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Soup Stock Tokyo社長・松尾真継 原点は「今も昔も生意気上等!」 

「楽して得られるものなんてない」
Soup Stock Tokyoと出合うまでの新卒5年物語

株式会社Soup Stock Tokyo(スープストックトーキョー) 代表取締役社長 松尾 真継(まつお・さねつぐ)

東京・中目黒にあるオフィスにて

食べるスープの専門店「Soup Stock Tokyo(スープストックトーキョー)」。その味わいだけでなく、企業理念である「世の中の体温をあげる」に即した取り組みも注目を集めている。2023年4月には、全店での離乳食無料提供を打ち出したことにインターネット上でなぜか炎上騒動に。その際、毅然(きぜん)とした対応を取ったことが逆に称賛され、「マーケター・オブ・ザ・イヤー2023」の大賞にも選ばれている。

そんなSoup Stock Tokyoの代表取締役社長・松尾真継さんは早稲田大学の卒業生だ。今回のインタビューでは、ブランド、消費者、従業員と常に真摯(しんし)に向き合う松尾社長の「情熱の原点」ともいえる新卒から5年間に焦点を当て、Soup Stock Tokyoに出合うまでのさまざまな経験と失敗、そして困難に立ち向かう上で大切にしていることを聞いた。

志願して激務の部署へ。「渦の中心」で見えてくるもの

「大学入学当初は何がしたいかハッキリしなくて。でも、何か渦の中心になりたい、とは漫然と思っていました」

そう言って大学時代を振り返る松尾さん。聞けば、昔から「渦の中心」を追い求めてしまう性分のようだ。学生時代に飛び込んだその渦は、日本を代表する報道番組『ニュースステーション』(テレビ朝日系)でのアルバイトだった。

「不夜城の報道局だったので、早朝勤務もあれば深夜・宿泊勤務もあり、速報や緊急特番で急に呼び出しがかかることも。カメラや機材を担いで警視庁や国会取材に同行したりと、社会勉強にもなる刺激的な日々でした。また、ここで出会う学生バイト仲間が個性派ぞろいで、その多くはなぜか早稲田の学生だったのも印象深いですね」

大学卒業目前の松尾さん(右)。「真っ暗でどこだかわかりませんが(笑)、卒業旅行で米・ニューヨークを訪れたときの写真です」(松尾さん)

就職活動に際しても、世の中に渦を作る役目を担う総合商社だけを志望した。

「商社マンは何屋にもなれるし、世界中を舞台にするダイナミックさもある。当時好きだった小説で、商社を舞台にした『不毛地帯』(山崎豊子・著)の影響もあったかもしれません。縁あって小説に出てくる商社のモデルの一つ、日商岩井(現・双日)から内定をもらえたんです」

ただ、松尾さんが大学4年だった1998年は「金融危機」が叫ばれ、「就職氷河期」がまだ続いていた時代。日商岩井も内定が出たあとに経営危機に陥り、混沌(こんとん)の中で社会人生活がスタート。さらに、松尾さん自身が社内で波風を立ててしまう。

「社員研修で経営企画本部長の講義があり、きっとこの経営危機をどう乗り越えるかの話が聞けるんだと楽しみにしていたんです。でも、ふたを開けたらつまらない世間話。危機意識の無さに腹が立ち、『僕らはそんな話を聞くために覚悟を持って入社したわけじゃない』とたんかを切って、話を変えてもらいました」

日商岩井時代の松尾さん(前列右)財務部の先輩たちと

この時点では、まだ配属が決まる前。同期からは「松尾、お前(不遇部署に)飛ばされるぞ」と心配され、実際、すぐに人事部長からの呼び出しを受けた。

「『本当に飛ばされるんだ』と覚悟を決めましたが、話を聞けば『松尾、よくやった。行きたい部署はどこだ』と逆の展開に。この会社にも気骨のある人はいるんだと安心しましたね。僕は迷わず、『この会社で一番遅くまで明かりが灯いている部署にしてください』とお願いしました」

念願かなって、会社経営の中核を担う財務担当となった松尾さんは、入社早々激務の日々を過ごすこととなった。

「僕は法学部でしたから、簿記も何も分からない。そんな素人が資金調達にかけては百戦錬磨のつわものたちの中に放り込まれた。普通なら絶対にありえないことです。その中で僕は必死に議事録を作り、Excelの使い方を覚え、食らいついていきました。周りの怖いおじさんたちも生意気な僕をかわいがってくれて、業務終了後でもいろいろ教えていただいたりと、懐の深い会社でしたね」

そんな奮闘の日々もつかの間。入社2年目に「新規の投融資全面凍結」の決定が下り、松尾さんは新天地へ動き出すことを決意した。

「商社の魅力の一つは、世の中の新しい動きに向き合うチャンスが多いこと。それができないなら商社にいる意味はないですから。転職に当たっては、『今、世の中で一番元気な会社は?』と考え、当時、フリースが爆発的ヒット商品になっていたユニクロが面白そうだと考えました」

全ての経験は、Soup Stock Tokyoと出合うため

ユニクロ(ファーストリテイリング社)に転職した松尾さんがまずしたこと。それは日商岩井入社時と同じく、「渦の中心=一番忙しい場所」に身を置くことだった。

「面接時点では新規事業を担当する話でしたが、いざ入社したら部署すらまだできていない。まずはユニクロの店舗勤務をすることになったので、『1番売れている店に』と志願し、当時1番の売り上げを誇った池袋東口店に配属。おかげで今でも洗濯物を畳むのはメチャメチャ速いですよ(笑)」

そして2002年、満を持して始まったユニクロの新規事業は、生鮮野菜の生産・販売を担う新ブランド「SKIP」。当時、「アパレルのユニクロがなぜ野菜を?」と大きな話題を集めた。

「SKIPは、永田農法と呼ばれる栽培方法で作ったこだわりの野菜だけを扱う本物志向なのに、『ユニクロの野菜だから海外産でしょ?』といった世間のイメージとのギャップが大きく、うまく行きませんでした。でも、永田農法の野菜は本当においしいんです。今でもあれを超えるトマトは食べたことがない。あそこで『本物の味』を知ったことは、結果的に大きな財産になりました」

SKIPのスタッフたちと(後列左から2番目)

新規事業が頓挫し、失意の中にいた松尾さん。そんなときに偶然見つけたのは、当時コンビニエンスストアで売っていたSoup Stock Tokyoの缶スープだった。

「僕らがやりたくてもできなかった、高い値付けでもしっかりブランディングをして売る商材、という点がとても悔しかったですね。その衝動のまま、Soup Stock Tokyoの直営店を訪ねて実際に味わってみると、もうスープを飲む手が止まらない。SKIPでの経験から、『これは本物だ』と気付くことができました」

程なくしてSoup Stock Tokyoの創業者、遠山正道氏と直接会う機会を得た松尾さんは、「僕にやらせてください」と直談判した。

「当時の自分は27歳。社会人になってからの5年間、商社で財務を担当し、ユニクロでは店長資格も取って現場にも立った。ベンチャービジネスにも関わり、舌も鍛えた。まさに、Soup Stock Tokyoと出合うためにこれまでの日々があったんだと。その思いとともに、『このブランドを一流にするのが僕の仕事です』と生意気にも創業者にぶつけたところ、遠山は『面白い、頼みます』と受け入れてくれたんです」

Soup Stock Tokyoに転籍前、人気スープ店視察のため、米・ニューヨークを訪れた

こうしてSoup Stock Tokyoに転籍し、今や代表取締役に。振り向けば「自分はずっと生意気で、それを受け入れてくれる度量のある人たちと出会えたからこそ今がある」と自らの足跡を語る。その視点から、学生にも「若々しい“跳ねっ返り気質”を大切にしてほしい」とエールを送ってくれた。

「自分がここまでやって来られたのは、『楽して得られるものなんてない』という意識。どうせなら1番遅くまで、1番売れている場所……そこにこそダイナミックさがあり、せめぎ合いがあるからこそ、いいクリエイションも生まれる。もちろん、そのむちゃは若いからこそできることでもある。若さとは可能性ですから」

最後に、そんな可能性に満ちた学生の煌(きら)めきを感じさせてほしいと、メッセージをもらった。

「何か面白いアイデアがあるならば、ぜひ連絡してきてほしいです。学生だからこそ発想できる『何かを変えたい』『何かを突き動かしたい』という純粋な思いに触れてみたいですし、一緒に何かできるかもしれない。自分もまだ、その跳ねっ返り気質は失っていないつもりですから」

※松尾さんへのアイデア送付先は松尾さん個人のX(旧:Twitter):@sanetsugum

中目黒店の前でSoup Stock Tokyoのスタッフたちと(後列中央が松尾さん)

取材・文:オグマナオト(2002年第二文学部卒業)
撮影:布川 航太

【プロフィール】
1976年、神奈川県生まれ。1999年、早稲田大学法学部卒業後、日商岩井株式会社(現:双日株式会社)に入社。株式会社ファーストリテイリングを経て、2004年にSoup Stock Tokyoを運営する株式会社スマイルズへ入社。 2008年、同社取締役副社長に就任。2016年に、同社から分社した株式会社Soup Stock Tokyoの取締役社長と兼務し、2021年4月からは代表取締役社長と株式会社スマイルズの取締役副社長を兼務。

Webサイト:https://www.soup-stock-tokyo.com/
X(旧Twitter):@SoupStockTokyo

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