南開大学教授劉雨珍先生講演会 報告
奈良時代を中心とする日本古典文学研究、さらには筆談資料をはじめとする東アジアの文学・文化交流研究で顕著な成果をあげてこられた南開大学劉雨珍教授をお招きし、「日中における白詩受容と変容の諸相――「香炉峰の雪」をめぐって」との演題でご講演をいただきました。
ご講演の冒頭で劉雨珍教授は、『枕草子』の著名な「香炉峰の雪」のエピソードについて、それが基づくところの白居易の詩が中国においては日本ほど知られたものではないこと、また、「香炉峰の雪は簾を撥(かか)げて看る」という白居易詩の「簾」や「撥」の理解が、存外容易なものではないことを問題提起されました。続いて、日本では『和漢朗詠集』に佳句として収載される「遺愛寺の鐘は枕を欹てて聴く、香炉峰の雪は簾を撥げて看る」の二句が人口に膾炙するものの、白居易の当該詩全体、あるいは、当該詩を含む一連の詩群全体を見ると、都から離れた地にある白居易の志が強く読み取れること、そうした中国における詩のあり方と、日本における佳句を好んで鑑賞するあり方との相違について言及されました。そして、白居易に強い影響を受けた菅原道真の詩や、宋代の蘇東坡の詞をはじめとする中国文学史において白居易が詠じた志がいかに受け継がれ、あるいは受け継がれなかったのか、また、中世、近世の各種資料、さらには明治期の宮島誠一郎と清朝末期の外交官黄遵憲との筆談資料において『枕草子』の「香炉峰の雪」のエピソードが解釈を変えながら現れることも紹介されました。
白居易をはじめ、中国と日本の文学や文化は深い関係を保ちながら長い歴史を経てきましたが、ご講演では、そこにある共通点のみならず、相違点にもより注目すべきこと、そしてそこに研究の醍醐味や重要な課題がひそむことを示唆くださいました。
ご講演の後は、早稲田大学文学学術院の吉原浩人教授のコメントがあり、続いて参加者から次々と質問の手が挙がり、劉雨珍教授との間で活発な質疑応答がなされました。短い時間ではありましたが、濃密な議論が展開し、盛会の内に講演会は終了しました。
(文責:河野貴美子)
開催概要
日時:3月27日(土)15:00〜17:00
開催方式:対面(会場:戸山キャンパス33号館432教室)
報告者:劉雨珍(南開大学教授)
報告題目:日中における白詩受容と変容の諸相――「香炉峰の雪」をめぐって
主催:早稲田大学総合人文科学研究センター部門「角田柳作記念国際日本学研究所」/早稲田大学総合研究機構日本古典籍研究所