2024年5月31日、シドニー大学の准教授であるM.W.ショアーズ(M.W. Shores)先生による講演会「キーン先生による日本文学の評価そして落語(Japanese Literature Evaluated by Donald Keene, and Rakugo)」が早稲田大学小野記念講堂で開催された。
本講演会においてショアーズ氏は、話芸・伝承芸能である落語を文学としても再評価するべきではないかと提唱し、ドナルド・キーンによる能の文学性の評価などに触れる中で、「文学とは何か」という大きなテーマについて議論を展開した。
ポートランド大学在籍時に、ドナルド・キーンの弟子である日本文学研究者ローレンス・コミンズ氏(現・ポートランド州立大学名誉教授)に師事したショアーズ氏は、大学卒業後、奈良県の帝塚山大学大学院に留学をした。その際、米国で研究の進んでいない分野を学び、実技経験を積むべきであるというコミンズ氏の助言を受け、落語の研究を志したショアーズ氏は、当時の指導教官であった森永道夫氏の紹介により、五代目桂文枝の見習い弟子となった経歴を持つ。また、ショアーズ氏は四代目林家染丸の下でも修行を積んでいる。
落語も文学ではないかと主張するショアーズ氏は、ボブ・ディランのノーベル文学賞受賞や、米国人ラッパーであるケンドリック・ラマ―のピューリッツァー賞音楽部門の受賞を例に、文学は書かれたものという考えへと回帰しつつある昨今の議論に疑問を呈した。そのうえで、ショアーズ氏はかつてドナルド・キーンが能の美しさと台本の文学性を証明し、日本文学の一分野として捉えたことに触れ、大衆に広く親しまれてきた話芸である落語もまた、歴史や音楽、言語や哲学など幅広い分野と深い関わりをもつ文学の分野として再評価されるべきではないかと述べた。また、ショアーズ氏は、上演を目的とした滑稽噺を集めた噺本が17世紀から19世紀にかけて多く出版されたことについて触れ、落語と戯作文学が相関的な影響関係にあったと指摘し、落語が「文字を書く」という行為と決して無縁ではなく、書かれた「文学」としても捉えられる側面があるとした。
最後に、ショアーズ氏は、落語は噺本や台本に文字で記録される文学性と、噺家が客席の反応を見ながら柔軟に内容を変えることも出来る演劇性のどちらも備わっている「生きている文学」であると述べ、講演を締めくくった。
講演後には質疑応答が30分ほど設けられ、印象に残っている落語や、新作落語が台頭する中での古典落語の捉え方といったショアーズ氏の落語の修行経験に絡めた質問をはじめ、ドナルド・キーンとの思い出など、多くの質問が寄せられた。
本講演会は、一般財団法人ドナルド・キーン記念財団によるレクチャーシリーズの第1回講演として、早稲田大学総合人文科学研究センター角田柳作記念国際日本学研究所の主催、早稲田大学大学院文学研究科国際日本学コース及び一般財団法人ドナルド・キーン記念財団の共催により開催され、学内関係者に加え、一般の方々にも多数ご来場いただいた。
(ベント勇亮ヘンリー 記)
開催詳細
- 日時:2024年5月31日(金)18:00-19:30
- 開催方式:対面
- 会場:早稲田大学小野記念講堂
- 講演者:M.W.ショアーズ氏(シドニー大学准教授)
- 講演題目:「キーン先生による日本文学の評価そして落語」Japanese Literature Evaluated by Donald Keene, and Rakugo
- 参加人数:130名
- 主催:早稲田大学総合人文科学研究センター 角田柳作記念国際日本学研究所
- 共催:早稲田大学国際日本学コース、ドナルド・キーン記念財団