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好中球活性化の抑制作用からみたスルフォラファンの抗酸化・抗炎症作用の解析

ブロッコリーの新芽に多く含まれる成分であるスルフォラファン(Sulforaphane:SFN)には、抗炎症、抗酸化、抗菌、抗肥満効果などの機能があります。 本研究では、好中球※1の活性酸素種 (Reactive Oxygen Species:ROS) の生成、脱顆粒、食作用、好中球細胞外トラップ (Neutrophil Extracellular Trap:NET) ※2の形成といった細胞機能に対するSFNの影響を検討しました。

研究結果の概要

これまでの研究で分かっていたこと

SFN は、ブロッコリーなどのアブラナ科の野菜に含まれるグルコラファニンに由来する成分です。グルコラファニンは、植物組織中に含まれるミロシナーゼまたは腸内細菌叢によってSFNに変換されます。SFNは抗炎症および抗酸化作用が知られており、運動誘発性炎症においても一定の効果が得られています。抗炎症作用の機序のひとつとして、炎症の中心である白血球の遊走阻害が示唆されています。

今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

SFNによる運動誘発性炎症の抑制機序として白血球が関与している可能性があります。しかし、ヒトのさまざまな好中球機能に対する SFNの影響を調べた研究はほとんどありません。そこで本研究では、全血と分離された好中球の両方を使用して、いくつかのヒト好中球機能に対するSFNの作用を検討しました。具体的には、ROS産生、脱顆粒、食作用、NET形成に対する SFNの影響を評価しました。

その結果、140 μM以上のSFN存在下で、全血中の好中球のROS産生が有意に抑制されました。また、280 μMのSFNは、好中球からのミエロペルオキシダーゼの放出と、炎症性サイトカインであるTNF-αおよびIL-6の放出を有意に減少させ、食作用を抑制しました。一方で、NET 形成には影響を与えませんでした。さらにSFNは、次亜塩素酸(HOCl)を含むROSを直接消去することが示唆されました。

そのために新しく開発した手法

好中球に対する抗酸化作用を明らかにするため、マイクロプレートリーダーを用いた化学発光法による好中球のROS産生の測定方法を開発しました。本手法では、全血および分離細胞のそれぞれで測定を行うことで、より生体内に近い結果を得ることができると考えられます。

研究の波及効果や社会的影響

SFNの機能については様々な研究がなされていますが、生体内の炎症の中心である白血球(好中球)機能に着目した研究はあまりありません。本研究は、SFNの抗酸化・抗炎症作用におけるその機序の一端を明らかにしたものです。また、SFNの摂取は運動誘発性炎症を抑制する可能性があり、運動時における栄養摂取の選択肢を増やすことが期待されます。

今後の課題

本研究では、いくつかの好中球機能についてSFNの機能を調べました。しかし、たとえば食作用の抑制の具体的な機序は不明です。今後は、好中球機能のそれぞれに対する作用について、さらに詳細な機序を明らかにする必要があります。

研究者のコメント

運動前にSFNを摂取すると、好中球を含む白血球の活性化が抑制されることにより炎症が軽減される可能性があります。SFNはブロッコリーの新芽などから摂取することが可能な成分であることから、普段の食事に取り入れることができます。本研究によって、アスリートや一般の人が運動をする際の栄養という視点からサポートできればと考えています。

用語解説

※1 好中球(Neutrophil)

白血球の一種で、ヒトの血液中の過半数を占める。特に細菌感染時には、病原体を細胞内に取り込み(貪食)し、ROSや殺菌物質を放出(脱顆粒)して生体を防御しますが、過剰な好中球の活性化は炎症を引き起こし、正常な組織をも破壊しますので、過剰な炎症を防ぐ抗炎症作用が注目されています。

※2 好中球細胞外トラップ (Neutrophil Extracellular Trap:NET)
好中球は細胞外の病原体に対して擬足を伸ばして捕捉しますが、その機能が過剰に活性化されると血栓を形成して血管を閉塞し、臓器傷害を起します。新型コロナウイルスにおける臓器傷害においても、サイトカインストームで好中球が活性化されNETを形成することが病態形成機序として注目されました。

論文情報

雑誌名:Int. J. Mol. Sci.
論文名:Sulforaphane Attenuates Neutrophil ROS Production, MPO Degranulation and Phagocytosis, but Does Not Affect NET Formation Ex Vivo and In Vitro.
執筆者名(所属機関名):
Wakasugi-Onogi, S.; Ma, S.; Ruhee, R.T.; Tong, Y.; Seki, Y.; Suzuki, K.(Waseda University)
掲載日時:2023年5月9日
掲載URL:https://doi.org/10.3390/ijms24108479
DOI:10.3390/ijms24108479

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