「お互い負けず嫌いなので、相手の姿を見て良い刺激をもらっています」
スキー部 NC(ノルディック複合)チーフ
スポーツ科学部 4年 葛西 優奈(かさい・ゆうな)
スキー部 副務
スポーツ科学部 4年 葛西 春香(かさい・はるか)

早稲田大学スキー部合宿所(埼玉県所沢市)の食堂にて。左から優奈さん、春香さん。2025年の「世界選手権」で獲得したメダルと共に
スキージャンプとクロスカントリースキーの総合力を競うノルディック複合(※)。異なる2種目を極める必要のあるこの過酷な競技で、葛西優奈・葛西春香選手は、世界を舞台に活躍しています。2025年2~3月、ノルウェーのトロンハイムで行われたノルディック複合の「FISノルディックスキー世界選手権」では、優奈さんが日本人初となる金メダル、春香さんが銅メダルを獲得し、双子で表彰台に乗るという快挙を達成! 長らく男子のみで実施されてきた競技で、女子はいまだオリンピック種目としては採用されていません。「2030年冬季オリンピック」で正式種目に採用されることを願い、そこでの金メダル獲得という夢を追いかける2人の、競技に対する思いや原動力、学生生活に迫りました。
※ジャンプ台から飛び出して飛行型や距離を競うスキージャンプと、雪上のコースをスキー板で進みタイムを競うクロスカントリーの2種目の成績によって順位を競う競技。
――ノルディック複合という競技を主軸に置こうと決断したきっかけは何でしたか?
優奈:小学3年生の時に、スキージャンプ選手だった叔母の影響でジャンプを始めました。その後、トレーニングの一環でクロスカントリースキーも遊び半分で始めたのですが、転機となったのは、小学6年生の時に出場したノルディック複合の男女混合大会です。男子を抑えて優勝し、その喜びとゴールした時の達成感に競技の楽しさを見いだしたんです。
春香:私はあまり積極的ではなくて(笑)。小さい頃、優奈のジャンプの練習に付いて行くうちに、周りの方々の勧めもあって自然とスキージャンプを始めました。最初は小さなスキー台からジャンプすることも怖くて…。中学に上がった時も、ノルディック複合をやるつもりはなかったんです。でも、あるノルディック複合の大会で優奈が優勝、私が2位でフィニッシュし、この競技への適正を感じて続けようと決めました。今思うと、優奈に引っ張られたところが大きかったですね。

小学5年生で出場した男女混合の大会では、優奈さん(右から3人目)が8位、春香さん(右端)が10位に入賞した
――これまでの競技人生の中で、最も印象に残っていることを教えてください。
優奈:2025年の世界選手権ですね。日本人初の金メダル獲得もうれしかったですが、国際大会で春香と2人で表彰台に立てたことが特に印象に残っています。双子での表彰台は反響も大きく、国内外のメディアでも取り上げていただきました。
春香:私も2人で表彰台に立てたこの世界選手権は、喜びと衝撃が強く印象的でした。ただ、個人的には2023年の前回大会と同じ銅メダルという結果に悔しさが残っているので、今後は金メダルを目指して頑張りたいと強く思いました。

2025年世界選手権にて、優奈さん(左)が1位、春香さん(右)が3位を獲得した時の一枚
春香:もう一つ、 高校3年生の時に、「ジュニア世界選手権」と「ワールドカップ」デビュー戦の2試合で続けて表彰台に乗れたことも印象に残っています。
というのも、前年の高校2年生の時は、初めてノルディック複合女子の世界選手権が開催された年だったのですが、優奈は日本代表に選ばれた一方、私は選考から外れてしまいました。さらにコロナ・パンデミックの影響で、思うように練習ができず。気持ちも沈んでスキーを辞めたくなって、しばらくスキーから距離を置いた時期がありました。そんな中、優奈が試合に出場している姿をテレビで見て、だんだんと悔しさが湧いてきて、また頑張ろうと思えたんです。その悔しさが翌年の二つの表彰台につながったので、大きなターニングポイントでした。
優奈: 実は、ちょうど春香の調子が上がってきた高校3年生の頃、今度は私が試合に出られなくなったんです。ジャンプは飛べてもクロスカントリーを走り切れず、過呼吸で救急車やドクターヘリで運ばれてしまうようなことが何回か続きました。春香と同じように私もスキーから少し離れましたが、その後、大学に入学して周囲の環境が一変したことで気持ちを切り替えられたのは、私のターニングポイントでした。異なる競技に取り組むスキー部の仲間たちが頑張っている姿が大きな刺激となり、「またスキーをしたい」と思えるようになったんです。
写真左:2020年、高校2年生で初めてワールドカップに出場した時の優奈さん
写真右:2021年、高校3年生の世界選手権で表彰台に乗った時の春香さん(左端)
――双子で同じ競技を続けて良かったこと、そしてお互いの関係性をどう感じていますか?
春香: 良かったことは、1番近くに練習パートナーがいることですかね。ジャンプなどの技術的なことに関して、気を使わずに率直なアドバイスを言い合えますし、他にも、海外遠征で家族がそばにいるという安心感は、メンタル面で本当に心強いです。
優奈:日頃は何でも頻繁に話し合うという関係ではないのですが、それが結果的に程良い距離感になっているのだと思います。お互いが負けず嫌いなので、相手の姿を見て「練習しなきゃ」と良い刺激をもらっています。
春香:また、マイナー競技である女子ノルディック複合に双子で取り組むことで影響力も2倍になり、世の中に注目してもらえるのではないかとも考えています。オリンピック種目への採用と金メダル獲得を目標としているので、より多くの方々に注目してもらい、結果を残すことが大事だと考えています。
――早稲田大学への入学を決めたのはなぜですか?

優奈さん
春香:2017年に初めて女子ノルディック複合のナショナルチームができた時から一緒に練習してきた先輩である、宮崎彩音さん(2025年スポーツ科学部卒)が進学されていたことが1番の理由です。
優奈:先輩と共に大学でも練習ができることに加えて、早稲田は競技を行う上で集中できる環境が整っている点に魅力を感じました。学生生活や寮生活を通してさまざまな種目の人と関わることで、周囲から良い刺激を得られますし、栄養学やスポーツ障害の予防、コンディショニングなどに関する授業も実際の競技に役立っているなと感じています。
春香:私たちは、2人とも前田清司教授の生理学を研究するゼミに所属しています。卒論のテーマは「アスリートの試合前のルーティーン」で、実際に周囲のトップ選手に同テーマに関するアンケートを取って調査中です。
優奈:私の卒論は、「アスリートの試合前の睡眠が翌日の試合にどのような影響を及ぼすのか」というテーマで、実際に自分を実験台にして研究を進めています。自分が競技を行っている中で疑問に感じている内容なので、結果がとても楽しみです。
――今後の目標を教えてください。

春香さん
春香:つい先日の大会のジャンプで大けがをしてしまい、今シーズンは競技に取り組むことが難しいので、まずはしっかりとリハビリを行い、2026年夏の復帰を目指しています。そして、2030年冬季オリンピックでの種目採用を願い、そこで金メダルを獲得することと、世界選手権での金メダル獲得が目標です。
優奈:私も、やはり2030年冬季オリンピックで金メダルを獲得することを1番の目標にしています。加えてワールドカップの総合優勝や世界選手権の2連覇を目指したいです。
第909回
取材・文・撮影:早稲田ウィークリーレポーター(SJC学生スタッフ)
社会科学部 3年 米田 菜々美
【プロフィール】
葛西優奈:北海道出身。東海大学付属札幌高等学校卒業。趣味は映画・ドラマを見ることで、恋愛系からホラーまで幅広いジャンルを視聴している。推しアーティストはBLACKPINKのジスで、彼女たちの世界観が好きだそう。
Instagram:@yunakasai_2424_
葛西春香:北海道出身。東海大学付属札幌高等学校卒業。趣味は自分でジェルネイルをすることで、試合中もかわいいネイルを見てテンションを上げるのだとか。洋楽が好きで、特に歌手のビリーアイリッシュをよく聴いており、2025年8月のさいたまスーパーアリーナのライブにも参戦したそう。
Instagram:@haru_ka24
2025年の世界選手権にて。優奈さん(左)が優勝、春香さん(右)が3位の時の写真。春香さんが手にするのは、世界選手権のメダルとワールドカップのトロフィー