本研究では、12〜15歳のサッカー選手78名を対象にMR撮像を行い、両側と片側の腰椎分離症を有する選手における脊柱と骨盤のアライメント(配列)の違いを評価しました。両側と片側の腰椎分離症を有する選手を区分する要因は見られませんでしたが、腰椎分離症を有する選手は仙骨前傾角度が大きく、軸脚側の骨盤が後傾していることが明らかとなりました。
研究結果の概要
これまでの研究で分かっていたこと
日本人における腰椎分離症の有病率は約6%である一方で、腰椎分離症の好発年齢に該当する成長期アスリートの発症率はその4〜5倍と高率であることが知られています。それゆえ、成長期における腰椎分離症の予防的知見の構築が求められています。腰椎分離症は腰椎の椎弓根に生じる骨折(図1の白矢印)であり、両側と片側に生じる場合があります。両側と片側に生じる腰椎分離症の椎弓根部の骨折角度は左右で違いがあることが報告されており、発症メカニズムも異なることが考えられてきました。また、片側から両側の腰椎分離症へ進行するケースも報告されておりますが、両者の違いに影響を与える身体的要因はこれまでに調査されてきませんでした。
図1. 両側に生じた腰椎疲労骨(白矢印が骨折線)
今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと
これまでのスポーツ現場や臨床現場の活動経験より、腰椎分離症を有する選手は脊柱アライメント不良や骨盤の傾きの左右差があることを感じていました。そこで、脊柱のアライメント不良が腰椎分離症の発症に関連するという我々の研究グループが報告した(Tsutsui et al., 2023, Am J Sports Med; https://www.waseda.jp/top/news/87683)分析項目である脊柱のアライメント(A)に加え、骨盤の前傾/後傾の角度(B)と骨盤の外旋角度(開き具合;C)の数値化を試み、分析項目に追加しました。
図2. 脊柱・骨盤アライメントの解析項目
その結果、両側の腰椎分離症を有する選手は健常選手よりも仙骨前傾角度(図2-A Sacral Slope)が増大しており、また、両側もしくは片側の腰椎分離症を有する選手は健常選手よりも軸脚側(キックで多用する脚ではない側)の骨盤が後傾していることが明らかとなりました。しかしながら、両側と片側の腰椎分離症を有する選手の身体的特徴は見られませんでした。
そのために新しく開発した手法
図2に記載した骨盤の分析項目に加えて、MR画像を用いた腰椎分離症の評価に新たな手法を追加しました。これまでのMR撮像ではSTIRモードを用いた腰椎椎弓根における骨髄浮腫の評価(図3左)のみにとどまっていました。しかしながら、3テスラのMRI装置が学内に導入されたことで、CT-likeモードによる腰椎椎弓根における骨折線の評価ができるようになりました。この両方の撮像手法の両立により、初期から進行期、終末期まで幅広いステージで異常のある選手の検出が可能となりました。
図3. 本研究で用いたMR撮像モード
研究の波及効果や社会的影響
腰椎分離症は骨格発育が未熟な中学生年代に多い腰部障害ですが、高校・大学生アスリートの腰痛保有者の約7割が過去に腰椎分離症を経験したという報告もあります。すなわち、アスリートキャリアを通じた腰部障害の予防という観点でも、腰椎分離症の好発年齢に対する対策や予防プログラムの開発が急務となることが考えられます。本研究の結果を踏まえ、①過度に仙骨が前傾していないか(腰椎前弯と仙骨前傾の具合が同程度か)、②軸脚側の骨盤が過度に後傾していないか、をスポーツ現場・臨床現場でモニタリング・評価することが重要であると考えています。
今後の課題
本研究は横断的研究※1であったため、脊柱・骨盤のアライメントが腰椎分離症の発生に及ぼすかどうかに関する因果関係を明示することはできませんでした。ただし、軸脚側の骨盤の後傾で示されるように、骨盤アライメントの非対称性が腰椎分離症の潜在的な危険因子になり得ることが考えられます。
研究者のコメント
腰椎分離症の発症要因として明らかにされているエビデンスの多くは、後天的に修正できない項目です。我々はスポーツ現場や臨床で活動する研究者として、修正可能なリスクファクターの突き止め、予防プログラムやその知見を普及させることで、スポーツに励む「子どもをけがから守る」ことを目標にしております。その中でも本研究の成果である、腰椎分離症を有する選手の特徴として明らかとなった①仙骨前傾増大と②軸脚側の骨盤の後傾、を修正することが予防の一端を担う可能性あると考えます。
最後に、本研究に参加してくださった選手、ならびに協力してくださったコーチの方々に感謝いたします。
用語解説
※1 横断研究
ある特定の対象に対して、外傷・障害に関連する評価や介入効果などをある一時点において測定し、検討を行う研究の手法を指します。
論文情報
雑誌名:Orthopaedic Journal of Sports Medicine
論文名:Differences in Lumbopelvic Alignment in Adolescent Male Soccer Players With Bilateral and Unilateral Lumbar Bone Stress Injuries: An MRI Evaluation
執筆者名(所属機関名):
筒井 俊春(早稲田大学スポーツ科学学術院)、上久保 利直(早稲田大学スポーツ科学研究科)、坂槙 航(早稲田大学スポーツ科学研究科)、武井 聖良(早稲田大学発育発達研究所)、前道 俊宏(早稲田大学スポーツ科学学術院)、鳥居 俊(早稲田大学スポーツ科学学術院)
掲載日時:2024年2月23日(金)
掲載URL:https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/23259671241229692
DOI:https://doi.org/10.1177/23259671241229692