「悩みも苦しみも楽しめちゃうくらい熱中できるのは、音楽だから」
基幹理工学部 4年 登山 晴(とやま・はる)

戸山キャンパス・学生会館にあるサークルの部室にて
「ザ・ナレオ」(公認サークル)での出会いをきっかけに結成された、新進気鋭の5人組大学生R&Bバンド「HALLEY」。ポップスでありながらもブラックミュージックの文脈を感じさせる楽曲が特徴で、学生らしからぬソウルフルなサウンドが印象的です。2023年5月からは、3カ月連続でデジタルシングル『Set Free』『Whim』『Breeze』、9月にはデジタルEP(ミニアルバム)『Daze』を配信するなど、精力的に活動中。
今回は、そんなHALLEYでギターを務める登山さんにインタビュー。工学的なアプローチで音楽を学びたいと、中学生の頃から基幹理工学部表現工学科への進学を志していたという登山さんにHALLEYの音楽への向き合い方や今後の展望、早稲田大学の軽音文化などについてお話を聞きました。
HALLEY 『Sugary』 MV
――ギターを始めたきっかけを教えてください。
元々ギターは父親の趣味で、幼い頃から楽器が身近にある環境でした。香港の日本人学校にいたときに、米国から来た同級生に影響されて、80年代のヘヴィメタルをよく聞くようになって。そんな彼と一緒にギターを練習したくて、父親に頼んで自分のギターを買ってもらったことが、僕のギター人生の始まりです。

幼少期、音楽好きの父親と姉と香港の自宅で(右が登山さん)
――HALLEY結成の経緯について教えてください。
早稲田大学公認サークル「ザ・ナレオ」で結成しました。新型コロナウイルス感染症拡大による規制が緩んだ大学2年の時に、せっかくならサークル活動をしてみようと、高校時代の後輩と一緒に「ザ・ナレオ」の新歓セッションに行きました。
「ザ・ナレオ」ではセッションで出会った人の中から、バンドメンバーを探すのですが、そこで最初に集まった5人(Vo. 張太賢〈上智大学 総合グローバル学部4年〉、Gt.登山晴、Ba.高橋継〈早稲田大学国際教養学部4年〉、Dr. 清水直人〈国際基督教大学 教養学部 アーツサイエンス学科〉、key. 西山心〈早稲田大学 教育学部3年〉)がそのままHALLEYのメンバーになっているんです。練習の中でさらに作曲もしてみたいなと思うようになりました。最初のコピーライブの後、周りが打ち上げに行く流れなのにも関わらず「僕らはもっと曲を書いたほうがいい」というノリになって、そこからメンバーの家に直行して、朝まで曲を書きました(笑)。それが3rdシングル『Breeze』の元になっています。
そこからは現役早大生の写真家にジャケット写真の撮影をお願いしたり、デモ音源を作成したりして少しずつ発信に向けて形にしていきました。

「ザ・ナレオ」の部室にて、HALLEYのデモ音源を作成している様子
――『Daze』のリリースや配信記念自主企画ライブの「in His Daze」など直近の活動を通して、手応えや感じていることはありますか。
他のバンドと一緒にライブをしたときに、他のバンド目当てだったお客さんが自分たちのグッズを買ってくれたり、次のHALLEYのライブに来てくれたりすると、新規のリスナーが増えたことを実感してうれしくなりますね。
最近はライブの誘いをいただくことも多く、精力的に活動しているのですが、毎回来てくださるファンの方にも満足いただけるようなパフォーマンスができるように、ライブごとに違うものを届けられるように奮闘しています。昨日のライブとアレンジが変わっていてすごかった! といった反応を聞くと、自分たちが意識しているところがきちんと届けられたという手応えを感じられてうれしいです。

配信記念自主企画ライブ『in His Daze』の様子
――メンバーとして思う、HALLEYの良さを教えてください。
もちろんさまざまな場面で意見が食い違うこともありますが、バンドとしての「正解」のイメージが何となく共有されている感覚があり、そこが良さだと思いますね。例えばライブでは、誰かを引き立てるために自分のプレイングを少し抑えたり、誰かが仕掛けたらアドリブでそれに乗っかったりと、5人全員でより良いライブを作り上げることは意識しています。
また、それぞれの性格に合わせて演奏以外の運営の部分をうまく分担できているのもHALLEYの良さだと思います。例えば自分は少しシャイなタイプなので、ライブハウスとのやりとりやSNSの更新は他のメンバーに担当してもらい、逆に自分はみんながあまりやりたがらない会計を抵抗なく引き受けたりだとか。長くチームで作品を作り続けていくために、運営面も大切だと考えています。

3rdシングル『Breeze』の作曲をしている様子
――HALLEYとしての今後の目標を教えてください。
日本発・アジアR&Bのようなジャンルを確立できたらと思っています。R&Bというのは、分かりやすく言うと「心も体も踊れるダンスミュージック」だと自分は思っています。自分が香港に住んでいたことがあったり、ボーカルの張太賢が韓国にルーツを持っていたりといったバックグラウンドを掛け合わせて、独自の路線を追求したいですね。
他のメンバーもそれぞれゴスペル、ファンク、ネオソウルなどの音楽が好きで、全員がいわゆる「邦楽」を聴いて育ったわけではないので、そこも個性になり得ると思っています。実際に自分たちのような若い世代でR&Bの要素を取り入れたバンドをやっているのは珍しいと言われたこともあり、うまく自分たちの特徴として確立していきたいです。

レコーディングスタジオにて制作中
――音楽愛の強い登山さんが、音楽大学ではなく早稲田大学を選んだ理由を教えてください。
中学のときから時間を忘れるほど音楽が好きだったので、当時から音楽に携わる仕事に興味がありました。そう考えたときに、これからの時代は音楽だけをひたすらやっているだけでは埋もれてしまうという思いがあって。そこで、演奏とは違う観点から音楽について学べたらと思って進路を調べていたところ、早稲田大学基幹理工学部の表現工学科を見つけたんです。工学的なアプローチから表現について学べるというのが面白そうだと思って、内部進学できる早稲田大学高等学院への進学を目指しました。入学後は、フォークソング部に入り、顧問の先生の熱心な指導の下、ますますギターにのめり込んでいきました。

早稲田大学高等学院フォークソング部でのライブ(中央が登山さん)。顧問によるセッション指導が現在のプレイスタイルに影響を与えているという
――「ザ・ナレオ」を始め、早稲田は軽音サークルの活動がとても活発な印象ですが、実際はどうですか?
レベルがとても高いと思っています。先輩にプロミュージシャンの方がいらっしゃったり、自分たちのすぐ隣で、日本最大規模の夏の音楽フェスであるフジロックフェスティバルの出演を控えた学生バンドが練習していたりして、とても刺激になります。軽音サークル同士の合同ライブなどをきっかけに、他サークルと交流することもありますし、大学を超えて慶應や上智の学生とも音楽仲間になったりします。お互いに切磋琢磨し合える良い環境だと思います。

新歓期間に行われる一大イベント“12サークル合同ライブ”にて。サークルの仲間と10人編成で演奏
――音楽をしている上で、大学での学びが生きたと思う経験はありますか。
今の時代では、曲を作ってレコーディングして発表するところまで一人でできてしまいます。そういったときに音楽についてだけではなくて、広く物事を知っていることは強みになっていると思います。作曲やレコーディングでも今までやったことのない手法を試してみようだとか、そういった発想が出てくるのは表現工学科での学びが生きているからだと感じますね。楽曲同士のバランスについて考えたり、工学面、新規性はどこかなど、色々な細かい場面で表現工学科の学びが生きていると感じます。

所属する橋田研究室の仲間たちと。ロボットや陶器などそれぞれ作っているものは違えど、研究室の「対象への固定概念を揺さぶる」メソッドがメンバーの根幹にあるという
――今後の活動の展望について教えてください。
もっとたくさんの人に自分たちの音楽を届けたいですね。音楽に打ち込む中で、つくづく自分はやっぱり音楽が好きなんだと感じます。仕事にすると楽しいだけじゃない部分ももちろん出てくるんですけど、その悩みすらも楽しめるくらいに熱中できるのは大好きな音楽だから。まずはアルバムを出したり、全国でツアーを回ったりすることを目標に頑張りたいと思います。

部室にてHALLEYの仲間と
第854回
取材・文・撮影:早稲田ウィークリーレポーター(SJC学生スタッフ)
文化構想学部 3年 田邊 紗彩
【プロフィール】
香港出身。早稲田大学高等学院卒業。趣味は陶芸で、キャンパスにある工房で作品を作っている。お気に入りのアルバム3選はロバート・グラスパーの『Black Radio Ⅲ』とディアンジェロの『Voodoo』、クリスチャン・クリアの『Boderline』。メインで使っているギターはFender American Vintage 57’ Stratocaster 1994年製 MOD。最近ハマっていることは、引っ越す予定もないのに物件探しをすること。
X(旧Twitter): HALLEY @halleyellah
ザ・ナレオ @naleio_waseda