「前近代イスラーム社会知識人再考」第5回研究会(2017年11月18日開催)
◆場所:早稲田大学9号館103教室(イスラーム地域研究機構共同研究室)
◆参加人数:6名
◆内容:イブン・ハルドゥーン自伝における『歴史序説』のアサビーヤ論の応用例について検討した。ここは、マムルーク朝君主バルクークが一時廃位されたナースィリーの乱に関する箇所だが、それに先だってマムルーク朝成立からの歴史が説明される。その際イブン・ハルドゥーンは、連帯意識を共有する連帯集団の多寡が国家の消長に決定的な役割を果たすという、彼の有名な理論をマムルーク朝の歴史にも適用する。一般にアサビーヤ論はマグリブのベルベル系部族の王朝交代をもとに発想されたと考えられており、部族集団の連帯意識が注目されている。しかし、マムルーク朝は部族集団を核とした政権ではない。そこでイブン・ハルドゥーンは、アサビーヤ論に当初から組み込まれていた血縁関係によらない主従関係による連帯意識をマムルーク軍人とその主人との間の関係に適用し、マムルーク朝政治史を読み解こうとする。自伝の本筋から大きく逸脱するこの記述は、イブン・ハルドゥーンが直接経験した現実政治に、自らの歴史理論を応用しようとする試みとして、注目に値する。(文責:佐藤健太郎)