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犬と歩く 3歳の柴犬との日常

キャンパス内には入れないので悔しくてしばらく居座り。早稲田大学周辺もお散歩コースです

文学学術院教授 草野 慶子(くさの・けいこ)

文学学術院教授。専門はロシア文学、比較文学。文化構想学部では「犬と/犬の文学」という演習も担当している

侘助(わびすけ) という名の3歳の柴犬と暮らしています。名は侘助椿からとりました。日本の花である椿の、なかでも小ぶりで控えめ、かれんな花を咲かせる侘助は、和犬のなかでは最も小さな柴犬に似つかわしい名と思ったのです。しかし柴犬の雄の標準体重が10キロ程度とされているところ、侘助はゆうに15キロを超え、この名がふさわしかったかどうか、いまでは分かりません。

ともあれご近所の方にも、わびちゃん、わっくん、Wabbyと呼ばれ、 かわいがっていただいています。幼犬の頃は、「この子ずいぶんと地味な顔をしている」と眺めていましたが、いまでは、私のような者と暮らしている艱難(かんなん)辛苦が良い案配で表情の陰影となり、哀感漂う“美柴” に成長したと飼い主としては思っています。

犬との生活はとても規則正しいもので、私は毎朝4時台に起き、5時には朝の散歩に出ます。毎日3回、暑い時期は2回、台風でも大雪でも必ず出掛けます。私にとって犬との生活とは歩く生活です。合計して1日5時間以上歩くこともあります。

よく行く近所の公園で、お山みたいな遊具に登るのが好きです。お子さんたちの邪魔をしないよう、登るのは早朝に限ります

散歩中の侘助の「くん活」と「マーキング」は、他者の痕跡を読み取りながらそれに重ねて自分の痕跡を残す、その痕跡を他者がまた受け取って作り変えていくという営為なのですけれど、これは私の専門の文学にも通じるもので、私は、動物と人間の境界について考えつつ歩きます。

そして犬の祖先であるオオカミの一部が人間とともに歩くことを選んだ遠い昔から、人間が犬たちをどれだけ搾取し犠牲にし、途方もない暴力を振るい、冷酷な生殖管理によって多くの犬種を生み出し、流通のシステムに乗せて利益を生み、その巨大で凄惨(せいさん)なシステムからはじき出される無数の犬の命が奪われ続けているかを、同じ世界のなかで犬を愛している自分も感じていかなければならないと思います。

写真左:くるんとした尻尾が柴犬の特徴です
写真右:海に遊びに行ったとき。このとき初めて海を見ました

子どもの頃から数えれば、最初は柴犬の雑種、それからいわゆる純血の柴犬、続けてこれまた柴犬の侘助と、3頭の柴犬(およびその雑種)と暮らしてきました。どんな犬も好きですが、とりわけ和犬とその雑種が好きです。立ち耳、短毛、巻尾の素朴な気品をたたえる姿、その自立した性格に深い愛着を覚えます。荒くて硬い手触りの被毛に触れ、濃褐色の瞳を見つめる。ともに歩くときの息遣い、時折膝の裏に当てられる冷たく湿った鼻の感触。離れているときにもふと感じる枯れ草に似た愛犬の匂い。幸福感が込み上げます。

首に巻いている布製のスヌードは、中に保冷剤が入っている夏のお散歩グッズです。名前にちなんで椿柄のものを選ぶことが多いです

周囲の人にはいまからペットロスを心配されていて、私自身、侘助の死を想像することがあります。具体的な状況や別れの情景ではなく自分の感情や身体的反応について考えるのですが、実際にそのときが来たら、想像をはるかに超えた悲しみと喪失感に襲われることでしょう。でもそうした苦しみを生きてこそ、十全に生きるということだと信じています。その体験を含めて、侘助との暮らしを私は生ききりたいと思っています。

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