「前近代イスラーム社会知識人再考」第5回研究会(2017年2月27日開催)
◆場所:早稲田大学120-4号館311教室
◆参加人数:9名
◆内容:イブン・ハルドゥーンが持っていた占星術の知識について検討をおこなった。イブン・ハルドゥーンは『歴史序説』において、占星術に対して懐疑的な姿勢を示している。しかしながら、彼がこの方面の知見をまったく欠いていたわけではない。彼の周囲には、哲学の師アービリーやユダヤ人医師イブン・ザルザルなど占星術に通じている者もいて、天文現象の予測やそれが地上世界に及ぼす影響などについて情報交換をすることもあった。こうした占星術の知見の中には、木星と土星の合が強大な征服者の到来を示すというものがあり、イブン・ハルドゥーンはティムールとの会見に際してこの現象がティムール自身の出現を予言していると解釈してみせて、その歓心を買おうとしたこともある。これはイブン・ハルドゥーンや同時代の知識人が、狭義の宗教諸学にとどまらない多様な知を身につけていたこと、そしてそれらが知識人の処世術のひとつでもあったことを示しているといえよう。なお、ティムール朝のペルシア語史書においてティムールは「合の持ち主(サーヒブ・キラーン)」と呼ばれている。これはイブン・ハルドゥーンの解釈と異なり金星と木星の合に由来するものだが、いずれにせよ占星術と宮廷知識人との密接な関連を物語るものである。マグリブなどアラブ地域における同様の事例についてはさらなる検討が必要であろう。 (文責:佐藤健太郎)