公募研究「イスラームと観光」の構成員である安田慎氏(帝京大学)が、3月6~13日、モロッコに出張しました。
本調査は2016年3月6日~13日の日程で、モロッコのカサブランカとマラケシュを対象に、イスラームと観光の関わりの現状をフィールド調査で把握することを目的に行った。具体的には、(1)観光活動におけるイスラーム文明遺産の保全・振興の動き、(2)モロッコ観光におけるムスリム観光客対応、の2点に内容を絞って調査を実施した。
(1)のイスラーム文明遺産の保全と観光の関わりについては、宗教建造物・実践はあくまでもムスリム内部の信仰対象やライフスタイルに留まるものであり、ムスリム/非ムスリム問わずに観光という形で「外部」に対して広かれたものではない点を確認した。むしろ、観光との関与を徹底的に否定することによって、モロッコとしての地域的独自性を担保しようとする姿勢が強いことを伺うことができた。それを示すように、他の地域では活発に見られる観光客への宗教遺産の解放や、宗教グッズの展示や販売といった現象を一切見ることができなかった。その「閉鎖性」こそが、モロッコ・イスラームを担保するひとつの原動力になっていると考えられる。
(2)のムスリム観光客対応についても、欧州を中心とする観光客が圧倒的多数を占めるなかで、積極的な対応は見られないことを確認した。むしろ、欧米人観光客の好む景観や観光活動が活発に展開されるなかで、地域住民がそれらの観光活動にパフォーマーとしてではなく、消費者として参加している点が興味深い点としてあげられる。むしろ、これらの地域住民と観光客が相互に交わるスペクタクルの場が観光活動のなかで広がりを見せることで、モロッコにおけるムスリム個人やイスラーム社会の主体的な変質を迫る原動力となってきた点が明らかとなった。
以上より、モロッコではイスラームと観光の間の明示的な連関を見て取ることはできなかったが、欧米人観光客を中心とした外部との関わりのなかで、むしろ地域性を強めていることを確認した。