Research Institute for Letters, Arts and Sciences早稲田大学 総合人文科学研究センター

その他

現代社会における危機の解明と共生社会創出に向けた研究

本研究は、グローバリズムが進行しつつある現代社会において出現する危機の様相を解明し、その危機を克服していく方途として社会学や教育学、心理学をはじめとするさまざまな学問領域の研究を相互に関連づけながら共生社会創出に向けての可能性を探っていこうとするものである。現代社会を襲う経済的な危機や巨大災害などは、国家の枠を超える広範な社会的影響を惹起し、人々の日常生活を混乱に陥れて心身の状態を蝕み、社会的な亀裂を深めて分断や差別を助長し、社会構造の基本的な編成の仕組みを変質させて民主的なルールを破壊していく危険性を内包する。それに対して、危機的状況におかれている個人や集団への支援や的確な対応、社会・教育等の視点からの差別や暴力の克服、社会制度を支える主体のあり方とエンパワーを基礎とする新たな社会構築の原理の模索など喫緊の課題は山積している。そうした課題に取り組みながら、共生社会のビジョンを検討しその創出の可能性や方途を吟味していくことを研究の目標に掲げたい。

本研究では、そうした現代社会の危機のひとつの典型として、まず東日本大震災がもたらした社会的な課題に取り組むことにしたい。東日本大震災は、私たちの社会生活を根幹から危機的状況に陥れ、日本が直面するさまざまな現代社会の課題を突きつけており、この危機的状況におかれている個人や集団への早急かつ適切な対応は、いうまでもなく我が国における喫緊の課題となっているからである。そこでは、個人の心身の状態やメゾ環境(家族、職場、学校、地域社会など)の属性に応じた現実的かつ効果的な社会生活支援が必須である。本研究では、さらに人文科学の枠組みから現在の危機的状況の内実を明らかにし、危機に直面している人々に対する社会生活支援を行うための心理的生活基盤・社会的生活基盤・教育的生活基盤をさぐり、その基盤形成の実現をはかる方策を含めて検討していきたい。そうした試みは、共生社会創出に向けた展望をどのように描くかという長期的な研究課題に繋がっていくと思われる。具体的な研究課題として当面以下の3点を進めていく予定である。

  1. 危機的状況の全体像を、心理学、社会学、教育学において蓄積してきた観察法や調査法を用いて経験的かつ包括的に明らかにする。
  2. 必要とされる社会生活支援の心理的基盤・社会的基盤について戦略的に検討する。
  3. 基盤形成の実現にあたって、具体的な個別課題(貧困、就業困難、教育困難、家族崩壊、高齢者の孤立、健康被害、発達障害、社会的意欲の減退、少年矯正、臨床心理など)をとりあげ、課題ごとに、量的調査研究ならびに事例的調査研究をもとにその解決策を探索し実践していく。

シンポジウムやワークショップの開催や学術雑誌への論文発表、論文集の刊行などで研究成果を国内外に公表する。喫緊の計画では、2012年4月に実施した総合人文科学研究センター・キックオフ・シンポジウム内容を拡充した出版物の作成(ブックレット「震災を考えるシリーズ」での3冊の出版を2012年度に行う予定。このシリーズは韓国語に翻訳出版される計画)、岩手大学とのジョイントによる被災地でのワークショップの実施などがあり、2013年度以降も順次研究成果の発表を予定している。また、2012年12月に開催される日本・中国・韓国・台湾の4カ国5大学(早稲田大学、南開大学、清華大学、漢陽大学、台湾国立大学)による国際シンポジウム「第4回東アジア人文学フォーラム」においても、『危機と再生―グローバリズム・災害・伝統文化―』が共通課題として取り上げられているので、それらの成果も踏まえてこの研究部門の研究活動の広がりや他研究部門や領域との研究連携に繋げていくことは視野に入れておきたい。

メンバー紹介

部門代表者

村田 晶子

研究所員

  • 阿比留 久美
  • 岡本 智周
  • 久保田 治助
  • 齋藤 梨津子
  • 嶋崎 尚子
  • 城田 美好
  • 竹村 和久
  • 津田 好美
  • 土屋 淳二
  • 豊田 真穂
  • 村田 晶子
  • 矢内 琴江
  • 山辺 恵理子
  • 浅川 達人
  • 石倉 義博

招聘研究員

  • 浦野 正樹
  • 川副 早央里
  • 近藤 牧子
  • トウ シキン
  • 野坂 真
  • 細金 恒男
  • 松村 治
  • 和田 修一

研究報告

2023年度の活動

  • 第1回 研究会
    日時:2022年7月3日(日) 10:00〜12:00
    講師:野坂真氏(文学学術院講師(任期付)研究員)
    (概要)
    日本大震災の津波被災地では、発災から 10 年以上が経ち、モノの復興は完了しつつあるように見 える。しかし、災後を生きる人々が心穏やかに暮らしていける環境づくりなど「心の復興」は今でも重要な課 題であり続けている。同時に、次に起こるかも知れない大災害に備え、実際の震災の経験に基づく教訓を次世 代や他の地域に継承する「震災伝承」は、日本社会全体における重要な課題となっている。震災遺族のように 深刻な経験をした人々にとって、震災後の経験や気持ちを表現することは、大きな心の負担をともなうことも 多い。しかし、1 万 8 千人以上が犠牲となった東日本大震災の教訓は、犠牲者に関わる経験なしに考えること はできない。このような両立が難しい、だが両立することが重要な 2 つの課題にいかに応えるか。
    そこで、津波で住民の 1 割弱が犠牲となった岩手県大槌町において、遺族が自身の経験や気持ちをいかに表 現しときに伝えようとしているか、遺族にとって表現するという行為と心の復興とにどのような相互作用があ るか、報告者が約 10 年にわたり続けてきた遺族へのインタビューや現地での実践から社会学的に検討した。

 

  • 第2回 研究会
    日時:2022年8月4日(木) 13:00〜15:00
    講師:近藤牧子氏(早稲田大学非常勤講師、招聘研究員)
    テーマ:
    市民社会による政策提言活動と行政組織との関係構築─第 7 回ユネスコ国際成人教育会議プロセスを 事例に
    (概要)
    1947 年より、ユネスコの主導にて開催されてきた国際成人教育会議ですが、近年、気候変動をはじ めとする様々な地球的課題に関わる国際会議では、市民社会(Civil Society)があらゆる会議プロセスにコミッ トし、影響力を発揮してきている。当該会議を迎えるにあたり、日本でも成人教育に関わる市民社会が、成人 教育行政部局である文部科学省教育総合政策局への政策提言活動を行ってきた。市民社会組織、政策提言、行 政組織と、いずれも多様な次元や規模をもつ言葉ではあるが、本報告では、この会議プロセスにおいて、いか に市民社会がコミットしてきたのかという経緯と成果を報告した。

 

  • 第3回 研究会
    日時:2023年2月22日(木) 10:00~12:00
    講師:川副早央里氏(東洋大学助教、招聘研究員)
    テーマ:
    空間なきコミュニティの復興と広域自治会の取り組みー富岡町の事例から
    (概要)
    福島第一原発事故の発生から 12 年。被災地では帰還政策によって除染作業やインフラ整備が進め られている一方で、住民の帰還はなかなか進まない状況がある。空間なきコミュニティの復興とは何かを検討するために、本報告では、避難した住民が避難先で設立した「広域自治会」の活動に着目し、避難生活および 生活再建において住民が抱える課題、その課題解決にむけた対応とその成果、そしてそれらの住民活動が町全 体の復興において果たした役割について考察した。

 

  • 講演・座談会・動画配信
    配信期間:2022 年 11 月 27 日(日)12:00 - 12 月 11 日(日)24:00(JST)(Youtube)
    テーマ:わすれな草:東日本大震災遺族の記憶を記録し伝えることについて《当事者》と語り合う
    (概要)
    *講演会・座談会 2022 年 11 月 26 日(土)13:30~16:00
    ・基調講演:「刻まれる『生きた証』~震災遺族の取材から」
    藤原規衣(元岩手朝日テレビ記者・アナウンサー)
    *震災発生時に岩手朝日テレビ記者・アナウンサーで、その後、岩手県沿岸部での取材を行った。被災者と りわけ震災遺族への取材の経験から震災の記憶を記録し伝える重要性と同時に、その課題について講演し ていただいた。
    ・座談会:藤原規衣氏のほか、大槌町に住んでいた家族が津波の犠牲となった倉堀康氏、野坂紀子氏を中心 に、安渡公民館での参加者やオンラインを介した参加者も加わり、「震災をいかに伝え、震災から癒され るか?」というテーマで意見交換を行った。

2022年度の活動

  • 心理学セミナーシリーズ
    • 日時:2021年8月26日(月)
    • 場所:Zoom開催
    • 講師:小島哲(韓国脳科学研究所(KBRI))
    • 概要:運動シークエンスの誤差制御を達成する脳基盤に関する最新研究の紹介

2021年度の活動

  • 研究会「東日本大震災前後における災害サイクルと地域存続ビジョンの変遷:津波被災地域でのフィールド ワークの結果より」
    • 日時:2021 年 7 月 30 日(金)
    • 場所:Zoom 開催
    • 報告者:野坂真(早稲田大学文学学術院社会構築論系講師(任期付))

2020年度の活動

2018年度の活動

2017年度の活動

2016年度の活動

2015年度の活動

2014年度の活動

2013年度の活動

2012年度の活動

Page Top
WASEDA University

早稲田大学オフィシャルサイト(https://www.waseda.jp/flas/rilas/)は、以下のWebブラウザでご覧いただくことを推奨いたします。

推奨環境以外でのご利用や、推奨環境であっても設定によっては、ご利用できない場合や正しく表示されない場合がございます。より快適にご利用いただくため、お使いのブラウザを最新版に更新してご覧ください。

このままご覧いただく方は、「このまま進む」ボタンをクリックし、次ページに進んでください。

このまま進む

対応ブラウザについて

閉じる