本研究会では研究部門内外からの参加者を対象に、「文化」の定義や機能について複数の現行仮説を例示しつつ、人と動物の文化に関連する動物行動学・神経科学・考古学・文化系統学などの最新の研究知見を紹介した。また田中と研究室メンバーが実施してきた文化伝達実験を紹介し、今後の研究について展望した後に意見交換を行った。
意見交換では、文化伝達を支える模倣学習の分類としてのimitation、emulation、mimicryの区別について指摘があり、動物種の違いや個体の違いによってこれらの模倣形式が異なること、また模倣しやすい対象や模倣時の心的状態に差異があろうことについて議論された。一方で、人の社会でも歌や方言の違いが他文化・他者の受容に大きい影響を与える事例が紹介され、文化と社会は密接に関連していることが改めて確認された。社会学の知見、特に市民社会成立における近代文化の重要性についても指摘があり、文化・社会の発展、ヒトの進化の時間的前後関係や因果関係についても意見交換が行われた。
本研究会では、定義が曖昧になりがちな「文化」や「社会」について論じる困難さ、また多様な文化様相の個別的事例から一定の一般法則を推定する困難さを認識した。しかし意見交換を通して、異なる研究分野ごとの方法論の違い、また研究分野ごとの専門用語の意味範囲について理解を深めることができ、改めて異分野間の対話が重要であることを認識できた研究会であった。本研究会で得られた知見は、ぜひ今後の研究方向の探索に役立てたい。(田中雅史記)
開催詳細
- 日時:2024年5月24日(金)18:00-19:35
- 開催方式:オンライン(Zoom Meeting)、公開(参加者10名)
- 発表者:田中雅史(本学准教授、部門構成員)
- 発表題目:文化を伝える心の不思議