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爆発力向上のための筋力トレーニングにおける適切な反復回数の設定は?

概要

本研究では、パワー向上を目的としたレジスタンストレーニングにおける、運動時の筋疲労度および挙上速度低下率※1の変化を調査しました。結果として、挙上速度低下率とSpectral Fatigue Index※2は類似した変化を示し、両者の間には有意な相関関係が確認されました。したがって、挙上速度低下率はレジスタンストレーニングにおける、間接的な筋疲労の指標として妥当である可能性が示されました。一方で、反復回数設定の低い運動条件では有意な挙上速度低下が認められませんでした(図1)。このことから、トレーニング時の各セットにおける反復回数を低めに設定することで、疲労による筋パワー発揮の低下を抑えられる可能性が示唆されました。

(1)これまでの研究で分かっていたこと

スプリントや砲丸投げなどの瞬発的なパフォーマンスが求められる競技スポーツにおいて、運動時に発揮される筋パワーは競技パフォーマンスに直接関与します。そのため、パワー向上を目的としたレジスタンストレーニングプログラムは、指導者やアスリートが日常的に取り組んでいるものです。このようなトレーニングプログラムを実施する際、筋疲労はほぼ避けられないネガティブな要素の一つです。筋疲労が生じると、トレーニング時の挙上速度が低下し、それに伴い発揮される筋パワーも減少してしまいます。したがって、パワー向上を目的としたトレーニングを実施する際には、筋疲労による顕著な挙上速度の低下を防ぐことで、筋疲労の進行を抑え、トレーニング中のパワー発揮を維持できると考えられます。しかし、発揮されるパワーを維持するための適切な反復回数の閾値、すなわち顕著な挙上速度低下を避けるためにトレーニングを終了する適切なタイミングについては、明らかになっていませんでした。

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

筋疲労が発生すると、レジスタンストレーニング時の挙上速度が有意に低下し、筋パワーの発揮を含め、トレーニング中の運動パフォーマンスが低下します。そのため、トレーニング中に速度低下率が有意に増加し始めるタイミングを明らかにすることは、パフォーマンスの低下を防ぐうえで重要な意義を持ちます。しかし、現時点では、パワー向上を目的としたレジスタンストレーニングプログラムにおいて、速度の有意な低下が始まるタイミングを調査した研究は存在しませんでした。そこで、本研究では、パワー向上を目的としたレジスタンストレーニングにおいて、速度の有意な低下がみられるタイミングを調査し、トレーニングパフォーマンスの低下を回避できる反復回数の閾値を明らかにすることを目的としました。

(3)そのために新しく開発した手法

表面筋電図は、非侵襲的に筋疲労を定量化できる手法の一つです。本研究では、レジスタンストレーニング中に発生した筋疲労を表面筋電図を用いて測定しました。筋収縮時の電気信号を取得し、高精度なアルゴリズムであるSpectral Fatigue Indexを用いて筋疲労を定量化しました。一方、レジスタンストレーニング中の挙上速度低下率を定量化するために、バーベルに反射マーカーを装着し、動作中の映像を高速カメラで撮影しました。その後、バーベルの矢状面における座標変位および移動時間を基に、挙上速度低下率を算出しました。

(4)研究の波及効果や社会的影響

挙上速度低下率は、Spectral Fatigue Indexと同様の変化を示し、両者の間には有意な相関関係が確認されました(図2)。この結果から、レジスタンストレーニング時の挙上速度低下率を算出することで、筋疲労を定量化する手法として妥当であると考えられます。また、低疲労度条件(挙上失敗までの反復回数の30%)では、速度低下率の有意な増加は認められませんでした。このことから、パワー向上を目的としたレジスタンストレーニングプログラムを実施する際、セットごとの反復回数を挙上失敗までの反復回数の30%以内に抑えることで、筋疲労の累積を最小限に抑え、疲労の影響によるトレーニングパフォーマンスの低下を防ぐ可能性が示唆されます。

(5)今後の課題

パワー向上を目的としたレジスタンストレーニングにおいて、適切な反復回数の設定は重要です。本研究の結果から、このようなトレーニングプログラムを実施する際に、各セットの反復回数を低め(挙上失敗までの反復回数の30%程度)に設定することで、パフォーマンスの低下を抑えられることが明らかになりました。例えば、パワートレーニングにおいて中程度の重量で最大10回の反復が可能な場合、各セットの反復回数を3回程度に抑えることで、トレーニング時の速度やパワーなどのパフォーマンス要素の低下を防ぎ、筋疲労の蓄積によるケガのリスクも抑えられます。一方で、本研究では中程度の重量(1回だけ挙上できる重量の65%)のみを対象として検証を行ったため、異なる重量設定でトレーニングを実施する場合、最適な反復回数が変わる可能性があります。今後の研究では、さまざまな重量設定における筋疲労度および速度低下率を調査し、より汎用的なトレーニング反復回数設定指針を明らかにする必要があります。

(6)研究者のコメント

近年、Velocity-Based Training(トレーニング時の速度変化に基づいて負荷やボリュームを調整するトレーニング法)が瞬発性パフォーマンス向上に効果があることが証明され、レジスタンストレーニングの現場で急速に普及しています。しかし、Velocity-Based Trainingは比較的新しいトレーニング手法であり、生理学的エビデンスや適用の限界点など、不明瞭な要素が多く残されています。例えば、Velocity-Based Trainingではバーベルやダンベルを爆発的に、できるだけ速く挙上することが前提となるため、比較的豊かなトレーニング経験と高いテクニックが求められます。そのため、トレーニング経験の浅い選手にとっては実践が難しく、適用が不適切である可能性があります。このように、Velocity-Based Trainingの実用上の限界点や科学的な検証が今後の重要な研究課題となり、レジスタンストレーニングの現場におけるさらなる発展のために解明が求められます。

(7)用語解説

※1 挙上速度低下率
バーベルやダンベルを挙上する際に、特定の反復における挙上速度が、そのセット内で最も速かった反復の挙上速度と比較してどの程度低下したかを示す指標。

※2  Spectral fatigue index
レジスタンストレーニングなどの動的な筋収縮が発生する際に、表面筋電図から取得した電気信号を用いて筋疲労度を算出するアルゴリズム。

(8)論文情報

雑誌名/Journal:International Journal of Sports Medicine
論文名/Title:Perceived exertion reflects fatigue conditions during power-aimed resistance training
執筆者名・所属機関名/Authors and Affiliated Organization:Zhao Hanye(早稲田大学スポーツ科学学術院), Takanori Kurokawa(早稲田大学大学院スポーツ科学研究科), Masayoshi Tajima(早稲田大学大学院スポーツ科学研究科), Zijian Liu(早稲田大学大学院スポーツ科学研究科), Junichi Okada(早稲田大学スポーツ科学学術院)
Publishment Date(Local Time):24 February 2025
Publishment Date(Japan Time):25 February 2025
(オンライン掲載の場合/For online publication)
URL:https://www.thieme-connect.de/products/ejournals/abstract/10.1055/a-2545-5403
DOI:https://doi.org/10.1055/a-2545-5403

(9)研究助成

研究費名/Research Fund:特定課題研究助成費(研究基盤形成)
研究課題名/Research Subject:Validity of using perceived exertion to assess muscle fatigue during resistance exercises(No.2023C-692)
研究代表者名・所属機関名/Research Representative and Affiliated Organization:趙寒曄(早稲田大学スポーツ科学学術院)

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