「前近代イスラーム社会知識人再考」第4回研究会(2017年1月21日開催)
場所:早稲田大学120-5号館124会議室
参加人数:10名
イブン・ハルドゥーンのモンゴル史理解について、彼の著作を通して検討した。モンゴル軍がバグダードのアッバース朝を滅ぼして西アジアを席巻したのは、イブン・ハルドゥーンの時代からわずか百年あまり前のことに過ぎないが、彼のモンゴル史理解は必ずしも正確とは言えない。チンギス・ハーンの最期や、最初にイスラームに改宗したイル・ハーンの名などに錯誤が見られるのである。また彼と同時代のティムールに関しても不正確な記述が散見される。イブン・ハルドゥーンの著作を通して、東西アラブ地域の間に知識や情報の交換に一定の限界があったことはこれまでの研究会で明らかになってきたが、より東のイランや中央アジアについてはさらに大きな隔絶があったと言える。ただし、彼が晩年まで手元においていたと思われる『自伝』写本の余白には、ティムールが推戴していたチンギス裔のハーンの名の誤記を修正しようとした書き込みが見られる。こうした地域差をイブン・ハルドゥーンが埋めようと努力していたことも認めなければならないであろう。
(文責:佐藤健太郎)