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【著作紹介】『戦後表現』(文学学術院教授 坪井秀人)

(カヴァー写真:石内都「Scars #10」)
名古屋大学出版会 初版 刊行日2023/2/28判型A5判・上製 ページ数 616ページ ISBNコードISBN 978-4-8158-1116-7

本書は1945年8月の日本の敗戦から21世紀、東日本大震災以後のいわゆる〈ポスト3.11〉の現代までの長期間におよぶ時代の文学とその関連領域を対象に、その〈表現〉がそれぞれの同時代とどのように応答し、どのような課題を今日まで残すことになったのかを考察したものである。2025年には日本は〈戦後80年〉を迎える、あまりにも長く続いたこの時代区分の当否については近年、歴史研究を含む人文学の種々の領域で議論が高まっている。そもそも保守長期政権が繰り返し唱えてきたスローガンが〈戦後政治からの脱却〉というものであり、その背景には日本国憲法に依拠してきた戦後民主主義に対する懐疑と批判がある。〈戦後〉という時代認識は左右陣営において政治的な争点になってきたわけだが、世界的に見ても日本の〈戦後〉という時代区分は良きにつけ悪しきにつけ日本の国内的な歴史概念であると言える。本書はこの〈戦後〉という概念を歴史の通念から解放し、その限界および可能性を再検討することを目的としたものである。

この著作では〈戦後〉概念を再審に付す作業が幾つかの位相で行われている。〈戦後〉というまさにこの用語が本来戦争の〈後〉の時代を意味するように、日本の〈戦後〉が戦争経験から何を学び、あるいは学べなかったのかを明らかにすることは本書に一貫する課題であった。戦時期から戦後にかけての連続/不連続の問題は文学の作家や作品の評価にとって避けて通れない。転向の問題や戦時協力した作家や国文学者あるいは国と国の狭間に落ち込んだ日系移民や旧満洲留用者たちがどのように敗戦を跨いだのかを、その表現を媒介に探究したのも、そうした意識にもとづいている。同時に戦争体験の意味が時間の経過とともに文学表現の中でどのように変容していくのか、そしてそれが消費社会やポスト冷戦の波の中でどのような批評的意義を持つのかも、本書の重要な課題であった。これらの課題を作家や文学史ではなく、あくまで表現(表現活動)を基点とする〈戦後表現〉というアプローチを通して解明しようとした。

〈研究内容紹介〉

本書のもとになった研究成果の多くは、私が国際日本文化研究センター在職時にあわせて7年間行ってきた共同研究会「戦後日本文化再考」「東アジア冷戦下の日本における社会運動と文化生産」「戦後日本の傷跡」における戦後研究にもとづいている。その成果は『戦後日本を読みかえる』全6巻(臨川書店、2018-2019)、『戦後日本文化再考』(三人社、2019)、『対抗文化史 ―冷戦期日本の表現と運動』(大阪大学出版会、2021)、『戦後日本の傷跡』(臨川書店、2022)といった論集に公刊されている(いずれも坪井の編著または共編著)。また私は科学研究費助成事業基盤研究Bのプロジェクトとして「〈難民〉の時代とその表現:1930─50年代北東アジアにおける移動と文化活動」(2017-2021年度)および「20世紀北東・中央アジアにおける難民と戦争捕虜の表象」(2022年度-)という、アジアの広範な地域における日本人および朝鮮人の難民の移動とその文化活動に関する共同研究を研究代表者として継続してきたが、これも本書の研究と深く関わる。

早稲田大学文学学術院教授
坪井 秀人(つぼい ひでと)

1987年名古屋大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学、1990年「萩原朔太郎論」で文学博士(名古屋大学)の学位を取得。1987年金沢美術工芸大学講師、1991年助教授、1992年から1993年まで文部省長期在外研究でウィーン大学客員研究員、1995年名古屋大学情報文化学部助教授、1998年教授、2003年文学研究科教授、2008年大学院文学研究科附属日本近現代文化研究センター長、2013年文学研究科附属「アジアの中の日本文化」研究センター長。2014年4月国際日本文化研究センター教授、2022年3月末を以って、同名誉教授。同年4月より早稲田大学文学学術院教授。
著書に『声の祝祭──日本近代詩と戦争』(名古屋大学出版会、1997)、『感覚の近代──声・身体・表象』(名古屋大学出版会、2006)、『性が語る──20世紀日本文学の性と身体』(名古屋大学出版会、2012)、『二十世紀日本語詩を思い出す』(思潮社、2020)、編著として『戦後日本を読みかえる』全6巻(編著、臨川書店、2018‐2019)、『戦後日本文化再考』(編著、三人社、2019)などがある。

(2023年8月作成)

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