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初心者のあなたに伝えたい 俳優・筒井真理子が語る演劇の魅力

早稲田小劇場どらま館」×「早稲田ウィークリー」による「演劇のはなし」のコーナーでは、「演劇入門」「誰にでも伝わることばで」をキーワードに、さまざまな分野で活躍する、演劇にゆかりのある早大出身の著名人にインタビュー。演劇の魅力をお話しいただきます。今回のゲストは、映画・TVドラマ・舞台で、ヒロインから悪役、母親役まで幅広い役を演じこなす、俳優の筒井真理子さん(社会科学部卒)です。

筒井真理子(つつい・まりこ)山梨県出身。県立甲府第一高等学校卒業。 青山学院大学中退。早稲田大学社会科学部卒業。在学中は演劇研究会に所属。劇団「第三舞台」に入団し、数多くの公演に役者として参加。1994年、山口巧監督『男ともだち』で映画初主演を務める。2016年に主演した映画『淵に立つ』が第69回カンヌ国際映画祭の審査員賞を受賞。2019年には映画『よこがお』などの演技が評価され、芸術選奨映画部門の文部科学大臣賞、全国映連賞の女優賞を受賞するなど、舞台や映画で活躍中

第三舞台の本番中、「私も入れてください!」と直談判

早稲田大学出身の筒井真理子さん。ただ、早稲田に入る前には青山学院大学にも籍を置いた経歴を持つ。なぜ筒井さんは青学から早稲田へと転籍したのか?

青学も楽しかったんですけど、早稲田に進んだ高校時代の友達がみんなすごく自由でイキイキしていたんです。その姿を見ているうちに、もう一度トライしてみようかなと勉強し直して、早稲田に入ることができました。

実際に入ってみて感じた早稲田は、みんな思い思いの個性的な格好で「自由」。それが私には「楽ちん」でしたね。

そんな自由で楽ちんな早稲田で出合ったものこそ、演出家・鴻上尚史(法学部卒)が主宰した劇団「第三舞台」。大隈記念講堂前にテントを立てて旗揚げしたばかりだった。

衝撃的でした。本当に面白くて、演技も芝居も何も知らないのに、「私もやってみたい」と思ってしまったんです。そして、今を逃すともうチャンスはないかもしれないと、本番中の神聖なる楽屋に「私も入れてください!」と直談判。まあ、すぐに羽交い締めにされたんですけれど(笑)。

もともと「第三舞台」は演劇研究会の中の劇団として立ち上がったものなので、「まずは大隈記念講堂裏の演劇研究会の部室に来て。話はそれから」と諭されました。思い返すと、出禁を食らってもおかしくないはずですが、鴻上さんは「そんな変なやつを入れないでどうする」と面白がってくれたみたいです。

写真左:県立甲府第一高等学校の伝統行事「強行遠足」では第3位に。「『遠足』とは名ばかりの40キロ超の過酷な『マラソン』大会なんです。演劇研究会の稽古に耐えうる素地は、この頃から出来上がってましたね(笑)」(筒井さん)
写真右:第三舞台での稽古風景。主宰の鴻上尚史さんに演技指導を受ける

なんとか演劇研究会への入会を許された筒井さん。だが、待っていたのは超体育会系稽古。戸山公園にある箱根山まで毎日2キロを走り、その後にスクワット100回、腹筋100回と、ひたすら体を鍛える毎日だった。

変なところで「男女平等」を掲げ、男子も女子も練習メニューが一緒なんです。ただ、幸か不幸か高校時代までフィギュアスケートでバリバリ体を鍛えていたので、普通なら逃げ出すようなメニューでも「まあ、そんなもんか」とこなしていました。

7年かけて晴れて卒業。「演劇に夢中なあまり授業に出られず、中退する気でいましたが、母が『どうしても卒業してほしい』と。実は母の兄も早稲田の学生だったんですが、学徒出陣で戦死して卒業がかなわず…。兄の代わりに卒業式に出席したいという母の気持ちを後に知りました」(筒井さん)

初めて舞台に立てたのは新人公演のとき。私の役は、ただただずーっと笑っているだけのキャラクターでした。でも、それが良かったんです。当時、ちょっと人間関係に悩んでいた時期だったんですけど、たとえ演技でも笑っていると嫌なことを忘れられる。舞台ってすごい場所だと思ったのが最初の演技体験でした。

演技で学べる多様性。舞台で感じる臨場感

第三舞台で演技に没頭し、大学卒業後もそのまま演劇の世界で身を立てた筒井さん。2023年も主演映画『波紋』が公開されるなど、求められる役柄は途切れない。

『波紋』は日本を代表する演劇界の実力派がズラリと出演されていて、とにかく皆さんが素晴らしかったです。例えば、木野花さんは私が「お芝居、もう無理」「俳優を辞めようかな」と悩んでいた時期に出会って、その悩める谷から救ってくれた大恩人。他には、同じ校友の安藤玉恵ちゃん(第二文学部卒業)も出演しています。「絶望を笑え」というキャッチコピーそのものの、面白いというか、悲劇的なところも笑える内容なので、元気がないときにこそ見てほしい映画です。

悩みを相談していた頃の筒井さん(右)と木野花さん(左)

『波紋』では家族に振り回される中、新興宗教にすがる主人公を演じた筒井さん。これまでに演じてきた千差万別のキャラクターも含め、与えられた役をどのように演じ分けているのだろうか?

いろんな役を演じさせてもらっていますが、台本をもらったときはいつも分からないことだらけ。でも、分からないまま演じるのも失礼この上ないので、自己流で取材をし、想像して、その役に没頭していく作業が必要不可欠です。

性同一性障害の役では、さまざまな本を読んだり、心理学を学んだり、新宿二丁目に行ってお話を聞いたりもしました。虐待する母親役のときは、私自身が母親になった経験がないこともあり、なぜ自分が産んだ子どもに苦しみを与えることができるのか、初めは全く理解できませんでしたが、いろいろ調べていくと、虐待する人自身がかつて虐待されていたケースもある、といったことを知りました。

どれだけくみ取れているかは分かりませんが、キャリアを重ねるほどに、昔の自分よりは「人間」について少しは理解できるようになっているんじゃないかな、と。

だから私、思うんです。お芝居や演技ほど人間の多様性について理解できるものはないんじゃないかなって。英国では義務教育から「ドラマ」という授業があり、演劇を学ぶそうなので、日本でも同じような授業があってもいいですよね。それくらい、演じることはもっと身近に感じていいことだと思います。

主演筒井真理子と共演に光石研、磯村勇斗、柄本明、キムラ緑子、木野花、安藤玉恵、江口のりこ、平岩紙を迎え、日本を代表する映画作家・荻上直子監督がメガホンをとった。震災、老々介護、新興宗教、障害者差別といった現代社会が抱える問題に次々と翻弄される家族の姿を描いたブラックユーモアたっぷりの人間ドラマ。監督自身が歴代最高の脚本と自負している

演劇の魅力の一つは「多様性への理解」と語る筒井さん。そしてもう一つ、演じずとも体験できることがあるという。

私自身の観劇体験で強烈に覚えているのは、六本木にあった自由劇場で吉田日出子さん主演の舞台『クスコ』を見たとき。演者と観客が同じ空間でともに呼吸を共有するような臨場感があったんです。あのときの吉田さんの狂気の演技は忘れられないですね。

その臨場感はテレビや映画では味わえない、舞台ならではのもの。とにかく、熱が伝わるんです。早大生なら早稲田キャンパスのそばに「早稲田小劇場 どらま館」という劇場が身近にあるのもいいなぁと思います。皆さんもぜひ、舞台を通して熱を感じて、臨場感を味わってみてください。

 

早大生なら早稲田大学演劇博物館ですぐに観劇できる!
筒井真理子さんがおすすめする演劇作品『ソウル市民』

演劇初心者の早大生のために、早稲田大学演劇博物館で運営する JDTA(Japan Digital Theatre Archives)(※)の収蔵作品の中から、筒井さんにおすすめの舞台として『ソウル市民』(2011年)をピックアップしていただきました。「とにかくセリフが秀逸。日本人と韓国人の女中たちが繰り広げる無邪気なおしゃべりから、『支配者』として暮らす人々の『無意識の悪意』があぶり出されてくる会話劇の醍醐味(だいごみ)をぜひ堪能してみてください」(筒井さん)

(※1)早稲田大学演劇博物館が運営する、舞台公演映像の情報検索特設サイト。収蔵作品は、早稲田キャンパス6号館3階閲覧室AVブースで無料で視聴することが可能(予約制)。視聴・予約方法はこちら

撮影:T.Aoki

「日韓併合」を翌年に控えたソウル(当時の呼び名は漢城)で文房具店を経営する篠崎家の一日が淡々と描かれる。押し寄せる植民地支配の緊張とは一見無関係な時間が流れていく中で、運命を甘受する「悪意なき市民たちの罪」が浮き彫りにされていく。初演以来22年、国内外で上演を繰り返し、2006年アヴィニヨンをも震撼させた平田オリザ初期の伝説的作品、待望の再上演。(JDTA作品概要より引用)

取材・文:オグマナオト(2002年第二文学部卒)
撮影:布川  航太
画像デザイン: 内田 涼

早大生のための学生部公式Webマガジン『早稲田ウィークリー』。授業期間中の平日は毎日更新!活躍している早大生・卒業生の紹介やサークル・ワセメシ情報などを発信しています。

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