「地域とその外、企業と学生をつなぐ『翻訳者』になりたい」
社会科学部 3年 古井 茉香(ふるい・まのか)

早稲田キャンパス 14号館1階にて
「お祭り」に注目して、持続可能なお祭りの仕組みと地域における人材獲得を図る「Senbay株式会社」を起業した古井茉香さん。早稲田大学地域連携ガク部~結の芽~での活動や経済産業省主催の社会起業家アクセラレーションプログラム「ゼロイチ」第1期生に採択されるなど、地域活性化に関するさまざまな活躍をしています。そんな古井さんに、お祭りに注目するようになったきっかけや思い、起業した会社について、今後の展望などを聞きました。
――なぜ「お祭り」に注目するようになったのですか?
きっかけは大学2年生の夏、海外の友達からの要望で私の地元である青森県を案内することになった時に、八戸三社大祭というお祭りを案内することを思い付きました。それまで私は、お祭りの準備や運営、行列に加わるような“中の人”として関わったことはなかったのですが、参加してみると小さな子どもから年配の方まで、お祭りという共通の大きな目的に向かって汗水流して本気で取り組む姿があって。とても衝撃を受けると同時に、効率化を求める現代社会において失われつつある大切なものがあるように感じたんです。

2023年の大学2年生の夏、海外の友人にお祭りを案内した際の写真。人生で初めて八戸三社大祭に参加した
――古井さんの考えるお祭りの魅力とは何でしょう?
私は、お祭りには二つの魅力があると思っています。一つは、誰もが自分の責任の取れる範囲内で参加できること。お祭りに関して無知で何も役に立てていなかった私でも、ただ参加するだけで、お祭りを取り仕切る親方たちがとても喜んでくれたんです。この経験から、お祭りでは中心的役割を担わずとも、各自が自分の役割を果たすことが大切である、つまりお祭りが自分の存在自体を評価してくれることに気付きました。
二つ目は、過去と今を未来につなげる力です。この八戸三社大祭は元々作物の育ちにくい土地で五穀豊穣(ほうじょう)を祈ったところから始まります。長い歴史の中でたくさんの人々が知恵を絞ってお祭りを継承し、現代の私たちが未来へとつなげていくことで、「私たちはお祭りを介して時空を超えたつながりの中で生きている」ことに気付けます。
一方で、お祭りを手伝っている中で、担い手不足から存続が危ういという声を耳にして。そこで、いろいろな魅力や可能性があるお祭りを持続させるには、どのような仕組みが必要かを考えるようになりました。そのためには、もっと地元を知り、日本中のお祭りやその仕組みを学ぶ時間が必要だと考え、大学2年生の秋学期から1年間、休学して地元留学(地元へ戻り、学ぶこと)することを決意したんです。
写真左:休学中、自身が所属する「下大工町附祭若者連中」の仲間と制作した山車の上で太鼓を叩いた
写真右:他大学に在籍する八戸出身の先輩との縁で、関東圏の大学の学生もお祭りに参加
――具体的にはどのようにお祭りを学んだのですか?
お祭りは、年に一度の開催のために1年を通して準備します。なので、1年を通してお祭りの準備に携わり、年間スケジュールや段取りなどを親方の下で手伝いながら学びました。また起業することを考えて応募した、社会課題の解決に挑戦する未来の若手起業家のためのプログラムである、経済産業省主催の社会起業家アクセラレーションプログラム「ゼロイチ」第1期生に採択されたことを活用して、全国各地のローカルエコシステム(※)の事例を訪問しました。京都の丹後、和歌山県の熊野古道、宮城県石巻市などへ行き、地域で活躍している方とつながったり、事業をしている方に会って勉強させていただいたりしました。
※特定の地域やコミュニティ内で形成される、生態系や経済、社会、文化などの相互関係のネットワークのこと。
加えて、八戸市に就職・移住を考えている若手人材の方を対象に「お祭り研修」を実施しました。実際にお祭りの運営に入って、事前準備から当日の運営まで関わってもらうんです。その中で、お祭りを介してその地域に馴染(なじ)めるという魅力に気付くことができました。その他、DJをしている知り合いの早大生に協力してもらって、地元の酒蔵でクラブイベントを開催したことも。イベントを通じて実際に体験し、感じてもらうことで、地域外の人であっても地域への理解やつながりが生まれていくんです。そうする中で、私が学生と企業との縁をつなぐような“翻訳者”になりたいと考えました。
写真左:大学2年次、「ゼロイチ」にてプレゼンテーションをする様子
写真右:上記のプログラムで訪問した香川県三豊市にて、うどん作り・文化体験ができる宿「UDON HOUSE」を運営する原田佳南子さんとの一枚
また、お祭りのために帰省する人々の姿を見て、「年に1回お祭りのためには帰るのに、なぜここで働き、暮らしていきたいと思う人が増えないんだろう?」という疑問を持つようになりました。持続可能なお祭りの仕組みには、地域で働いて暮らしたいと思う人を増やす取り組みが必要だと気付き、これが起業につながったんです。
――起業した会社について教えてください。
2025年4月1日に、青森県内の企業と首都圏の学生をつなぐ「Senbay株式会社」を設立しました。具体的には、首都圏に進学した大学生が長期休暇を利用して青森の企業でインターンをし、学生が経営者の右腕として活躍すると共に、お祭りにも参加するという企画を提案・実施します。学生は青森で働いたり生活したりすることをイメージできるようになる一方で、企業にとっては新たな視点を持つ地域外の若者人材を獲得する機会にもなるんです。こうした、若手人材が地方・地域で挑戦できるような環境をつくり、この魅力をより広く伝える活動を行っています。
――大学内でも青森県に関連する活動をしていると聞きましたが、どんな活動ですか?
「早稲田大学地域連携ガク部~結の芽~」の活動にも携わっています。私の取り組みを授業で発表したところ、当時同じような思いを持っていた結の芽の発起人と知り合い、一緒に活動するようになりました。
私が関わったものは、青森県内の企業と早大生を始めとする首都圏の学生を呼び、学生が地域で挑戦できるキャリアを知り、その理解を深められるようなイベントです。これは、大学で地域連携・地域貢献を履修する学生コミュニティー結の芽だからこそ実現できたと思っています。結の芽で知り合った仲間と協力してプロジェクトを行って、互いの活動について情報交換して学び、関心のある人々とつながれたことは、何よりも自分の助けになりました。

自分らしく生きる20代のために開催された結の芽のイベント「青森×東京キャリアナビ」。参加総数50名以上の大盛況!
――今後の目標を教えてください。
今の若者やエリート層におけるリーダーシップ観を変えたいです。地方に対する賃金格差や教育格差などマイナスイメージがまだまだ根強いと感じています。しかし、お祭りのように、自分たちの手で何かをつくっていける可能性が、実は地方・地域には満ちているんです。より多くの人にこの可能性を知ってもらうことで、地方・地域へ目を向けてくれる人を増やしたいと思っています。そのような、挑戦するのに最高の環境で、生き生きと自分らしく活躍する人が増えてほしいし、早稲田からそんな人が生まれたら、とてもうれしいです。
私個人としては、立ち上げた企業で引き続き業務に取り組むとともに、いつか青森で仕事をしつつ子育てを行い、地方で仕事と育児を両立して活躍するロールモデルになりたいと思います。

結の芽の活動場所でもある早稲田キャンパス19-2号館WASEDA共創館にて、インタビューを受ける古井さん
第899回
取材・文・撮影:早稲田ウィークリーレポーター(SJC学生スタッフ)
文化構想学部 3年 安延 穂香
【プロフィール】

八戸市で宿泊施設の開業を進める事業者を対象に「おまつり研修」を実施した時の様子。右端が古井さん
青森県出身。八戸聖ウルスラ学院高等学校卒業。趣味は油そば屋巡りで、油そば専門店麺爺がお気に入り。日本酒が好きで、最近のマイブームは地元青森の地酒を飲み比べることだそう。小学生の時、ユダヤ人難民を救った「命のビザ」で有名な杉原千畝に感銘を受けて早稲田大学への入学を決意。現在は東京と青森を往復するアクティブな生活を送っている。