概要
本研究ではサッカー選手を対象とし、ハムストリングス肉離れの受傷歴のある者とない者それぞれ13名ずつでスプリント時の筋活動の特徴を比較しました。その結果、ハムストリングス肉離れ受傷歴の有無によってランニングの脚の接地前後の安定性に関与する筋の活動量に異なる特徴があることが明らかになりました。
(1)これまでの研究で分かっていたこと
ハムストリングス肉離れは競技に復帰した後に再度同じ部位に受傷するリスクが非常に高いと言われています。また、サッカー選手はスプリントの加速局面での受傷率が高いことが知られています。しかし、このように再受傷率の高さやサッカー選手の受傷率の高さが明らかになっているにも関わらず、一度ハムストリングス肉離れの受傷をしたことのあるサッカー選手の加速局面での再発リスクに関する研究は不足していました。
(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと
今回の研究では、ハムストリングス肉離れの受傷歴のある者は、受傷した脚と同じ側の大殿筋が遊脚期後半に低く、接地期前半に外腹斜筋の筋活動が低いという特徴がありました。また、接地期前半に中臀筋は両側ともに筋活動が高いなど、ハムストリングス肉離れの受傷歴のない者と異なる特徴があることが明らかになりました。
(3)そのために新しく開発した手法
これまでハムストリングス肉離れはスプリント中に脚が着地する直前でのハムストリングスの筋活動がリスクになると考えられていましたが、今回の研究では着地前後の安定性に関わる筋に異なる特徴があると明らかになったことは重要な知見であると考えています。
(4)研究の波及効果や社会的影響
ハムストリングス肉離れをしたことのある者の筋活動の特徴が明らかになったことで、今後臨床上ではランニング中の着地前後の安定性に関与する筋の振る舞いに着目したリハビリテーションプログラムが必要となる可能性が考えられます。
(5)今後の課題
今回の研究は筋活動にのみに着目した研究であるため、今後は動作分析も合わせた研究を行うなどさらなる再発リスクの要因の検証が必要です。また、受傷後だけでなく受傷前後の筋活動の変化を比較することも必要であると考えています。
(6)研究者のコメント
過去の研究ではハムストリングス肉離れの受傷にはハムストリングス自体の振る舞いがリスクの要因であると考えられていましたが、今回の研究ではハムストリングス以外の大臀筋、中臀筋、外腹斜筋の筋活動の特徴から、ハムストリングス以外にも目を向ける必要があると示唆されました。今後は筋活動以外の観点からも、さらに研究を進めたいと思っております。
(7)論文情報
雑誌名:Journal of Sports Science & Medicine
論文名:Characterizing Muscle Activity in Soccer Players with a History of Hamstring Strain Injuries during Accelerated Sprinting
執筆者名・所属機関名:Otsubo R, Saito H, Hirose N. Graduate School of Sport Sciences, Waseda University
Publishment Date(Local Time):1-September-2024
Publishment Date(Japan Time):
URL:https://www.jssm.org/jssm-23-656.xml%3EFulltext
DOI:https://doi.org/10.52082/jssm.2024.656
(8)研究助成
研究費名:科学研究補助費 基盤研究(C)
研究課題名:ハムストリング肉離れ再発予防のための新たなエクササイズの学術的基盤構築
研究代表者名・所属機関名:広瀬統一・早稲田大学スポーツ科学学術院