「創造力を形にして、人間の新たな可能性を広げたい」
大学院基幹理工学研究科 修士課程 2年 畠山 祥(はたけやま・あきら)

第1回WASEDA Demo Dayが開催された、早稲田キャンパス 26号館 地下 多目的講義室にて
2021年に早稲田大学の起業家育成プログラムWASEDA EDGEのコンテスト第3回WASEDA Demo Day(※1)で見事最優秀賞を受賞し、学生主体のレイワセダ株式会社を起業、動画・音声編集を自動化するソフトウエアを開発している畠山さん。さらに、自身が起業した株式会社One by One Musicでは飼い主と離れることに不安を覚える分離不安症に苦しむペット向け音楽の開発を行い、大学院では宇宙関連の研究に取り組んでいると話します。さまざまな分野で活躍している畠山さんに、会社設立のきっかけや運営にあたっての思い、今後の展望について聞きました。
(※1) 法人設立および新規事業立ち上げを検討している学生向けに開かれる、プロジェクト・アイデアを発表するコンテスト。
――今は法人化しているレイワセダですが、もともとどのように発足させたのでしょうか。

レイワセダ株式会社の仲間と。名前の由来は「令和」に「早稲田」で創業したこと
レイワセダは、大学1年生のときにラジオドラマ制作のサークルとしてスタートしました。大学受験の猛勉強の際、心の休まる時間がラジオドラマを聞いているときでした。でも合格して上京したときに友人にその話をしたら、ラジオドラマというコンテンツを知っている人がすごく少なくて。そこで自分が心引かれたものをもっと広めたいという思いが生まれたんです。
また同時期に、第1回WASEDA Demo Dayに半ば褒賞金目的の軽い気持ちで参加しました。傘のレンタルサービスを提案したのですが、惨敗してしまって(笑)。それまであまり大きな失敗を経験せずに生きてきたので、めちゃくちゃ悔しい思いをしました。これを機に、思い付きではなく、自分の興味や意欲と合致した活動を展開しようと奮起し、レイワセダの活動を本格化させました。
――その後のレイワセダの活動と、第3回WASEDA Demo Dayでの最優秀賞受賞について教えてください。

審査員特別賞受賞時の1枚
レイワセダ立ち上げ当初は、ラジオドラマの企画から制作に至るまで全てをサークル内で行っていたんです。しかし30分のコンテンツを作るのに3年ぐらいかかってしまって。特に、音声の要らない部分を削除するなどの単純な作業に時間を取られると、テクノロジーはすごく進歩しているのにどうして、とじれったい気持ちになりました。そのときに、自分が苦労した作業を自動的に処理するソフトウエアを作ったら、今後同じようなことをしようとしているクリエイターたちのハードルを下げることができるんじゃないかと思ったんです。そして、それはクリエイターの気持ちが分かり、エンジニアリングを専攻している自分だからこそできることだと思い、動画・音声編集のルーティンワークを人工知能により自動化するソフト「Audio Ready」の開発に取り掛かりました。
その後も試行錯誤の活動が続きましたが、ようやく自信を持てるものができたので、2021年の第3回WASEDA Demo Dayに再チャレンジし、レイワセダとして「Audio Ready」を提案したところ、見事最優秀賞を受賞することができました。これを機に、世の中にしっかりとサービスを提供するために2022年6月に法人化しました。
――会社の運営で特に心掛けていることはありますか?

2023年2月、アントレプレナーシップセンターの「アントレプレナー育成海外武者修行プログラム」に参加。イスラエルにて投資家を前にプレゼンテーションをする畠山さん
チームワークを大切にしていて、ワクワクするような雰囲気づくりを心掛けています。新たな仲間を呼び込んだり、商品プロモーションをしたりするとき、メンバーみんなが楽しそうに取り組んでいたら、そのチームに魅力を感じると思うんです。また、リーダーとして、授業やバイトなどで忙しい時期が違うメンバーそれぞれのプロジェクトに対するモチベーションの源泉を理解し、それに沿った役割分担をすることが重要だと感じています。
また、学生主体のプロジェクトだからといって手を抜くことは絶対にしたくないので、質・予算・時間のバランスを考えながら、チームで最大限の結果を出せるよう工夫を重ねています。自分たちは学生のチームだから、伸び代しかない! と信じて取り組んでいます。
自分自身についてはチャンスを逃さないために、どんなに時間がなくても「忙しい」と言わないようにしたり、チーム内でポジティブな発言をしたりするように心掛けています。壁にぶつかっても、理想に近づくための新たな試練だと捉えて。単純に、できないことが嫌だという自分に対しての負けず嫌いな性格だというのもありますね(笑)。
――レイワセダとは別に、株式会社One by One Musicを立ち上げ、分離不安症に苦しむペット向け音楽の開発にも携わっていますが、なぜ新しい分野の事業にも挑戦してみようと思ったのですか?
レイワセダの活動が、既にあるニーズを満たすプロジェクトだとしたら、このOne by One Musicは真逆で、ニーズ自体を生み出すというプロジェクトなんです。もともと犬を飼っていて、動物好きだったということもありますし、「動物が音楽を聴く」というものの見方がすごくキャッチーで新しいじゃないですか。そこから着想して、人間の想像と創造の限界を超えるようなプロジェクトをやってみようと思ったんです。
犬がリラックスする音楽の開発は研究費を獲得しにくく、現在関連するビジネスもありません。その状況で学生という立場を生かして、早稲田のギャップファンドプロジェクト(※2)の支援を受け、2020年に新たに団体を立ち上げ、2023年6月に法人化しました。
(※2) 自らの技術シーズをもとにした事業化案を募り、高評価を得たチームに対して試作開発を行うための資金を提供することで、基礎技術と事業化の間に存在するギャップを埋めることを目的とする、早稲田大学アントレプレナーシップセンターのプロジェクト。

西早稲田キャンパス63号館にてOne by One Musicの仲間と。早大生だけでなく、動物行動学が専門の麻布大学の植竹勝治教授や、東京藝術大学で作曲を専攻している学生にも協力を仰いだ(左端が畠山さん)
――早稲田大学に進学した理由と研究室での活動について教えてください。

学部の卒業式にて友人と(左端が畠山さん)
中学時代に『宇宙兄弟』の漫画を読んで、宇宙開発に興味を持ったんです。それから宇宙に関する学びができるところを探して基幹理工学部の機械科学・航空宇宙学科を志望しました。
その関心は入学後も変わらず、所属する研究室では、人工知能と宇宙機の軌道設計に関する研究に取り組んでいます。よく、研究とビジネスの両立について聞かれますが、僕の中では、独自性や新規性が求められること、チームマネジメントや資金調達が必要であることなど、研究活動もスタートアップ企業活動もフレームワークは似ていると思っていて、それぞれの経験が相互に役立っているなと感じますね。

レイワセダのメンバーと食事会を楽しむことも(右端が畠山さん)
早稲田大学に入って、レイワセダのメンバーはもちろん、さまざまな個性を持った人と出会い、刺激をもらっています。グローバルエデュケーションセンター(GEC)のイノベーション系の授業をはじめ、所属学部以外の授業も聴講し、そこでの出会いも含めて世界が広がりましたね。また、早稲田大学ではさまざまなイベントが開催されているので、目についたものに片っ端から参加していた時期もありました(笑)。自分がやりたいことが何であっても、受け入れてくれる環境に恵まれていると感じます。
――今後の展望について教えてください。
大きな目標として、人類の限界を超えたいと考えています。レイワセダでのプロジェクトもしかり、テクノロジーを使って作業効率を上げて、人間が創造性を発揮する部分により時間をあてられるようになれば、もっと面白いプロダクトができたり、新たな可能性が広がったりすると思うんです。その世界を見てみたいというのがありますね。
学業面では博士号の取得を目指したいと考えていますし、今後は研究を生かして宇宙分野でも新しいことにチャレンジしていきたいと思っているので、学業とビジネスどちらにも突き進んでいきたいです。
第847回
取材・文・撮影:早稲田ウィークリーレポーター(SJC学生スタッフ)
文化構想学部 3年 田邊 紗彩
【プロフィール】
富山県出身。県立高岡高校卒業。新しい趣味を見つけるのが趣味で、最近ハマっていることはことわざ辞典を読むこと。印象に残っていることわざは「朝茶は七里帰っても飲め」。おすすめの授業は「イノベーションとテクノロジー基礎」と「データビジネスクリエーション」(いずれもGEC設置科目)。どちらもゲストとして登壇し、講義したこともある。「起業に興味のある学生がいたら相談に乗りますので、直接メールしてください!」(畠山さん)。
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