
河出書房新社 初版 刊行日 2023/11/30 判型 四六判(単行本)ページ数 224ページ
ISBNコード 978-4-309-81119-2
出版社URL https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309811192/
本書は、古代から現在までのエジプトの歴史を一冊にまとめたものです。エジプトと聞くとピラミッドやツタンカーメン王などを思い浮かべる人が多く、実際に古代エジプトに関する書籍はたくさん出版されています。一方で、古代から現在にいたるまでの「エジプト通史」をまとめた書籍はこれまであまり見当たりませんでした。そこで本書では、ナイル川流域で農耕牧畜が始まった紀元前5500年頃から現在までの数千年におよぶエジプトの歴史をできるだけわかりやすく、平易な文章で追っていきます。また、5編の短いコラムでは、考古学的な発掘調査の実態やエジプトの食生活などについても紹介しています。
<目次>
Chapter 1 先王朝時代〜初期王朝時代
Chapter 2 古王国時代〜中王国時代
Chapter 3 第二中間期〜新王国時代
Chapter 4 古代エジプト文明の終焉
Chapter 5 イスラーム時代
Chapter 6 ムハンマド・アリー朝の近代
Chapter 7 イギリスの支配と独立への道
Chapter 8 現在・未来のエジプト
〈研究内容紹介〉
本書のChapter 1〜4では古代エジプト文明の歴史について紹介しています。著者の山崎世理愛はエジプト学・考古学を専門とし、とくに古代エジプト中王国時代の儀礼について研究しています。本書のChapter 2で取り上げているように、中王国時代は群雄割拠の時代を経てエジプトが再統一されて始まります。古代エジプトが初めて経験する国家再形成期として位置付けられるこの時代には、おもに暴力ではなく文化的な手段で中央集権化が進められました。そのなかでも重要だったのが「儀礼」であり、儀礼は共通の価値規範を拡散し、王権の強化や人びとの国家への帰属意識を高める役割を果たしました。著者は、人々が無意識に支配されるなかで、儀礼が具体的にどのように機能したのかを解明するために研究を続けています。

中王国時代、センウセレト2世のピラミッド(山崎撮影)
Chapter 5~8では、エジプトが7世紀にイスラーム勢力の支配下に入ってから、現代にいたるまで、およそ1400年間の歴史を扱っています。当初はイスラーム帝国の地方州のひとつであったエジプトですが、9世紀以後、この地を本拠地とするムスリムの独立政権が次々成立していきます。その中で、イスラーム世界の政治・経済・文化の中心として繁栄を見せたのが、もう一人の著者である五十嵐大介が専門とするマムルーク朝(1250~1517年)でした。マムルークとはイスラームの軍事奴隷のことで、黒海北岸の草原地帯から奴隷としてはるばるエジプトまで連れてこられたトルコ系遊牧民たちが、エジプトで軍事支配層を形成しました。このマムルーク朝の国家と社会について広く研究しています。

カイロの軍事博物館にある、モンゴルを打ち破ったマムルーク朝君主バイバルスの像(五十嵐撮影)
早稲田大学文学学術院講師(テニュアトラック)
山崎 世理愛(やまざき せりあ)
1992年、東京都生まれ。博士(文学、早稲田大学)。主な論文に“Repeating the Ritual Underground: Performance of the Royal Object Ritual in the Middle Kingdom,” Gracia Zamacona, Carlos (ed.), Variety in the Earlier Egyptian Mortuary Texts, Brill.「エジプト中王国時代における襟飾り奉献儀礼の展開と思想的背景」『オリエント』第67巻第1号がある。
早稲田大学文学学術院教授
五十嵐 大介(いがらし だいすけ)
1973年、東京都生まれ。博士(史学、中央大学)。主な著書に『中世イスラーム国家の財政と寄進:後期マムルーク朝の研究』(刀水書房、2011年)、Land Tenure, Fiscal Policy, and Imperial Power in Medieval Syro-Egypt (Middle East Documentation Center, University of Chicago, 2015)がある。
(2025年3月作成)