Waseda Institute for Sport Sciences早稲田大学 スポーツ科学研究センター

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アイスベストは運動後および安静時における若年男性のエネルギー摂取量を増加させる

概要

早稲田大学の研究により、アイスベストの着用が体温を低下させることで、運動後や安静時のエネルギー摂取量(EI)を有意に増加させることが明らかになりました。この研究は2024年8月2日に『Medicine & Science in Sports & Exercise』誌に掲載されました。李格氏、渡邉大輝助教、宮地元彦教授によって行われたこの研究には、15名の健康な若年男性が参加しました。この研究は、アイスベストが運動後の食欲不振(運動誘発性食欲不振)を軽減し、特により複雑な体温の冷却方法が利用できない場合に、適切なエネルギー摂取量を維持するための実用的な戦略となる可能性を示しています。

(1)これまでの研究で分かっていたこと

エネルギー摂取量(EI)は、私たちが日々摂取する食べ物や飲み物から計算されます。先行研究により、高強度運動は、EIや食欲を一時的に抑制することが報告されています。身体活動量が高いアスリートやスポーツ選手は、エネルギー摂取不足のリスクに直面しています。しかし、良好なスポーツパフォーマンスを維持するには、運動やトレーニング後に適切なEIが必要です。近年、安静時や運動後に冷環境(チャンバーや水浴)を用いることでEIが増加し、逆に高温環境ではEIを抑制する効果があることが明らかになっています。

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

そして今回、2024年8月2日に「Medicine & Science in Sports & Exercise」誌にオンライン掲載された新しい研究では、アイスベストの着用が運動後または安静時のEIを有意に増加させ、これが体温の低下と関連している可能性を発見しました。この研究は、早稲田大学スポーツ科学研究科の李歌(Ge Li)氏(博士課程)、渡邉大輝助教、宮地元彦教授によって実施され、15名の健康な若年男性が参加しました。すべての参加者は、運動条件および安静条件におけるランダムクロスオーバー試験を行い、クーリングベストを着用する場合としない場合のビュッフェ形式の食事から評価したEIを比較しました。本研究では、EI、主観的な食欲、食欲関連ホルモン、皮膚および直腸温、温冷感が評価されました。

本研究では、複数の温かい食べ物と冷たい食べ物を組み合わせたビュッフェ形式の食事設計の利点も強調されました。アイスベストによるEIの増加は、アイスベストの着用により寒さを感じ、快適さを求めて温かい食べ物を多く摂取したことに起因すると考えられます。研究者らはまた、運動セッション後にアイスベストを着用することで主観的な空腹感が増加したことを発見しました。この結果は、アイスベストが運動誘発性の食欲低下を軽減する可能性を示しています。

(3)そのために新しく開発した手法

本研究はアイスベストを用いて、その後のエネルギー摂取量に与える影響を検討しました。アイスベストは、上半身と首を覆う衣類で、8つの冷却用ゲルパック(約-1℃)を内蔵しています。水浴やチャンバーと比較して、アイスベストは低価格で再利用可能な製品であり、ストレッチング中や移動中など、さまざまな場面で活用することができます。

(4)研究の波及効果や社会的影響

李氏は「チャンバーや水浴とは異なり、クーリングベストは、低コストで手軽に利用でき、持ち運びが簡単な体温の冷却方法です。」と述べています。また、「今回の研究は、運動後または安静時にアイスベストを着用することで、若い健康な活動的な男性のEIが増加することを示しており、新たな可能性と実用的な戦略を提供します。この方法は、チャンバーや水浴を利用できないスポーツシーンで役立つでしょう」とコメントしています。「運動条件だけでなく、安静時にクーリングベストを着用する効果も検討しました。この発見は、トレーニング期間外のアスリートやスポーツ選手だけでなく、食欲不振に悩む人々にも多様な応用可能性を提供するかもしれません」と李氏は述べています。

(5)今後の課題

食欲関連ホルモンはアイスベストの着用の有無で変化は見られませんでしたが、本研究では直腸温が低いほど相対的なEIが高いことが明らかになりました。ただし、体温調節、食欲調節、EIのメカニズムに関する詳細は依然として不明であり、この分野でのさらなる調査が必要です。

(6)研究者のコメント

宮地先生:適切な食事摂取は、アスリートがコンディションを整え、優れたパフォーマンスを発揮するために欠かせません。アイスベストを効果的に活用することで、アスリートが陥りがちなエネルギー不足を防ぎ、コンディション維持やパフォーマンス向上に寄与する可能性があります。筆頭著者の李さんには、アイスベストのより効果的な使用方法に関する応用研究と、体温と食事摂取の関係に関する生理学研究を、国際的な水準でさらに進めて頂くことを期待しています。

渡邉先生:高温環境下では、体温上昇を抑制することが脱水症を防ぐために重要です。液体と氷を混ぜたアイススラリーの摂取は、体温上昇を抑える効果的な方法ですが、食欲や食事摂取を低下させることが報告されています。そのため、アイススラリーの長期使用は、エネルギー摂取不足による体重減少を引き起こす可能性があり、特にアスリートや意図しない体重減少に悩む高齢者には注意が必要です。今回の研究結果は、アイスベストの使用が体温上昇を抑え、エネルギー摂取を増加させることを示しており、熱ストレスによる食欲減退に悩む多くの人々にとって有用な発見です。

(7)論文情報

雑誌名:Medicine & Science in Sports & Exercise

論文名:Acute Effects of Wearing a Cooling Vest after High-Intensity Running and at Rest on Energy Intake and Appetite in Young Men

執筆者名・所属機関名:

Ge Li1, Daiki Watanabe2,3, Motohiko Miyachi2,3

  1. Graduate School of Sport Sciences, Waseda University, Tokorozawa, Saitama, Japan
  2. Faculty of Sport Sciences, Waseda University, Saitama, Japan
  3. National Institute of Health and Nutrition, National Institutes of Biomedical Innovation, Health and Nutrition, Settsu, Osaka, Japan

公開日:2024年8月2日

URL:https://journals.lww.com/acsm-msse/fulltext/2024/12000/acute_effects_of_wearing_a_cooling_vest_after.4.aspx

DOI:10.1249/MSS.0000000000003512.

(8)研究助成

研究費名:

  1. Open Innovation Ecosystem Program for Pioneering Research (W-SPRING)
  2. Yamaha Motor Foundation for Sports

研究課題名:

・Acute effects of cold exposure after exercise on subsequent appetite and energy intake: A proposal to attenuate exercise-induced anorexia

・運動後のアイスベスト着用が食欲に及ぼす影響:運動後の食欲減退への打開策の提案

研究代表者名・所属機関名:

李 格 早稲田大学・スポーツ科学研究科

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