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ウエイトリフティング熟練者に特徴的な筋活動を解明

本研究はウエイトリフティング動作の代表的なパワークリーンについて、熟練者と未熟練者の違いを比較しました。動作・筋活動の分析から熟練者が高重量を挙上できる要因を明らかにしました。

 

研究結果の概要

これまでの研究で分かっていたこと

近年の数理学的手法の発展により、筋シナジー※1解析という手法を用いて中枢神経系が個々の筋肉をどのように支配しているかが明らかにされてきています。筋シナジーは複数の筋をひとまとまりの活動として捉える、いわゆる筋肉の協調性を定量することができます(図1)。一方で、ウエイトリフティングのバイオメカニクス的分析は古くから行われており、競技種目におけるトップアスリートの動作分析、各ウエイトリフティング派生エクササイズの発揮パワーの違いや至適負荷の解明を中心に発展してきました。しかし、被験者レベルが統一されていないことや、特定の負荷でしか実験が行われていないことなどの課題があり、未熟練者が上達するための方法は不明でした。

今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

ウエイトリフティング熟練者の筋シナジーを調べることで、未熟練者にとって必要な筋肉の協調性やそれに伴う動きの違いを明らかにしました。さらに熟練者の筋シナジーは、動作中の抜重を少なくすることで、より高重量を挙上できる戦略をとっている可能性を示しました(図2)。

そのために新しく開発した手法

筋活動を表面筋電図によって取得し、筋肉の協調性を定量するため、数理学的なアルゴリズムを用いて筋シナジーを抽出しました。筋シナジーは、各筋の貢献度や活動タイミングからそれぞれの筋シナジーが持つ機能を説明できますが、本研究ではバイオメカニクス分析も同時に行うことで、実際に起きている動作も考慮して両者の違いを説明しました。

研究の波及効果や社会的影響

ウエイトリフティング熟練者では、バーベルの挙上を効率的に行うため、反動動作であるダブルニーベンド※2が行われます。しかし、ダブルニーベンドはウエイトリフティングに特異的な動作であるため、初心者にとってはとても難しい動きです。このことから、指導現場ではダブルニーベンドを意識して行わせる指導が一般的でした。しかし、今回の研究結果から、パワークリーンにおいてダブルニーベンドを意識しすぎると抜重が大きくなり、その結果、高重量の挙上には不利になる可能性が示されました。

今後の課題

未熟練者よりも熟練者の方がダブルニーベンドに伴う抜重の程度は小さいことが明らかになりました。一方、初心者ではダブルニーベンドは起こらず、抜重もしないことが明らかにされているため、ダブルニーベンドが不要な動作とは考えにくいです。すなわち、ダブルニーベンドの程度には至適な範囲が存在する可能性があります。したがって、ダブルニーベンドおよびそれにより生じる抜重とその後の反動動作による力の増大との関連性を検討することで、さらに効率的なバーベルの挙上方法を提案することができると考えています。

研究者のコメント

本研究では筋シナジーという手法を新たに取り入れることで、アプローチが難しかった筋の協調性に着目することができました。スポーツやトレーニングに限らず、現場(実生活)では経験則的に語られている指導法はたくさん存在します。本研究はその暗黙知ともいえる一つの知識を科学的に明らかにしました。現場で生まれた疑問や謎を科学的に解明することは、より適切な指導につながり、ひいては競技力の向上につながると考えます。

用語解説

※1 筋シナジー解析
複数の筋肉の活動をひとまとまりにして、筋肉の協調的な活動を定量する手法。

※2 ダブルニーベンド
ウエイトリフティングに特徴的な動作で、バーベルが膝を超えたあたりで膝関節が一度屈曲する動作のこと。しゃがみ込んだ開始姿勢では膝関節が屈曲位である。床からバーベルを引き上げるため膝を伸展させていくが、バーベルが膝を通過したところで膝関節角度が再び屈曲位を示したのちに、股関節と連動した伸展動作へ繋がっていく。垂直跳びの反動動作に類似しており、バーベルを滑らかに挙上し、より大きな出力を発揮できるように反動を利用していると考えられている。

論文情報

雑誌名:Journal of Sports Sciences
論文名:Differences in muscle synergies between skilled and unskilled athletes in power clean exercise at various loads.
執筆者名(所属機関名):
Nadaka Hakariya (Graduate School of Sport Sciences, Waseda University)
Benio Kibushi (Graduate School of Human Development and Environment, Kobe University)
Junichi Okada (Faculty of Sport Sciences, Waseda University)
掲載日時:21 Sep 2023.
掲載URL:https://doi.org/10.1080/02640414.2023.2259268
DOI:10.1080/02640414.2023.2259268

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