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現代スポーツ科学に建造環境デザインが果たす役割

本稿では、現代スポーツ科学におけるアスリートのパフォーマンス向上研究の文脈において、十分に検討されてこなかった建造環境デザインの役割について、「アスリート中心のトレーニング建造環境デザインの構築」、「ファンやコミュニティとのエンゲージメントの強化」、「統合的なアクセシビリティの整備」の3つの視座から提言を行いました。

研究結果の概要

これまでの研究で分かっていたこと

スポーツ科学研究の中心的な話題として、アスリートのパフォーマンスを高めることに重点が置かれており、それ故に多面的なアプローチが必要とされています。近年は、限られた学問分野からのアプローチから、学際的なものへと進化しつつあります。特に、アスリートのパフォーマンスは、学校、スタジアム、トレーニングアリーナ、競技複合施設など、さまざまな環境における建造環境の特性によって大きな影響を受けることが明らかになりつつあります。

今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

我々は、建造環境デザインがアスリートのパフォーマンスに影響を与えることに関して、「アスリート中心のトレーニング建造環境デザインの構築」、「ファンやコミュニティとのエンゲージメントの強化」、「統合的なアクセシビリティの整備」の3つの視座(図)から、その具体的な研究の方向性と課題を整理しました。

そのために新しく開発した手法

  • アスリート中心のトレーニング建造環境デザインの構築

建造環境デザインを工夫することにより、アスリートのニーズを優先したアスリート中心の環境を作り出すことができます。具体的には、オープンエアのラウンジ、人間工学に基づいた家具、緑を備えたトレーニング施設等を設計するといった「アスリートのための余暇(リラクセーション)空間」や、特別な回復エリアや空間レイアウトを設計するような「個別化されたトレーニングゾーン」の整備がアスリートのパフォーマンス向上に重要な役割を果たすと思われます。

  • ファンとコミュニティのエンゲージメントの強化

特に、スポーツ会場と都市部をつなぐ安全で利用しやすい自転車道や歩道に代表される「アクティブな交通インフラ」の整備や、スポーツ施設に隣接する活気あるスペースを設計するような「コミュニティ参加ゾーン」の整備は、ファンやコミュニティとのエンゲージメントを醸成し、結果としてアスリートのモチベーションを高め、パフォーマンスの向上を図ることが期待できます。

  • 統合的なアクセシビリティの整備

よりマクロな空間スケールにおいて、診療所やリハビリ施設などの医療サービスの近くにスポーツ施設を戦略的に配置する、様々なスポーツ会場を効率的な公共交通手段で結ぶネットワークを整備するといった「アスレチック・アクセシビリティ」の改善や、「統合されたスポーツ景観」、具体的には都心部にスポーツアリーナを(再)開発し、地域の経済成長、住宅価値、ファン動員を刺激するようなスタジアムやアリーナ施設の建築デザインを考えていくことは、アスリートのパフォーマンスのみならず、周辺住民のウェルビーイングの向上や行動変容を促し、周辺地域の活性化にも一役買う可能性があります。

研究の波及効果や社会的影響

現在、日本各地で企業が建設して運営を手掛ける民設民営のスポーツ施設が続々と開業しつつあります。このような状況の中、本研究で議論したスタジアムやアリーナ、さらには周辺施設やその近隣環境を含めた建造環境デザインの在り方は、アスリートのパフォーマンスに大きな影響を及ぼすとともに、地域の活性化や近隣住民のウェルビーイングにも波及効果がある可能性を秘めており、スポーツによるまちづくりや地方創生に重要な示唆を与えると思われます。

今後の課題

今後の研究の方向性として、アスリートのパフォーマンスに影響を及ぼす他の因子と比較した場合の建造環境の相対的な寄与を定量化すること、建造環境施設やインフラの開発・実施に必要な財政的・時間的投資について検討すること、建造環境内におけるアスリートのパフォーマンスを評価するための特定の評価基準を開発することなどの課題があります。

研究者のコメント

この分野の研究をさらに深化させていくためには、専門分野の異なるスポーツ科学の研究者同士が協働することはさることながら、都市デザイン、公園、交通、造園、環境心理学等の分野の専門家と協働し、学際融合研究を推進していくことが必須となます。

論文情報

雑誌名:BMJ Open Sport & Exercise Medicine
論文名:Building on muscles: how built environment design impacts modern sports science
執筆者名:Koohsari MJ, Kaczynski AT, Miyachi M, Oka K
掲載日時:2024年3月14日
掲載URL:https://bmjopensem.bmj.com/content/10/1/e001908?rss=1
DOI:10.1136/bmjsem-2024-001908

研究助成

研究費名:日本学術振興会科学研究費補助金 基盤研究(C)23K09701
研究課題名:革新的手法による勤労者の健康的かつ高い生産性を実現する職場内外の環境要因の解明
研究代表者名(所属機関名):クサリ モハマドジャバッド

研究費名:日本学術振興会科学研究費補助金 基盤研究(B)20H04113
研究課題名:就労者に対する座りすぎ是正対策の推進に向けた科学的基盤の構築
研究代表者名(所属機関名):岡 浩一朗(スポーツ科学学術院)

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