
「賢く用心深く寛大であれ」という意味のペルシア書道
理工学術院准教授 菅原 彩加(すがわら・あやか)

東京大学文学部英語英米文学科卒業後、同大学院同研究科修了(文学)、マサチューセッツ工科大学言語学哲学科博士課程修了。2019年より現職。専門は子どもの言語獲得
博士号を取るため米国に留学していた時のこと。大学院生仲間の1人、韓国人の同級生がアラビア語を研究していました。私が「アラビア語は文字が難しいじゃない」と言うと、彼女は「難しいけど美しいの!」と、「アラビア書道」の作品を見せてくれました。彼女自身が書道をやっていたわけではないのですが、Web上の作品を見せてくれた時、とても興味を引かれました。ただ、その後米国では作品を見る機会も習う機会もありませんでした。
博士号を取り、日本に戻って大学で職を得た後、習い事をしたいと思い立った際にアラビア書道を思い出したのです。教室を検索してみると、東京にはアラビア書道の他、ペルシア書道の教室もあると分かりました。実は、大学院生の頃からイラン人の友人とペルシア語の研究もしていたので、習うならペルシア書道だろうと教室に通い始めたのです。果たして、日本のペルシア書道の第一人者である角田ひさ子先生が開講しているクラスで習うことになりました。
初心者クラスでまず学ぶのは、筆の作り方と1文字ずつの書き方です。そう、筆は「作る」のです。筆といっても日本の書道で使うような毛筆ではなく、中心に穴の空いたアシの棒を削って、その筆に合った太さにします。筆を滑らせる角度によって、太い線や細い線、また太さがだんだん変化する線を書くことができるのです。アシはなかなか手に入らないので、違う太さの筆を作るときには私は市販の竹の毛筆を買い、毛筆の部分を切り落として作っています。

実際に作った筆。手前がアシの筆、奥が太さの異なる竹筆
文字の書き方の練習では、先生のお手本を見ながらひたすら練習をします。丸みを帯びる具合や、線と線の交わりの角度が毎回一定になるように練習をするのですが、これがまたなかなか難しいのです。
写真左:13世紀の詩人サアディーの作中の1句「若さの喜びを老いに捜し求めるな」という部分を練習している一枚
写真右:納得のいく長さ、太さ、角度で書けるようになるまで何度も練習する
まずは「いつも同じように書く」ことを習得しないといけないので、最初は「一つの文字をたくさん並べる」作品を作りました。一つ一つの文字の練習が終わったら、文字をつなげて詩の一部などを練習します。複数行にまたがる作品を作る際には、ペルシア語の勉強に使っていた教科書に載っていた文言を書きたいと先生にリクエストし、それを書きました。また、構成する文字を組み合わせて、絵のような作品を作ることもあります。
写真左:10~11世紀の詩人フェルドウスィー作『王書』にある「はじまりの詩」に挑戦した作品
写真右:13世紀の詩人ルーミー作『精神的マスナヴィー』第1巻冒頭の2句、「聞け、アシ笛がいかに語るのか/別れの悲しみをいかに訴えるのか」という部分を構成・デザインした作品。右下は”Aya S”というサイン
お手本を見ながら練習をしているときは研究の息抜きにもなりますし、できた作品を眺めているときは達成感もあります。習っている身でおこがましいですが、「ペルシア書道、おもしろそう!」 と思った方、ぜひ始めてみませんか?