Research Institute for Letters, Arts and Sciences早稲田大学 総合人文科学研究センター

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【開催報告】アリエル・スティラーマン氏(スタンフォード大学) 講演会

アリエル・スティラーマン氏(スタンフォード大学)は、現在、日本中世の寺社縁起絵巻におけるテクストと絵の双方に注目して、当時の生活、知識、技術の変化を読み解き、さらにそこから新たに共有される文化ネットワークがいかに構築されてゆくのかということを探究している。

今回の講演会では、鎌倉時代に成立した六つの絵巻、すなわち『當麻曼陀羅縁起絵巻』、『春日権現験記絵』、『東征絵伝』、『法然上人絵伝』、『石山寺縁起絵伝』、『松崎天神縁起』(以上、講演での言及順)における寺社の建築に関わる場面がとりあげられた。まず、それぞれの詞書においては、建築に関わる叙述がかなり簡潔である例が大半であるのに対して、それぞれの絵においては、具体的に、また写実的に大工たち、職人たちをはじめとして、建築工事に関係するさまざまな人物がたくさん描き込まれていること、さらには鎌倉時代における最先端の工具類もきわめて的確に描かれている場合が多いことなどが丁寧に紹介された。そこから講演者は、寺社の建築を依頼するエリートたち、その建築工事に携わる大工などの職人たち、さらにその職人たちと絵師との関わりなどについて推察を展開された。あわせて、それぞれの絵が具体的な現場の観察による場合と、現場を見ずに先行する絵巻を手本としている場合があるということなども事例に即して示された。

こうした講演を受けて、日本中世絵画史の山本聡美氏(早稲田大学)が、コメンテーターとして、以下の三点について述べられた。まず、縁起絵巻で建築現場が描かれるのはたしかに鎌倉時代以降であって、そうした表現上の転換点は、十二世紀後半の戦乱後、南都復興がほかならぬ人間の手業によってなされ、古代寺院が再現されたことへの畏怖のあらわれではないかとのことであった。二点目として、絵巻というメディアが果たした役割の重要性とともに、絵画史料論として史料批判が不可欠であるという点が指摘された。さらに三点目として、こうした絵巻にいかなるまなざしが投影されているのかという点、すなわちそこに投影されているのが上位にある注文主から見た現実認識だとすれば、庶民をとらえる上で、「注文主の目から見た望ましい職人の姿」というフィルターを想定する必要があろうとの見解が示された。

次いで、講演者とコメンテーターとのやりとりののち、フロアからは、和歌との関わり、人間行動学との接点、中世における人々の階層に関する理解のあり方など、多岐にわたって活発な質疑がなされた。(陣野英則 記)

   

     

     

開催詳細

  • 日時:2024年6月17日(月)17:00-18:30
  • 開催方式:対面
  • 会場:早稲田大学戸山キャンパス33号館第1会議室
  • 講演者:アリエル・スティラーマン〈Ariel Stilerman〉(スタンフォード大学 Assistant Professor)
  • 講演題目:いい寺つくろう鎌倉の大工――中世前記の縁起絵巻における現場描写について――
  • コメント:山本聡美(早稲田大学 教授)
  • 司会:陣野英則(早稲田大学 教授)
  • 参加人数:38名 (学内者27名、学外者11名)
  • 主催:早稲田大学総合人文科学研究センター 角田柳作記念国際日本学研究所
Dates
  • 0617

    MON
    2024

Place

早稲田大学戸山キャンパス33号館第1会議室

Tags
Posted

Wed, 26 Jun 2024

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