子どもたちに笑顔を~石巻での身体表現授業を行って~
大学院創造理工学研究科 修士課程 1年 林 真秀(はやし・まほ)
2016年6月、宮城県立石巻支援学校にて“影遊び”を用いた身体表現の授業を行いました。この学校に通っている発達障がいを持つ子どもの多くは、人とのコミュニケーションを苦手としています。このような子どもたちに、授業を通して体を動かすこと、みんなで遊ぶことの楽しさを知ってもらいたいと考えました。
生きるということは、多かれ少なかれ誰かと関わることを必要とします。しかし、人との関わりを苦手とする人がいることも事実です。
私が所属する三輪敬之先生(創造理工学部教授)の研究室では、人と人とのつながりを支援するため、影に着目しています。
皆さんも、一度は影遊びをしたことがあるかと思います。影はさまざまな物を想像させます。また、全身を使ってポーズを取ったり、他人の影と重なったりすることで、より不思議な影を作り出せます。誰かと一緒に影を形作る影遊びは、体を動かしながら、自然にコミュニケーションを楽しめるのです。
この影遊びなどに見られる影の性質に着目し、私たちは「影メディア」という体験型メディアを開発しています。影メディアは、体験者の影の色や形を変えた映像をプロジェクターで投影するというものです。この影メディアの体験者は、楽しそうに体を動かし、広く動き回ります。この体験を通して、体験者は楽しさや生き生きした感じを得られます。
今年6月の授業では、影メディアを子どもたちに体験してもらいました。幅14m、高さ4mの巨大なスクリーンを体育館に設置し、小・中学部の皆さんと、約20名ずつ計3回にわたって授業を実施しました。その準備期間は3カ月にわたり、私は研究室の学生約30名の取りまとめを行いました。最初の1カ月は、全てを自分一人で考えて決めなければいけないことが苦痛でした。一人ではどうにもならず困っているとき、毎日メンバーと顔を合わせることが大事だという先生からの助言を受け、毎日1時間ほど会議をすることを始めました。そこでは、各人の作業状況を報告し合い、課題点を共有しました。その結果、問題解決に向けて全員で考えることが可能となりました。また、それまで受け身であったメンバーも、プロジェクトに向かう時間が増え、加えて全体の状況が把握できたことで、自ら行動し意見を出してくれるようになりました。私一人で課題や責任を抱え込んでいたときはばらばらだった研究室のメンバーが、情報を共有することで全体として意識が高まり、まとまりが生まれたように思います。
このような多くの苦難を乗り越えて迎えた授業当日。子どもたちに楽しんでもらえるかと不安でしたが、目を輝かせて影に見入り、先生役の学生と手をつないで楽しんでいる姿を見ることができました。子どもたちは初対面の人と打ち解けるのが苦手で、走り回ったり騒いだりするだろうと事前に支援学校の先生から伺っていました。しかし、研究室のメンバーと子どもたちはこの日が初対面であるにもかかわらず、子どもたちは真剣に授業に集中してくれて、自ら手を握ってくれたことがとても印象的でした。コミュニケーションが苦手な子どもたちが、影メディアを通して人とつながることの楽しさを感じてくれたように思えました。
この経験を通し、私自身が仲間と協力して物事を創り上げることの楽しさを学べたと感じます。また、自分の研究が誰かのためになることを感じられた素晴らしい体験となりました。
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