「マイペースでも、続ける意味はちゃんとある」
政治経済学部 3年 寺島 拓海(てらしま・たくみ)

早稲田キャンパス3号館前にて
国内最大規模の書道展・第75回毎日書道展のU23かな部Ⅱ類(※1)で、最優秀賞であるU23毎日賞を受賞した寺島拓海さん。授業、サークル、アルバイト… キャンパスライフを全方位で楽しみながら、総計出展数27,000点(2024年度)にも上る同展覧会で快挙を成し遂げた寺島さんに、書道を始めたきっかけや大会の感想、大学生活などを聞きました。
(※1)U23は出品資格のうち、満16歳以上満23歳以下を対象とする区分。かな部Ⅱ類は和歌1~2首または俳句4句までを手本として、「かな」で出品する部門。
――書道を始めたきっかけを教えてください。

小学1年生の時の作品。豪快な筆遣いと曲線の美しさが印象的
幼稚園生の時の書道教室がきっかけです。一般財団法人日本書道美術院主催の第76回日書展でサンスター国際賞(※2)を受賞された著名な書道家の鷹野理芳先生が、幼稚園に教えに来てくださっていて。当時はそんなに立派な先生だとは知らず、遊び感覚で筆を握っていました。小学生になって本格的に書道に興味が出て、先生の教室に通い始め、今でも鷹野先生の下で学んでいます。
私自身これほど長く書道を続けるとは思わず、高校受験の時は学業との両立に不安を感じて書道をやめようとしていました。そんな中、先生が「受験が終わるまで月謝は払わなくていいから、また戻っておいで」と言ってくださって。先生の優しさのおかげでここまで続けられたと思います。高校時代はサッカー部に所属しながら書道教室に通い、大会や展覧会に毎年出品していました。
(※2)日本の数多い書道展の中で唯一の国際賞で、権威ある賞として認められている。
――普段の大学生活では、書道にどのくらい時間を割いていますか?
実は、月に2回鷹野先生の教室に通うだけで、それ以外の時間を書道に割くことは全くありません。入学当初は書道サークルへの入会も検討しましたが、上達するための書道は鷹野先生の下でずっと続けていますし、書道だけに集中しすぎても嫌になってしまうと思って。今は、書道と並んで幼少期から続けていたサッカーのサークルに所属しています。
他には、飲食店のアルバイトや政治経済学部でのゼミ活動に力を入れていますね。特に、所属する久米郁男先生(政治経済学術院教授)のゼミでは自分よりずっと優秀な学生に日々刺激を受けていて、多様な学生と出会える早稲田の良さを感じています。

所属するサッカーサークルでの一枚。上段左から2人目が寺島さん
――U23毎日賞受賞までの過程で印象的だったことはありますか?

U23毎日賞受賞作品。「今来むと言ひしばかりに長月の 有明の月を待ちいでつるかな」という百人一首にある素性法師の和歌
最高の1枚にたどり着くまでに、とんでもない量の試行錯誤を繰り返したことです。普段は月2回の教室を週3回に増やし、16時に始まった稽古が22時まで終わらないことも珍しくありませんでした。作品提出の締め切り前には、朝8時半から昼までさらに練習を追加し、納得するまで何度も書き直しました。
かなを書くときに大切なのは、「潤渇(じゅんかつ)」というにじみと擦れの表現です。文字の濃淡が一定なのは美しくないとされているので、先生の手本を見て徹底的にこだわりました。作品の左上の部分が特に力を入れた所です。
大学1年生の時に参加した際は入賞止まりだったので、今回U23毎日賞を受賞できたことはもちろん純粋にうれしいですが、決められた時間を大幅に超えて練習に付き合ってくださった先生や、作業を手伝ってくださった教室の方々、そして誰よりも喜んでくれた母…。毎日賞は「私が取った」というより、周りの方々のおかげで「取らせてもらった」という方がしっくりきています。

毎日書道展の表彰式にて。右から3人目が寺島さん、中央が鷹野先生
――ここまで書道を続けられた理由は何ですか?
まず、展覧会という定期的な目標があることです。もっと良い賞を取りたいという向上心があるので、やりがいを見失わずに書道に取り組めています。昔習っていたピアノを小学生でやめてしまった後悔から、今続けていることは大切にしようと心掛けています。
書道は一人で課題に向き合う時間が長く、自分一人だと「これくらいでいいか」と妥協してしまいがちです。そんなとき、自分の頑張りを評価してくれる身近な人の存在はかけがえのないものです。母は賞状や景品を家に持って帰るととても喜んでくれますし、鷹野先生も期待を寄せてくださいます。いつもモチベーションに火を付けてくれるのは、大切な人の期待に応えたいという思いです。
――書道を通して身に付いた力を教えてください。

大学生になってから鷹野先生にいただいた高価な筆。毛がとても柔らかく、墨汁がしっかりと染み込むためストレスなく書けるという
集中力です。一筆目を書く前は「どこから書き始めようか」と筆を握る手が震えますが、書き始めた瞬間、一気にスイッチが入って落ち着くんです。アスリートでいう“ゾーンに入る”に近い感覚だと思います。最近、集中しているときは紙がきれいに見えることに気付きました。普段は下敷きの色や紙の折り目が気になるのですが、集中力が高まると余計な情報が入ってこないのか、紙が本当に真っ白に見えるんです。
集中力はいったん切れるとしばらく戻ってこないので、そんなときは潔く諦めて一度書くのをやめたり、違うものを書いたりします。日常生活で書道の感覚を意識することはあまりありませんが、このメリハリの付け方は、試験などここぞというタイミングで役立っています。
――今後の目標をお願いします。
書道については、一度好成績を取ったというプレッシャーに負けずに、向上心を見失うことなく続けたいです。今後の進路はまだ決まっていませんが、妥協せずにやりたいことを追求したいなと。さらに、ずっと先の話ですが、自分が素晴らしい先生の下で成長できたからこそ、いつか書道の先生になれたらいいなと思います。最近、体感的に書道を続ける人が減っていて寂しいのですが、私のように詰め込みすぎないマイペースでも続ける意味がちゃんとあると、自身の活動を通して伝えていきたいです。
第901回
取材・文・撮影:早稲田ウィークリーレポーター(SJC学生スタッフ)
法学部 2年 金井 秀鴻
【プロフィール】

サークルで海へ遊びに行った時の一枚
東京都出身。早稲田大学高等学院卒業。好きなサッカーチームは FC バルセロナ。最近のマイブームは『七つの大罪』鈴木央(講談社)など、完結してから日がたっている漫画を読むことだそう。早稲田の油そばは「油そば専門店麺爺」派。