ムスリム観光客:観光産業への好機と挑戦
「イスラームと観光」研究班では、シンガポール南洋理工大学からジョアン・C・ヘンダーソン准教授をお招きし、アジアにおけるハラール関連観光産業の背景と近年の発展についての講演会を開催した。報告では、産業そのものに加え、ビジネススクールにおける現況を踏まえて、実際の体験を紹介しつつ明快な分析を行った。はじめに、「イスラーム観光」をムスリムがイスラーム的な目的、あるいは余暇を含む非イスラーム的な目的で行った旅を指し示す包括的な述語として定義し、ハラールなどの基礎的な概念やその認証に関わる問題について述べた後、シンガポール、マレーシア、イギリス、日本におけるイスラーム観光の発展の比較が行われた。日本の官民諸部門は、その一年で3000万人の観光客が訪れると予想されている2020年の東京オリンピックに熱心に備えており、ムスリム観光客のニーズに合わせる必要性の高まりが感じられる。ヘンダーソン教授の報告は、この時勢に合うもので、フロアからの質問のいくつかは、日本人のおもてなし産業がそれにあわせてどのように変化すべきであるかという点に関するものであった。教授は、ムスリムの多様性について理解し、個人の選択に委ねられる事柄を過度に一般化しないことが重要であることを強調し、イスラーム観光は「世界中の、とりわけ日本での観光産業にとって価値ある機会を作り出す重要な現象である」と明快に結論した。