「練習やプレーの細かいところが、チャンスや大舞台での結果につながってくる」
スポーツ科学部 4年 蛭間 拓哉(ひるま・たくや)

東伏見キャンパスにある早稲田大学野球部・安部寮、「一球入魂」の掛け軸の横で
2022年10月に行われた「2022年プロ野球ドラフト会議」(以下、ドラフト会議)で、埼玉西武ライオンズから1位指名を受けた蛭間拓哉選手。早稲田大学野球部の副将としてチームを率いた4年次は、結果が出ず苦しいシーズンを送りながらも4番としての姿勢を示し続け、東京六大学野球秋季リーグ戦の早慶戦では本塁打を放つなどチームの勝利に貢献しました。「4年間のうち8割はきつかった」と語る蛭間選手に、大学での学びや印象的な出来事、そしてプロ野球への意気込みや目標を聞きました。
※インタビューは2022年11月22日に行いました。
――まずはドラフト会議で埼玉西武ライオンズから1位指名を受けたときの気持ちを教えてください。周囲の反応はいかがでしたか。
埼玉西武ライオンズは前から一番行きたい球団だったので、今まで頑張ってきてよかったと思いました。指名していただけることは事前に公表されていたものの、実際にどうなるかという不安がなかったわけではありません。なので、いざ指名を受けるとホッとしましたし、プロ野球選手になるという実感がより強く湧いてきました。ドラフトの後、同級生や先輩、後輩、そして家族から「おめでとう」「頑張って」という言葉を多くもらいました。地元・群馬の友達からも連絡が来てうれしかったです。
11月13日に渡辺久信ゼネラルマネージャー(GM)から指名あいさつを受けて、これからが勝負だ、と気持ちを新たにしました。周りからの期待も感じていますし、今まで以上に意識を高く持ちたいと思っています。この時期は個人練習が中心なので手を抜こうと思えば抜けてしまいます。しかし、スタートから全力でいくためにはこの時期をどう過ごすかが大事になってくるので、しっかりと走り込みなどの練習に取り組み、身体作りに励んでいます。この取材の直前も、ちょうど練習をしていたところでした。

指名あいさつの際、安部寮前にて。渡辺GM(中央)、小宮山監督(右)と一緒に
――2022年の東京六大学野球秋季リーグ戦で早稲田大学は2位になりました。蛭間選手自身、苦しんだところもあったと思いますが、副将として臨んだ最後のリーグ戦はどうでしたか。
4年生のシーズンはとにかくつらかったです。自分が打たないといけないというプレッシャーが常にある一方で、結果が出せずチームに貢献できていなかったので…。秋も「いい感覚」がないままシーズンに入ったのですが、副将・4番として弱い姿勢を見せることはできないと、感覚をつかむためにとにかくバットを振り込んでいました。打てなくてもいつもと同じ立ち振る舞いをし続けることの大事さは、先輩たちから教わったものです。早慶戦あたりからボールの見え方や打撃の感覚がようやく良くなり、1戦目ではホームランを打つこともできましたが、2位までいけたのは他の選手たちのおかげです。個人としては苦しんだシーズンでしたが、この経験はこれからに生きていくと思っています。

2022年秋季リーグ戦の早慶戦1戦目で本塁打を放つ蛭間選手(写真提供:早稲田スポーツ新聞会)
――4年間を通じて記憶に残っているエピソードはありますか?
やはり2年生の秋のシーズンが記憶に残っています。コロナ禍で感染拡大が進んでいる時期に同期の部員たちと外出したことで一時退寮の処分となり、先輩やチームだけでなく、両親にも大きな迷惑をかけました。失ってしまった信頼を取り戻すためには、一からスタートし直すしかありませんでした。あのとき父から「とにかく練習を頑張って、姿で見せろ」と言われたことを覚えています。その後はチームの力になりたいという一心でした。その気持ちがその年の早慶戦での逆転ホームランにもつながったのだと思います。仲間のために頑張ることには計り知れない力があるということも、そのときに感じました。
<心に刻まれる伝説の一発!>
10季ぶりの早大優勝に導いた蛭間拓哉(②浦和学院)。崖っぷちの状況で初球を捉えた伝説のバックスクリーン弾!強打の2年生が連日決勝弾を放ち早大が歓喜に沸いた!#big6tv #六大学野球 #早稲田 #蛭間拓哉 #浦和学院 pic.twitter.com/WVKYMEFIbF— BIG6.TV (@big6_tv) November 8, 2020
2020年東京六大学野球秋季リーグ戦の早慶戦で2戦連続本塁打を放った蛭間選手。2戦目での一打は9回2アウトからの逆転弾となり、早稲田大学を10季ぶり46度目の優勝に導いた
振り返ると、4年間のうち8割はきつかったですね。それでも小宮山監督から準備を怠らないことの大切さや一球一球の大事さを教わったことは大きかったです。また、コーチからは人間としての立ち振る舞いを学びました。野球は技術だけではなく人間力が重要になってきます。練習やプレーの細かいところが、チャンスや大舞台での結果につながってくるんです。とにかく地道に努力するしかないと、それは4年間の経験として、身に染みて感じています。
――早稲田大学の野球部に入って良かったと思うことはありますか。
それは早慶戦です。負けてはいけないという伝統の重みだけでなく観客の入り方や雰囲気などが他の試合とは全く異なりました。早慶戦のあの感覚はやはり特別で、他では得難いものです。
実は高校生のとき、プロか大学進学かで迷っていたのですが、大学に進学するなら早稲田大学だと思っていました。野球の伝統やレベルが、他大学とは違うと感じていたからです。結局、今の自分ではプロになれたとしても活躍することはできない、大学できちんと準備してからプロ野球の世界に進もうと決めたんです。だから、早稲田大学にはプロに入るために進学しました。

早慶戦はリーグ戦の最終週に開催。2022年秋季リーグでは早稲田大学が2連勝を飾り、慶應義塾大学の優勝を阻止した。写真は試合終了後の選手たちの様子(蛭間選手は右端)(写真提供:早稲田スポーツ新聞会)
――スポーツ科学部ではどのような学びがありましたか?
ゼミでは動作解析などを学んだり、授業では瞑想(めいそう)やヨガ、栄養学を勉強したりしました。動作解析は自分の打ち方を客観的に見てイメージするのに役立っていますし、瞑想やヨガは心の落ち着かせ方といったメンタルトレーニングにつながっています。スポーツ科学部に入るからには、きちんと学問的なことも身に付けておきたいという気持ちがありました。学業と野球との両立は大変でしたが、周りの人に助けてもらいながら学ぶことができました。大学での勉強は野球にもしっかり結び付いているなと感じますし、プロ野球選手としてもプラスになっていくはずです。

「開幕一軍」を目指し、色紙に書き込む蛭間選手
――最後に、プロ野球選手になるにあたって、今後の課題や目標とする選手像を聞かせてください。
全部強化しないといけません。バッティングもそうですし、その他のプレーも全て、もっと高いレベルでやらなければならないと思っています。これまで以上にいろいろなことに挑戦して、自分のプレーを向上させていきたいです。
目標は首位打者です。三振が少なく、勝負強い選手を目指しています。埼玉西武ライオンズでは栗山巧選手がお手本ですし、他では吉田正尚選手(ボストン・レッドソックス)も目標の一人です。また、山本由伸選手(オリックス・バファローズ)や佐々木朗希選手(千葉ロッテマリーンズ)など、パ・リーグには好投手が多いので、早く一軍の打席に立ってみたいです。
僕自身、小さいときにプロ野球の試合を観に行って、夢と希望を与えてもらいました。野球人口を増やすのに貢献したいという気持ちがあるので、そのためには自分が埼玉西武ライオンズの顔となる選手になり、さらには日本を代表する選手として活躍するしかないと思っています。自分の人生をかけて臨むプロ野球の世界。高い技術を持つ選手たちの中で結果を出すためには、早稲田大学の野球部で学んだ「準備すること」の意味がさらに大切になっていくと考えています。

インタビューに答える蛭間選手。その目はプロ野球への決意に満ちていた
第836回
取材・文・撮影:早稲田ウィークリーレポーター(SJC学生スタッフ)
大学院法学研究科 修士課程 1年 植田 将暉
【プロフィール】

指名あいさつでの一コマ。埼玉西武ライオンズのマスコットであるレオ、早稲田大学のWASEDA BEARと
群馬県出身。浦和学院高等学校卒業。小学生から野球を始め、埼玉西武ライオンズのジュニアチームでもプレーした。高校時代は2018年夏の甲子園でベスト8に進出。大学2年の東京六大学野球秋季リーグ戦の早慶戦では、決勝・逆転弾となる本塁打を2戦連続で放つ。3年の春季リーグ戦ではベストナインに選出。侍ジャパンとして2018年に第12回BFA U18アジア選手権、2022年に第30回ハーレムベースボールウィーク2022に出場。埼玉西武ライオンズの試合もよく観に行っており、2022年は高校の同級生である渡邉勇太朗選手の登板試合などを現地で観戦したという。趣味は、時間がなくて行けていないが、自然の中でのサウナやキャンプ。行くなら「山と川」と語る。