外傷や障害が好発する大学女子サッカー選手に対して, 外傷・障害予防プログラムFIFA 11+を3シーズンに渡って実施した結果, 短期的効果として各シーズンとも足関節や膝関節の靭帯損傷を主とした下肢の外傷予防効果が得られ, 継続的効果として継続的なプログラムの介入が予防効果の持続性に対して期待できることが明らかとなりました.
研究結果の概要
これまでの研究で分かっていたこと
国際サッカー連盟の医療評価研究センターが立案したFIFA 11+は, 今日に至るまで中学から高校までの男子や女子, 大学男子のサッカー選手において, 足関節や膝関節を主とした下肢の外傷・障害に対する短期的予防効果(最長でも1シーズンの介入)があるとの報告がなされています.また, 疫学的効果に加え, FIFA 11+は体幹や下肢筋力, バランス能力に代表される身体機能の改善や運動中における下肢関節の動作不良を改善させる効果も認めてられています. これらの研究結果は, FIFA 11+の介入が身体機能の向上や動作時における適切な下肢関節運動を導くことで, 下肢の外傷・障害予防に対して好影響を与えている可能性を示唆しています.
今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと
外傷・障害の発生率が高い大学女子サッカー選手におけるFIFA 11+の短期的・継続的な予防効果については, これまで報告されていません. そこで, 本研究では大学女子サッカー選手に対するFIFA 11+の介入効果に関して, 介入期間(1シーズンおよび3シーズン継続)の観点から検討し, 以下のことが明らかとなりました:
– FIFA 11+の1シーズン(短期的効果)の実施は, 総外傷・障害, 足関節・膝関節(部位), 捻挫・靭帯損傷(種類), 非接触(原因), 中等度または重症(重症度)における外傷・障害の発生率を減少させる効果がある.
– また, 3シーズン継続(継続的効果)して実施することで, 下肢, 足関節(部位), 捻挫(種類)における外傷・障害の発生率を減少させる効果が持続する.
つまり, 大学女子サッカー選手において, FIFA 11+の継続的な実施は持続的な予防効果をもたらすことから, 予防プログラムを継続する動機づけになる.
そのために新しく開発した手法
FIFA11+という従来の予防プログラムを複数年行い,これまで同様に予防効果が得られたという点でスポーツ現場における傷害予防の観点からは非常に重要な知見であると考えています.
研究の波及効果や社会的影響
これまで外傷・障害の予防効果を継続的に検証した報告はなく, 外傷・障害予防の期間を考慮し, その期間の違いによる効果の程度などを包括的に明らかにした本研究の成果は臨床的のみならず学術的にも非常に有益な情報となりうると考えています.
今後の課題
FIFA 11+が大学女子サッカー選手の外傷・障害予防に対して好影響を与えた要因を運動学的観点から検証するとともに, 女子サッカー選手に好発し予防対策が急がれる膝前十時靭帯損傷などの特定の外傷に対する予防効果についても検証する必要があります.
論文情報
Hirohisa Magoshi, Takuma Hoshiba, Miwako Tohyama, Norikazu Hirose, Toru Fukubayashi.
(2023). Effect of the FIFA 11+ injury prevention program in collegiate female football players over three consecutive seasons, Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports.
doi: 10.1111/sms.14379.