が発生した1990年代からでした。地域社会が総力をあげて災害に立ち向かわなければならない時代に突入する中で、何が最適解になるのか? この命題は、地域社会学を研究する者として無視できなくなったのです。そして起こったのが、2011年の東日本大震災でした」

地域社会研究で最も重要なのは現場に対する想像力

2011年からの10年間、浦野教授は、早稲田大学の「地域社会と危機管理研究所」で所長を務めてきた。同研究所は、学内外の研究者が集まり、地域社会の災害対策やリスクを考える組織だ。災害対策において、大学は今後、どのような責務を果たすべきなのであろうか。
※写真左 現地調査のミーティングの様子(岩手大学麦倉ゼミと)

「コロナ禍を受け、大学は大きな方針転換を迫られました。しかしそれは、悪いことばかりではないと思います。例えば、被災地と大学をオンラインで結ぶこと。災害が起きた際に、現場に研究者が赴き、地域の状況や人々との対話を教室に配信することができれば、学生の被災地に対する理解を深めることができます。学生同士がつながるのも有効でしょう。未来社会を担う学生が、現場のリアリティを知り、想像力を高めることは、日本にとって非常に重要なこと。これまでテレビでしか実現できなかったことが、パソコン一つでできるようになったのです」

地域社会研究で最も重要なのは想像力。このことは研究にも共通する。

「もちろん、地域社会の研究者にとって現地調査は重要な手段です。しかし、物理的制約もあるのも事実で、現場の課題を研究者らが持ち寄って討議を重ね、それぞれの現場のリアリティを汲み上げながら、解決する筋道を考え、現場にいる人々と共有しながら具体的な解決策を探っていく。その際、想像力を働かせることができなければ、練り上げられた災害対策は『外からのアドバイス』で終わってしまい、現場と共有し一緒に活動して状況を変化させていくことはできません。オンラインで現場の実情を知り知恵を共有しうる手段が増えたことは、研究が社会に貢献する可能性を広げることになるでしょう」

浦野教授が参画する早稲田大学総合人文科学研究センターが2021年1月9日開催した年次フォーラム「東日本大震災10年の軌跡と大規模災害からの復興をめぐってー新たな「日常」への模索-」第1日目の様子を、動画コンテンツとして視聴することが可能です。詳しくは以下のURLよりアクセスのうえお申込みください。

総合人文科学研究センター年次フォーラム第1日目(1月9日開催)の動画コンテンツの視聴について [視聴期限2021年3月25日迄]


同フォーラム動画コンテンツの概要説明はこちらをご参照ください。https://www.waseda.jp/flas/rilas/assets/uploads/2021/01/Forum-Program-Vidio-ver.2.pdf

大槌町城山から市街地を望む_2019年

阪神大震災 火災で焼けた建物の映像

大槌町安渡地区アーカイブ展をみる地元の人びと

現地調査のミーティングの様子 岩手大学麦倉ゼミと