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【著作紹介】『パーソナリティのHファクター:自己中心的で,欺瞞的で,貪欲な人たち』(文学学術院教授 小塩真司)

北大路書房 初版 刊行日2022/7/15 判型 ページ数 208ページ ISBNコードISBN978-4762831973

「パーソナリティ」というのは,いわゆる「性格」のことです。100年ほど前から,人間のパーソナリティ特性(ものさしのような測定できる次元)がいくつあるのかという研究が始まりました。その方法は,まず辞書からパーソナリティを表現することができる単語を取り出すところから始まります。海外でも日本でも,分厚い辞書から人間を形容することができる単語を抜き出していくと,数千語を抽出することができるのです。

次のステップは,抽出した単語を整理していくことです。まず調査を行って,各単語の使用頻度を確認します。そして類義語や反義語は,同じ次元を表していると考えてできるだけまとめていきます。ある程度,単語が絞り込まれたら,それぞれの単語が自分自身や周囲の人にどの程度当てはまるのか,アンケートを実施して尋ねていきます。ときにアンケートは数百人から数千人を対象に実施されることもあります。そして得られたデータを分析することで類似した単語がまとめられ,人間が人間を形容するときにどのようなまとまりで評価を行うのか,評価次元が抽出されていきます。

1990年代以降,このような研究の流れの中で見出されてきたのがBig Fiveや5因子モデルと呼ばれる,外向性,神経症傾向,開放性,協調性,勤勉性という5つの次元でおおまかに人間のパーソナリティを記述するという枠組みでした。この枠組みは現在,心理学のみならず他の学問分野にも,さらに企業が行うマーケティング場面などにも広く用いられるようになっています。

この「当たり前」のように定着してきたBig Fiveに対して「パーソナリティの基本次元は6つだ」と主張したカナダの研究者たちがいます。彼らは独自に辞書から単語を抽出し整理を試みる中で,Big Fiveにもう一つの次元を加えたようなHEXACO(ヘキサコ)モデルを提唱しました。この中でもH因子が正直さ・謙虚さを表す因子であり,このモデルで独自に見出されたパーソナリティの次元です。この次元は高い方向よりも低い方向になると,自己中心的で他者を自分の思いどおりに操作するような行動につながることが明らかにされたことで,研究の中で注目を集めていきます。

HEXACOモデルの内容はさておき,筆者らが大学院生の時に見つけたこのパーソナリティモデルは,その後世界中の研究者の注目を集めていきました。一時期は「Big FiveはHEXACOモデルに置き換えられるのではないか」という噂も耳にしたものです。HEXACOモデルは,大学院生が行う研究であっても,世界中の研究者に影響を与えることがある,というひとつの事例でもあるのです。本書を読む中で,研究の中で抱くわくわくする感覚についても味わってもらえればと思います。

〈研究内容紹介〉

人間のパーソナリティ(性格特性)について,測定尺度の開発,年齢に伴う発達的変化,居住地による差異,時代要因による変化,適応・不適応との関連,海外の研究者と共同研究をするなかで国際比較を試みるなど,さまざまな観点から研究をおこなっています。研究の内容については早稲田大学パーソナリティ心理学研究室のwebサイトをご覧ください。

早稲田大学文学学術院教授
小塩 真司(おしお あつし)

愛知県生まれ。名古屋大学大学院教育学研究科博士後期課程修了。博士(教育心理学)。中部大学を経て2012年より早稲田大学文学学術院准教授,2014年より同教授。著書に『はじめて学ぶパーソナリティ心理学―個性をめぐる冒険―』(ミネルヴァ書房,2010年),『性格を科学する心理学のはなし』(新曜社,2011年),『Progress & Application パーソナリティ心理学』(サイエンス社,2014年),『性格がいい人、悪い人の科学』(日本経済新聞社,2018年),『性格とは何か』(中央公論新社,2020年),『非認知能力:概念・測定と教育の可能性』(編著,北大路書房,2021年),『レジリエンスの心理学:社会をよりよく生きるために』(編著,金子書房,2021年),『パーソナリティ・知能 キーワード心理学11』(共著,新曜社,2021年),『大学生ミライの信頼性と妥当性の探究』(ちとせプレス,2022年)など多数。

(2023年5月作成)

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