「前近代イスラーム社会知識人再考」第2回研究会(2016年11月2日開催)
場所:早稲田大学120-4号館405
参加人数:10名
前回に引き続き『イブン・ハルドゥーン自伝』に引用される書簡を通して、14世紀のマシュリク・マグリブ間でおこなわれた知識人同士の交流について、検討をおこなった。今回はグラナダの大カーディーを務めたアブー・ハサン・アリー・イブン・ハサン・ブンニー(1313−4年〜1391年以降没)からイブン・ハルドゥーン宛の書簡を検討した。
本書簡はイブン・ハルドゥーンから手紙対する返信として書かれ、彼の大カーディー職からの解任についての慰めの詩を含んでいる。目を患っていたブンニーは本文は代書してもらい、直筆の短い追伸で最近のマグリブ事情を伝えた。ハルドゥーンは、この情報を『実例の書』本文にも記しているが、情報の確認のためにあえて『自伝』にも引用した。
本書簡は、マグリブとマシュリク両地域の間を移動するメッカ巡礼者や商人などを通じた情報交換の在り方をよく示す。また、個人的な書簡の内容を『自伝』に記すことが、単に個人的な交流や個人史を示すことを目的としておらず、当時の事件の歴史的証左に用いようとする点は、イブン・ハルドゥーンが目指す客観的歴史叙述とその方法をよく表しているといえよう。
(文責 吉村武典)