概要
本研究ではMajor League Baseball (MLB)が公開しているオープントラッキングデータをもとに、先発投手344名を対象として※1 リリースポイントのばらつきと、投球パフォーマンスとの関係について検討しました。特にストレートの水平方向のリリースポイントが小さいほど、投球パフォーマンスが高いという結果が得られました。
(1)これまでの研究で分かっていたこと
野球界では、近年ボールの回転軸や変化量、リリースポイントといったトラッキングデータがコーチングに活用されるようになってきました。こうしたデータは学術領域においては、投球障害との関係や、投球パフォーマンスとの関係について検討されています。特にリリースポイントのばらつきについては、ばらつきが小さいほど、投球パフォーマンスが高いことが報告されています。
(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと
先行研究ではリリースポイントについて、全ての球種でのリリースポイントのばらつきしか検討していませんでした。しかし、これでは球種間のばらつきと球種内のばらつきのどちらが重要かわかりません。そこで本研究では球種間のばらつきと、球種内のばらつきをそれぞれ評価することを目的としました。その結果、球種内のばらつきが小さいほど、投球パフォーマンスが高いことが明らかとなりました。
(3)そのために新しく開発した手法
球種間のばらつきを定量評価するために、リリースポイントのばらつきを※2 95%信頼楕円で定量化し、ストレートと変化球でそれぞれ作成しました。その二つの楕円の一致率を評価し、球種間のばらつきの指標としました。
(4)研究の波及効果や社会的影響
本研究の結果から水平方向のリリースポイントのばらつきが、特に投球パフォーマンスにとって重要であることが分かりました。トラッキングシステムが発達してきた現在では、このばらつきを即時フィードバックすることが可能です。今後の投手指導やコンディション管理において、一つの指標となることが期待されます。
(5)今後の課題
本研究ではストレートと変化球という2種類に分けてリリースポイントのばらつきを検討しました。今後はさらに変化球を、スライダーやチェンジアップといった各球種に細かく分けて検討する必要があります。
(6)研究者のコメント
本研究ではストレートと変化球という2種類に分けてリリースポイントのばらつきを検討しました。今後はさらに変化球を、スライダーやチェンジアップといった各球種に細かく分けて検討する必要があります。
(7)用語解説
※1 リリースポイント
投球時にボールが指から離れる瞬間の空間座標です。
※2 95%信頼楕円
二変量の正規分布の中心からデータの散らばる範囲を楕円で示したものです。楕円が小さいと、データの散らばりが小さいことを示します。
(8)論文情報
雑誌名:Frontiers in Sports and Active Living
論文名:Relationship between ball release point variability and pitching performance in major league baseball
執筆者名・所属機関名:
若宮知輝(早稲田大学大学院スポーツ科学研究科)・永元英明(早稲田大学スポーツ科学研究センター)・山口龍星(早稲田大学大学院スポーツ科学研究科)・奥貫拓実(早稲田大学大学院スポーツ科学研究科)・前道俊宏(早稲田大学スポーツ科学学術院)・劉紫剣(早稲田大学大学院スポーツ科学研究科)・小川祐来(早稲田大学大学院スポーツ科学研究科)・小林佑介(早稲田大学大学院スポーツ科学研究科)・熊井司(早稲田大学スポーツ科学学術院)*
*責任著者
Publishment Date(Local Time):2024年11月18日
Publishment Date(Japan Time):2024年11月18日
URL:https://www.frontiersin.org/journals/sports-and-active-living/articles/10.3389/fspor.2024.1447665/full
DOI:https://doi.org/10.3389/fspor.2024.1447665