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ヒトとマウスから探る「他者を認知する」脳【人間科学研究科】

2026年7月、学会でのポスター発表にて

大学院ってどんなところ? 現在、早稲田大学には21の大学院があります。今回の「研究まっしぐら!」は、人間科学研究科で研究に励む市原さんのキャンパスライフを紹介。大学院へ進学した理由をはじめ、学問の魅力だけでなく、一日の過ごし方も伝えます。

「こころ」がどのように成り立っているのか、科学の側から迫りたい

大学院人間科学研究科 博士課程 4年・人間総合研究センター 助手 市原 華(いちはら・はな)

マウスにも「仲間」が分かるのでしょうか。集団で暮らすマウスは十数匹の仲間を見分け、相手との関係によって行動を変えることが、私たちの研究から分かってきました。環境脳科学研究室(掛山正心教授・人間科学学術院)では、環境が脳・こころ・行動にどう影響するかを研究しています。

私は海外で生まれ、異なる文化や環境に触れながら育ち、生き物や科学、そして人が好きで、「いつか人と関わる仕事がしたい」と考えていました。そうした関心から“人間”について学ぶ中で、不思議に思うことが増えていきました。私たちは、自分を「自分」だと認識し、他者を見分け、家族や仲間との関係を築きながら生きています。それでも、人との関わりに悩んだり、こころの問題を抱えたりすることがあります。そもそも、自分や他者を認識し、人と関わる私たちの「こころ」とは何なのだろう? という問いが生まれ、掛山先生の研究室で研究を始めました。

人間科学部の卒業研究では、マウスを用いて抗うつ薬が認知機能に与える影響を調べました。結果は仮説通りにはなりませんでしたが、それも大切な結果です。この「なぜだろう?」という疑問が、修士課程へ進む原動力になりました。

写真左:開発したマウスの行動試験装置。自由行動下でマウスの自発的な行動を評価できるように設計しており、1日数十万件の行動データを取得します
写真右:実験の様子。マウスや薬品の取り扱い、実験プログラムの作成、データ解析など、研究に必要な知識や技術を共有し、研究室のメンバーと連携しながら研究を進めることを大切にしています

2024年、学会発表で訪れたウィーンにある、ペスト記念柱。研究を通じてさまざまな土地を訪れ、その文化や歴史に触れられることも、学会参加の楽しみの一つです

修士課程では、マウスが仲間を見分ける能力を調べる実験方法を開発し、周産期における環境中の化学物質曝露(※)がその能力に与える影響を研究しました。ヒトでは多くの環境要因が重なりますが、マウスでは条件を統制することで、特定の要因が脳や行動に与える影響を検証できます。人の複雑なこころを考えるために、その基礎にある仕組みを一つずつ調べていくことに、研究の面白さを感じるようになりました。

※ chemical exposure:吸入や摂取などを通じて、生体が化学物質にさらされることを指す

もともと飽きっぽい私ですが、うまくいかなければ考え直し、また試すうちに、気付けば一つの問いを追い続けていました。一つのことにこれほど本気で取り組んだのは初めてで、研究について語り、協力できる仲間に出会えたことも大きな財産です。こうした経験は、現在博士課程の研究に取り組む中でも支えになっています。

博士課程では、目の前の実験を進めるだけでなく、得られた結果をどう解釈し、次の検討にどうつなげるかを考えながら、研究全体の筋道を意識するようになりました。また、研究を重ねる中で、自分が研究者としてどのような専門性を築き、どのような問いを追究していきたいのかを考えることも増えています。

現在は、マウスとヒトの両方から「他者を認知する仕組み」について研究中です。マウスでは、仲間をどう認知し、集団で関係を築くのかを調べています。ヒトでは、顔と名前など複数の情報を結び付けて覚える「連合記憶」に着目し、研究室で独自に開発した認知テストアプリを用いて調査を行っています。対象や研究手法は異なりますが、根底にあるのは「私たちは、どうやって他者を『この人だ』と認識しているのか?」という共通の問いです。

研究の概要図

研究以外では、大学の研究プロジェクトの一環として、市民講座の運営にも携わっています。人間科学学術院の先生方の研究を、所沢市に在住・通勤・通学する方々に届け、大学の研究と地域をつなぐ場づくりにも取り組んでいます。

マウスだからこそ詳しく調べられる脳の仕組みがあり、ヒトだからこそ分かる複雑な認知やこころの働きがあります。それぞれの研究から分かることを積み重ねながら、自分と他者を認識し、人と関わる私たちの「こころ」がどのように成り立っているのか、科学の側から迫りたいです。かつて「人と関わる仕事がしたい」と思っていた私は、今、研究という方法で人と関わっています。これからも「人をもっと知りたい」という原点を大切に、研究で得た知識を人や社会に還元していきたいです。

ある日のスケジュール

趣味はDJ。R&Bを中心に、PopやSoulなど幅広いジャンルの音楽が好きで、その時々の気分に合わせて曲を選び、つないでいます。歌詞を通して他言語ならではの表現に触れられるのも楽しいです

  • 09:00 自宅で研究作業(リモートで実験データの確認や操作、メールなど)
  • 10:00 所沢キャンパスへ移動(最近の楽しみは、移動中にオーディオブックで心理小説を聴くこと)
  • 12:00 大学で昼食(研究室のみんなと学食で食べることが多いです)
  • 13:00 ジャーナルクラブ(大学院生を中心に論文を紹介し合います)
  • 15:00 実験作業(実験、マウスの世話、清掃など)
  • 19:00 データ解析・論文執筆(日々のデータを整理)
  • 22:00 帰宅・夕食(また、オーディオブック。自炊も心掛けています)
  • 23:00 ジム(運動不足解消のため、渋々行きます)
  • 24:00 趣味の時間(犬や猫と戯れたり、創作活動も行います)
  • 25:00 就寝

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