「前近代イスラーム社会知識人再考」第1回研究会(2016年10月16日開催)
場所:早稲田大学120-4号館405
参加人数:8名
『イブン・ハルドゥーン自伝』に引用される書簡を通して、14世紀のマシュリク・マグリブ間でおこなわれた知識人同士の交流について、検討をおこなった。
イブン・ハルドゥーンは1382年にエジプトに居を移すが、それ以降もマグリブやアンダルス在住の知人・友人との間には書簡による交流が続いていた。例えば、グラナダのナスル朝に仕える文人宰相イブン・ザムラク(1333〜1395)は、1387年付けの書簡において、クルアーン解釈学の書籍を冒頭部分だけでもエジプトからグラナダに送付するようイブン・ハルドゥーンに依頼している。これは、数千キロメートル離れた地域間であっても知識人のネットワークを通して知の交流が成り立ち得たことを示す証言である。しかしその一方で、クルアーン解釈学の書籍は一般に大部なために、この書簡では冒頭部分のみの送付を依頼していることにも着目しなければならない。ここには、東西アラブ地域間の知の交流の限界もあらわれているのである。