「出会う人や体験を新たな宿選びの基準に」
政治経済学部 3年 関上 雄大(せきがみ・ゆうだい)

ビジコンの賞状と一緒に。早稲田キャンパス 3号館1階にて
2025年8月まで、国立市谷保にある築およそ60年の空きアパートをリノベーションした宿泊施設「ゲストハウスここたまや」の代表を務めていた関上さん。地域と関わる宿泊の魅力やイベントを発信してきたことから発想を得て、2025年7月に開催された「第28回早稲田大学ビジネスプランコンテスト」(以下、ビジコン) では、体験型宿泊専用プラットフォーム「ロカンス」を提案し、優勝しました。そんな関上さんに、「ロカンス」というプランに至った経緯や、新しい宿泊体験のモデルづくりについて聞きました 。
――ビジコンで優勝した時は、どんな気持ちでしたか?
実は一昨年、昨年、今年と3回目の出場なんです。1年生で初めてチャレンジした時は書類落ちという結果で…。昨年度はファイナリストまで残って、「ICHIZEN」という別の事業で準優勝をいただいたのですが、せっかくなら優勝したいという気持ちが強くありました。本当に悔しくて、「絶対にリベンジします」と大学のWebサイトにコメントしたくらいなので、1年越しの雪辱を果たし有言実行できたことは、心からうれしく思っています。

3回目の挑戦となった今年度(第28回)のビジコンで優勝した時の関上さん
――優勝したプラン「ロカンス」の具体的な内容やビジョンについて教えてください。
旅行の計画を立てるときは、大手のオンライン宿泊予約サイトを利用する方が多いです。そして、ある旅行雑誌の調査では、宿を選ぶ際の決め手として、料金、食事、大浴場、設備などが上位に挙がっています。そもそも大手サイトの情報が宿の「内側」中心だからこそ、それらが自然と判断基準になってしまうのかもしれません。 ただ、それだけでは残念だと感じ、宿泊施設の「内側」ばかりを重要視する現状を問題提起しました。
体験型宿泊専用プラットフォーム「ロカンス」の特徴は、「地域との関わり方の種類や度合い」で宿を探したり、「会いに行きたい・話を聞きに行きたい人」の近くの宿を探したりできる点です。「地域で過ごす体験」に完全に特化した宿選びサービスのアプリなんです。これは、「たまこまち」の代表として「ここたまや」を経営してきた経験から、宿泊施設の「外側」に広がる地域や人と関わる面白さをもっと多くの人に知ってほしい、という思いがあったことに始まっています。
「ローカルバカンス・ローカルレゾナンス」というキャッチコピーを略して作ったサービス名「ロカンス」は、近年はやりの「ホテル」と「バカンス」を組み合わせた造語「ホカンス」を意識。「せっかく泊まりに出掛けるなら周りの地域・人々と関わってなんぼ」という考えから、「ロカンス」を「ホカンス」の対義語として作ったそう。これからの目標は、「ロカンス」という言葉や概念を宿選びで当たり前に使うこと、と話す
人や体験に価値を置く宿泊なら、宿泊者にとっては忙しい日常で忘れかけていた「人と人の温かいつながり」を気軽に得られる機会になりますし、宿泊施設にとってはハード面での大規模な改修をせずに古い施設を再生でき、コストを抑えたリブランディングにもなります。さらに、地域での暮らしを体験することは、移住や二拠点居住の促進、関係人口創出のきっかけにもなり、地方活性化にもつながるのではないかと考えています。
――発想のきっかけとなった「ここたまや」とは、どのような施設ですか?
「ここたまや」は、一橋大学に拠点を置く学生団体「たまこまち」が経営している施設で、自分は7代目の代表として活動しました。築およそ60年の空きアパートを少しずつリノベーションし、日々の客室準備や接客業務はもちろんのこと、より良い運営の仕組みやさまざまな宿泊プラン、地域を巻き込んだユニークなイベントもたくさん実施してきました。特にコンセプトに掲げているのは、農業体験と宿泊を組み合わせた「農泊」です。新宿から1時間以内の国立市谷保にあるので、遠方に行かなくても農泊を体験できる手軽な施設として注目されています。
写真左:提携している近隣のコミュニティー農園「くにたちはたけんぼ」で朝食プランの野菜収穫体験をしている様子。収穫できる野菜は季節ごとに変わるそう
写真右:「ここたまや」と、運営メンバーの集合写真
――「ここたまや」の活動の中で、印象に残っている出来事はありますか?
ユニークな経歴を持った方が泊まりに来てくださり、 普通に学生生活を送っていたら絶対に関わることがなかったであろう方々に出会えたことです。例えば、フランスから2カ月ほど滞在された方がいたのですが、私たちはフランス語を話せなかったので、最初はお互いたどたどしい英語で会話をしていました。身ぶり手ぶりを交えてやり取りするうちにだんだんと打ち解けて、最後には一緒にラーメン屋や銭湯に行くくらい仲良くなりました。
また、ゲスト同士やスタッフがのんびりと交流できる共有リビング「コモンルーム」では、その方とメンバーの一人が将棋の対局をしていて。言葉が十分に通じなくても、将棋のように共通して楽しめるものがあることで心が通じ合えるのだと実感できました。国内外問わずさまざまな場所から多様なバックグラウンドを持った方が集うこの「コモンルーム」には、他にも数えきれないほどの印象的な思い出がありますね。

フランスからの長期滞在ゲストと鍋を囲んだ「コモンルーム」でのひととき。「その時々のゲストさんと一緒にご飯を食べたりカードゲームをしたりした思い出は、一生ものです」と、関上さん。(左から5番目)
――そもそも、なぜ「地域」や「宿泊」に興味を持ったのですか?
もともと建物が好きだったんです。酒蔵を改修した宿泊施設や、廃校を再利用した道の駅など、古い建物を長く大切に使うための「リノベーション」にも強い興味を持っていました。
早稲田に入学してどのサークルに入るかを考えた時、自分の好きを生かせる建物やそのリノベーション、そして高校生の頃から「いつかやってみたい」と思っていた地域と関わるビジネスへの関心、さらに旅行が大好きだったこと、この三つが合わさって「ここしかない!」と思い「たまこまち」に入会したんです。インカレ団体で、自分が入会するまで早大生のメンバーはいなかったので、最初はかなり勇気が要りました。

3号館で取材に応じる関上さん。「たまこまちや、ここたまやに興味を持ってくれた方はぜひ遊びに来てください!」と語る
――今後の展望や早大生へのメッセージをお願いします。
一番伝えたいのは、「地域や人と関わるってこんなに面白いんだ」ということですね。「ここたまや」の活動では、「こんなに気持ちの良いのどかな田園風景が都内に残っていたなんて!」という声や、「この地域は過ごしやすいし子育てもしやすいと思ったので、この畑の近くに一軒家を買いました」という声も聞こえてきました。われわれのイベントだけが移住した理由ではないと思いますが、魅力あるユニークな地域づくりの一端を担えていると実感できたことが大きな励みになり、自分も地域の一員になれたように感じられました。私自身、今まで国立市や谷保地域にはまったく縁もゆかりもなかったのですが、さまざまな活動を通じて顔なじみも増え、まさしく「第二の故郷」のような場所になったのは本当にうれしいことです。
最後になりますが、「この地域面白い」「この地域をもっと良くしたい」と思うのはいつからでも遅くはないはずなので、ぜひ皆さんにも気になる地域に足を運び、その地域の文化や人々にどっぷりとつかってみてもらいたいです。
第910回
取材・文・撮影:早稲田ウィークリーレポーター(SJC学生スタッフ)
商学部 2年 松本 佑貴
【プロフィール】

多摩エリアに、若年層向けコミュニティースペースを起業する準備を進めている関上さん。2026年夏までのオープンを目指しているそう
埼玉県出身。埼玉県立浦和高等学校卒業。政治経済学部に進学したのは、政治学と経済学を体系的に学べることに魅力を感じたから。ゼミでは、自治体の都市計画と地域経済の関係性などを学んでいる。
趣味は、日々新しいことに挑戦すること。行ったことのない土地や出会ったことのない人との交流、未知のアクティビティーや食べ物など、常に“まだ見ぬワクワク”を探している。最近は、かねてより念願だった「たまこまち」の同期とのルームシェアを始めたそう。好きなワセメシは「紅蓮(ぐれん)」の「海老マヨ油そば」と「極上海老つけ麺」。
関上さんのInstagram:@y_sekigami
ゲストハウスここたまや公式
X:@_kokotamaya
Instagram:@guesthouse_kokotamaya
Webサイト:https://kokotamaya.com/










