Waseda Weekly早稲田ウィークリー

News

ニュース

「平和をどう守る?」教えて! 植木教授(後編)

社会問題ってなんだか敷居が高い…そう思う早大生も多いかもしれません。新コーナー「教えて! わせだ論客」では、社会が抱える特定の問題に着目し、4人の教員からそれをひもとくヒントを教えてもらいます。

2023年度のテーマは「平和をどう守る?」。ロシアによるウクライナ侵攻などで世界情勢が不安定になる中で、あらためて平和とは何かを考えます。1人目のゲストは「戦争の原因と予防」の研究者、植木千可子教授(国際学術院アジア太平洋研究科)です。テーマへの回答などをお話しいただいた前編に引き続き、後編ではご専門や現在行っている研究内容、早大生へのメッセージなどを伺いました。

植木先生、これからの国際社会で生き抜くには、どんな力が必要ですか?

世界中に多くの友人を持って議論する力、そして「Good Question」を提示し続ける習慣を付けることが大切です。

 

台頭国の不満の源泉を探ることで、戦争の予防につなげたい

植木先生のご専門「戦争の原因と予防」について詳しくお聞かせください。

なぜ戦争は起こるのか、どうしたら平和は保たれるのかを研究しています。対象とする国や地域は限定していませんが、授業やゼミでは、日本にとって関係が深いアジア太平洋の国際関係を中心に教えています。特に、世界的な影響がある米中関係に焦点を当て、日・米・中それぞれの2国間関係を注視しています。

具体的には、事例研究法(※)で分析しながら、この地域で何が、どうして起こっているのかを繰り返し問うています。起こっている事柄を明らかにするには、その理由を知る必要があります。研究の大きな目的は、紛争の原因を抑制し、協力・平和の要因を促進することによって、地域の安定と平和を守る方法を考えることです。

(※)理論から導かれた因果関係、相関関係などが、実際に事例の中に存在するかどうかを検証することによって、事象を説明する方法。

もともと、「国際関係と安全保障」を柱に、現状維持国と台頭国との関係について、学生の頃から関心を持っていました。フォーカスしていたのは、現状維持国側の脅威認識。古くは19世紀の英国のロシア認識や、20世紀初頭の英国のドイツに対する認識などに関心がありましたが、最近は1980年代の米国と日本、そして、1990年代後半からの米国と中国の関係を中心に研究しています。

一方、今年からは台頭国側の認識を研究する予定です。第一次、第二次世界大戦を見ても、覇権戦争は台頭国の不満が爆発する形で始まっています。台頭国は、現状維持国の繁栄の下で発展してきますが、どこかでその均衡が崩れ、対立が生まれます。その不満の源泉は何かを解明したいと考えています。

今、研究対象にしたいと思っているのは、現在の中国。1920年代の第二次世界大戦前夜の日本などを参考に、不満が醸成されるメカニズムを明らかにしていくつもりです。

研究をする中で、海外の方と議論する場面も多いのでしょうか。

研究者として、大使館との勉強会などにも多く参加しています。米国が特に積極的で、政府高官が来日する際に勉強会が開かれます。米国としては、日本の政策や現状認識について把握し、日本としては、相手が何に関心を持っているかが分かる、透明性を高める絶好の機会になっています。最近では、英国、オーストラリア、インドなど他の国々との勉強会や研究会も増えています。

キャロライン・ケネディ駐日米国大使を囲んでの“女子”懇談会(2015年1月)

また、英国の研究所が主催するIISSアジア安全保障会議(シャングリラ会合)には専門家の代表として招かれています。ほとんどの出席者は政府や軍のトップたちで、日本や米国、中国などが参加国。各国が安全保障についてスピーチし、それに対しフロアから参加者が直接質問できる貴重な場です。

海外の研究者とも多く交流し、共同研究していますが、中国の研究者との交流は、コロナ禍以降なかなか進んでいないのが実情です。私が所属するアジア太平洋研究科は、北京大学国際関係学院とのダブル・ディグリー・プログラムを運営していることもあり、多くの中国人学生が学んでいます。学生や研究者が両国を自由に行き来して、対面で議論できる状況が訪れることを願っています。

「Good Question」を提示する力を鍛えて

植木先生のゼミの様子を教えてください。

「アジア太平洋の国際関係と安全保障」のゼミなので、やはり日本の安全保障政策、日中関係、米中関係について研究している学生が多いです。他にも核兵器の問題、宇宙政策など、研究内容は多岐にわたります。ゼミには、日本、米国、韓国、中国、ロシア、ウクライナ、オーストラリアなど、さまざまな国や地域の出身の学生がいて、活発に世界情勢について議論しています。

コロナ禍以前は、ゼミ合宿も実施していました。2つのチームに分かれ、「危機シミュレーションゲーム」という、危機に際してそれぞれが政策提言するゲームを行うのが恒例行事。「朝鮮半島の危機」などのシナリオでこれまで実施してきました。また、米国のマサチューセッツ工科大学やジョージタウン大学の学生と合同ゼミを実施し、英語で議論を深めてきました。また再開できるのを楽しみにしています。

2017年10月、早稲田大学軽井沢セミナーハウスでのゼミ合宿

授業やゼミ活動を通して、学生たちにどのような力を身に付けてほしいですか?

あらゆる学びの基本になりますが、問題に対する答えを出す力、つまり理論に基づいた仮説を立てて、そこから予測を導き、検証する能力を付けてもらいたいと思っています。日常の中で「あれ?」と腑(ふ)に落ちない疑問を感じたとき、それを起点にして答えを出す能力とも言えます。

研究について話せば、科学的なデータに基づいた検証をすれば、研究者がどのようなバックグラウンドを持っていても、同じ分析結果になるはず。こうしたスキルを持った学生が卒業後に世界中で活躍するようになれば、各国間の「誤認」が減り、少しだけ良い世界になるのではないかと期待しています。

最後に、これからの国際社会を生き抜く学生たちにメッセージをお願いします。

天災と違い、戦争は人間がすることなので、防ぐことは不可能ではありません。「誤認」による戦争が減るように、多くの友人を世界中につくって、議論を続けてほしいと思います。議論にあたり、言論の自由、学問の自由が保障されている日本にいる学生が果たす役割と責任は大きいと思います。

そして大切なのは疑問をとことん突き詰めて、「Good Question」を提示し続ける習慣を付けること。今は政治参加のハードルも下がっています。安全保障政策などに関する疑問があれば放置せず、幅広い知識を得てエビデンスを持って、自分の意見を発信してほしいです。

植木(川勝) 千可子(うえき・かわかつ・ちかこ)

国際学術院アジア太平洋研究科教授。博士(政治学・マサチューセッツ工科大学)。専門分野は、国際関係論、安全保障論。東アジアの国際関係と安全保障、戦争の原因と予防、台頭国と現状維持国の関係、脅威認識の形成過程など幅広いテーマで研究を行うほか、安全保障に関する政策提言なども行っている。
公式サイト:http://www.waseda.jp/sem-ueki/

6月17日(土)に大隈記念講堂で開催される、石橋湛山没後50年記念シンポジウム「日本のジャーナリズムに未来はあるか−米国と中国のはざまで」に植木先生が登壇します。お申し込みはこちらから。

取材・文:丸茂 健一
撮影:布川 航太
画像デザイン: 内田 涼

早大生のための学生部公式Webマガジン『早稲田ウィークリー』。授業期間中の平日は毎日更新!活躍している早大生・卒業生の紹介やサークル・ワセメシ情報などを発信しています。

Page Top
WASEDA University

早稲田大学オフィシャルサイト(https://www.waseda.jp/inst/weekly/)は、以下のWebブラウザでご覧いただくことを推奨いたします。

推奨環境以外でのご利用や、推奨環境であっても設定によっては、ご利用できない場合や正しく表示されない場合がございます。より快適にご利用いただくため、お使いのブラウザを最新版に更新してご覧ください。

このままご覧いただく方は、「このまま進む」ボタンをクリックし、次ページに進んでください。

このまま進む

対応ブラウザについて

閉じる