「プロになってからが本番。観客を魅せられるプレーがしたい」
スポーツ科学部 4年 植村 洋斗(うえむら・ひろと)

東伏見グラウンドにて
早大ア式蹴球部(以下、ア式)の10番・MFとして活躍してきた、スポーツ科学部4年の植村洋斗選手。大学卒業後には、静岡県に本拠地を構えるJリーグクラブ・ジュビロ磐田への加入が正式に決まっています。プロの選手になるため、幼少期からサッカーに打ち込んできたという植村選手。ひたすらに目標を見据え、挫折を経験しながらも日々練習を積み重ねてきました。そんな長年サッカーと向き合い続けてきた植村選手に、サッカーを始めたきっかけやア式での4年間、そしてこれから始まるプロ選手としての活動への意気込みを聞きました。
――サッカーを始めた時期や、プロを意識し始めたのはいつ頃からだったのでしょう。
父や兄と一緒に公園でボール遊びをしていたことが、サッカーを始めたきっかけです。父がスポーツ好きなので、幼い頃からサッカーや野球などの球技でよく一緒に遊んでいました。小学生になってからはサッカーのジュニアチームに入り、本格的な練習をするように。このときにはすでに「プロのサッカー選手になりたい」と夢を見ていましたね。
写真左:小学二年生のころの植村さん(写真中央)
写真右:2019年には、第98回全国高校サッカー選手権大会に神奈川県代表として出場した(右が植村さん)
小学校・中学校とプレーを続けてきましたが、高校での3年間は「卒業後にはプロになる」という強い気持ちの下、神奈川県内の強豪・日本大学藤沢高等学校でより一層サッカーに打ち込みました。部活の練習後に一人で自主練習に励んだり、部活がない時間はYoutubeなどでうまい選手のプレーを見て勉強したりと、できることには何でも取り組む、サッカー中心の生活でした。プロチームの練習にも参加する機会もあったのですが、結局卒業までにオファーが来ることはなく…。それでも、プロになる夢を諦めきれず、大学でもサッカーを続けることを決めました。
――ア式での活動を振り返って、今思うことを教えてください。
早稲田での4年間は、自分にとって何事にも代えがたい時間になったといえます。元々早稲田大学への進学を決めたのは、プロになるためにできるだけ良い環境でサッカーをしたいという思いからでした。サッカー部のある大学を探す中で、練習の質も高く、選手一人一人が自立したプレーをしているア式に魅力を感じたんです。

エース番号である10番を背負い、ア式を支えた植村さん。チームメンバーは良き仲間でありライバルだった
実際に入部してからは、技術面・メンタル面ともにさまざまなことを学びました。ア式は選手が自分で考えてプレーするのが特徴のチームなので、ピッチ内外で自分に向き合う時間が高校時代より増えたと感じています。そうした環境の中で、自分のプレーについての課題を多角的に考え、継続的にアプローチする力を身に付けることができたのは、この4年間での大きな成長です。
――4年間で特に印象に残っている出来事はありますか?
自分にとっての転換点は、なかなか試合に出られなかった2年生の後半。当時はスタメンに入れないことにいら立ち、監督や仲間への不満も募って練習にあまり身が入りませんでした。そんな日々を送る中で、焦燥感で自分を見失い「プロサッカー選手になる」という目標から遠く離れてしまったと気付いたんです。僕の人生においてサッカーは全て。サッカーを失えば自分の中には何も残らない。これまで頑張ってきた自分を裏切らないためにも、このままではいけないと冷静になって自問自答し、改めて自分を見つめ直そうと気持ちを切り替えました。

2023年早慶クラシコ(第74回早慶サッカー定期戦)での様子(最前列右から4人目が植村さん)。早慶戦は他の試合と比較しても、応援の熱気が段違いだと話す
そこからは意地を張らず、仲間や監督からのアドバイスを積極的にもらうように自分を変えていきました。共にプレーする仲間たちからの指摘で、攻撃だけでなく守備での貢献も意識するように。それからはまた徐々に試合に出場することができるようになり、選手としてさらに上のレベルに行くために再出発することができたんです。振り返ると、早稲田を選んでなかったらプロになれなかったと思います。このア式だからこそ得られた気付きや経験が本当に多くて、かけがえのない4年間となりました。
――実際にジュビロ磐田からオファーがきたときは、どんな気持ちでしたか?

鹿児島キャンプ参加時の様子
素直にうれしかったですね。 実は2022年の2月に一度、練習生としてジュビロ磐田のキャンプに呼ばれ、参加させてもらっていたんです。周りにはプロしかいない状況だったので、最初は本当に緊張しました。しかし、せっかく手に入れたチャンス。「持っている力を全部出そう」と自分を奮い立たせ、ピッチでは全力でプレーに臨みました。周囲の選手たちとも積極的にコミュニケーションを取り、プレーを連携させることも心がけましたね。
キャンプ参加後は、スカウトの方がよく練習を見に来てくれるようになり、最終的に監督を通して2022年6月にオファーをいただきました。僕自身もキャンプの中でジュビロ磐田のレベルの高さを感じ、プレーすることを望んでいたので、加入を迷うことはありませんでした。

インタビューに答える植村選手。監督からオファーの連絡が来たときのことを笑顔で語ってくれた
――では、大学ではどんなことを学んできましたか?
スポーツ科学部に所属しているのですが、サッカーにつながるような授業は積極的に受講してきましたね。例えば、「メンタルトレーニング論」(スポーツ科学部設置科目)は、スポーツにおけるメンタルトレーニングを学べる授業。サッカーにも生かせるメンタル管理の手法を学べてかなりためになりました。他にも、広瀬統一教授(スポーツ科学学術院)のゼミではスポーツ傷害予防について学習しており、私生活でもけがをしないための体作りや効果的なリハビリ方法などを実践しています。パンデミックのため対面授業が制限された時期もありましたが、文武ともに実りのある大学生活を送ることができました。
――最後に、プロサッカー選手としての意気込みや、今後の目標を教えてください。
現在は、ア式で後輩たちの練習に参加しつつ、体力・フィジカル面の強化に取り組んでいます。プロのトップ選手と比較すると自分はまだまだ足りないことだらけ。今ある課題と一つ一つ向き合って、さらにレベルアップしていきたい。その上で、自分の強みである、ボールを持ってから次のプレーに移る際のアイデアや、ドリブルで前に運ぶ推進力を生かし、チームの力になれる選手を目指していきます。

2023年12月に行われた、早稲田大学ア式蹴球部の男子・女子合同記者会見での様子(後列左端が植村さん)。
プロはみんなサッカーをプレーすることで生活しているわけで、大学生と比較しても一人一人のプレーの質や意識の高さは段違い。ジュビロ磐田は来年のJ1昇格が決まっているので、僕が戦っていく環境も一層厳しいものになると思います。そんな中で、自分に何が出来るかという不安はありますが、それ以上に新しい世界へのワクワクが止まりませんね。まだ先のことですが、将来的には海外への挑戦も視野に入れて常に成長していきたいと思います。

早慶戦での様子。ただうまいだけでなく、元スペイン代表のアンドレス・イニエスタ選手のように、見ている人たちを楽しませられるようなプレーをしたいと話す
第865回
取材・文・撮影:早稲田ウィークリーレポーター(SJC学生スタッフ)
法学部 4年 佐久間 隆生
【プロフィール】
神奈川県出身。日本大学藤沢高等学校卒業。練習のないときでも自主トレーニングに励んでいる。アンドレス・イニエスタ選手のプレー動画を見て勉強しているとのこと。たまに、東伏見キャンパスにある紺碧寮で暮らすチームメイトと「スマッシュブラザーズ」で遊ぶこともあるそう。