ヴェネツィア・カフォスカリ大学エドアルド・ジェルリーニ先生講演会「Classical Texts in Public Spaces: the social role of inscribing monument and stones 公共的空間と古典テクスト:碑・モニュメントに刻まれた社会的機能」を2025年7月18日(金)に戸山キャンパス33号館第1会議室にて開催しました。
エドアルド・ジェルリーニ先生は、日本文学をテクスト遺産という概念から捉え直し、遺産研究の方法や成果を取り入れつつ、研究を進めてこられ、2020年に早稲田大学でワークショップを開催し、その成果を『古典は遺産か? 日本文学におけるテクスト遺産の利用と再創造』(アジア遊学261、Edoardo Gerlini・河野貴美子編、勉誠社、2021)としてまとめたのに続き、2023年にも同じく早稲田大学で開催した第2回ワークショップの成果もこのたび『近現代日本を生きるテクスト遺産』(アジア遊学305、Edoardo Gerlini・河野貴美子共編、勉誠社、2025)として刊行されました。エドアルド・ジェルリーニ先生は、今夏、それら一連の研究をさらに継続展開するプロジェクト「碑およびモニュメントに刻まれた古典⽂学テクストの諸相と伝達」研究のために来日されました。本講演会は、エドアルド・ジェルリーニ先生に、テクスト遺産研究の意義と今後のさらなる可能性についてお話いただきました。

講演するエドアルド・ジェルリーニ先生
講演ではまず、イタリアの街角に点在する碑を例として、それらが公共空間においてテクストをエンボディメント(Embodiment=身体化、具体化)するテクスト遺産の実践であることを取り上げられました。続いて、早稲田大学キャンパス内のモニュメントを例に、それらが設置されていることはテクストや記憶を特定の場所と結びつけ、空間的、歴史的文脈を与える営為であることを説明されました。そのうえで、特に碑文や金石文として刻まれた文学テクストに注目して、研究の課題を示されました。すなわち、文学的テクストが刻まれた碑文の存在が社会的空間に与える影響、そして、それらの碑文がいかにして継承され、あるいは破壊、再創造されてきたのかを考察することによって、モノと場の関係を再定義すること、廃墟や遺産といった概念を再考すること、テクストの具現化(embodiment)と絡み合い(entanglement)の概念を再考すること、碑が有する政治的意味や役割を考察すること等が可能となるであろうとの見通しが提示されました。また、ヨーロッパや中国、日本における古代の碑文の例を挙げつつ、その内容は学横断的なものであり、また地域を横断するアプローチが必要なものであることにも言及されました。講演の後半では、現在進行中の取り組みの一端として、松尾芭蕉の碑や万葉歌碑を通して、テクストと社会的公共的空間の関係や、テクストを受容するさまざまな営為を明らかにし、文学テクストの意義や機能をさらに追究したいとの展望が語られました。
以上の講演に続いて、コメンテーターの立正大学渡邉裕美子先生から、パワーポイント資料を用いたコメントが寄せられました。渡邉裕美子先生からは、講演の内容に対して、こうしたアプローチは共同体の記憶がいかに積み重ねられ、変容していくかを浮かび上がらせる有効な手法であるとのコメントに続き、日本の近世に古典テクストの再発見、再創造が多数なされるようになるのはなぜか、また、文学を刻む碑文のみならず文学的なるものを生み出す碑文の機能や、古代と近世をつなぐ建造物に記し刻まれるテクストにも注目するならば、文学テクストをつなぐ人びとの営為の実相がより明らかになっていくのではないか、といった助言がなされました。

渡邉裕美子先生のコメント
その後、会場で参加された方々からも次々と手が挙がり、質疑応答が活発になされ、本講演が投げかけた学際的、国際的研究の方向性が具体的魅力的な可能性とともに参加者にも共有され、盛況のうちに講演会は終了しました。
本講演会は、早稲田大学総合人文科学研究センター角田柳作記念国際日本学研究所、SGU国際日本学拠点の主催、早稲田大学総合研究機構日本古典籍研究所の共催により開催され、当日は学生、教員、一般を合わせて45名の参加者がありました。
開催概要
- 開催日時:2025年7月18日(金曜日)15時30分~17時20分
- 開催場所:早稲田大学戸山キャンパス33号館3階第1会議室
- 主催:早稲田大学総合人文科学研究センター 角田柳作記念国際日本学研究所(SGU国際日本学拠点)
- 共催:早稲田大学総合研究機構日本古典籍研究所