「『アマチュア無線とは何か』という問いに、自分なりに答えを探したい」
大学院基幹理工学研究科 博士後期課程 2年 須田 璃久(すだ・りく)
皆さんはアマチュア無線を知っていますか? アマチュア無線とは、金銭上の利益のためではなく、自分のスキルアップのために行う無線技術研究を指します。中学生のときからアマチュア無線を始めた須田璃久さん。一般社団法人Youngsters on the Air Japan (以下、YOTA Japan)を設立して代表理事を務め、アマチュア無線を通じた若手育成に携わっています。そんな須田さんに、アマチュア無線を始めたきっかけ、その魅力や思い出、大学院で研究していることなどを聞きました。
――まず、アマチュア無線を始めたきっかけを教えてください。
中学生のとき無線研究部に入部したのがきっかけです。最初はどの部活に入部するか決めていなかったのですが、最初に見学した無線研究部の先輩が通信を実演する姿を見て興味を持ち、直感で入部を決意。私は中高一貫校に通っていたので、中高6年間無線研究部に所属しました。中学1年生の夏に第四級アマチュア無線技士の資格を取り、中学3年生の秋には第一級の資格を取得しました。私が第一級を取得した際の試験は、モールス信号を聞き取る試験(現在は廃止)もありました。今考えると、中学生で第一級を取得するのは難しいことだったと思うのですが、当時すでにモールス信号での通信も実際に行っていたので合格することができました。
写真左:2011年11月、中学3年生のときに愛知県新城市で行った野外運用にて、モールス信号で通信した際の写真
写真右:中学3年生のときに無線研究部の部室で撮った集合写真。中段左から2人目、無線機を持っているのが須田さん
――アマチュア無線とはどのようなものなのでしょうか。
アマチュア無線とは、「金銭上の利益のためでなく、もっぱら個人的な無線技術の興味によって行う自己訓練、通信及び技術的研究」を行う無線通信である、と「電波法施行規則」で法的に定義されています。つまり、仕事ではなく趣味として、自らのスキルアップのために行う無線ということです。一口でアマチュア無線といってもさまざまな楽しみ方がありますが、その基盤になるのが無線を通して話すということ。今は携帯電話などで気軽にコミュニケーションをとることができますが、インターネットが普及する以前は「話す」楽しみがより強く根付いていました。
アマチュア無線をするときに重要なのが電波。その飛び方は季節や時間帯によっても異なり、刻一刻と変化するので、まるで釣りに似た楽しみがあるんです。それを利用した最も分かりやすい楽しみ方の一つとして「電波を通してより遠くの人と、どれだけ交信できる(つながれる)か」が挙げられます。例えば、アマチュア無線の世界にはあらゆる国や地域、離島などが並んでいるリストがあります。この全ての地域との交信を達成することが、アマチュア無線における最高峰の栄誉とされており、生涯をかけてその達成を目指している人も多いですね。私は、この340にもなるリストのうち、通算60ほどの地域の無線局と交信したことがあります。
アマチュア無線では、コンテストと呼ばれる競技会も行われています。限られた時間でどれだけの局と交信できるか競うもので、アマチュア無線の花形として若者に人気です。これ以外にも、電波の形(音声、画像通信やモールス信号など)や電波の道筋(人工衛星に中継してもらうなど)にこだわるなど、さまざまな楽しみ方がありますよ。その多様な楽しみ方が、世代を問わず長く人々を引き寄せる魅力になっているのだと思います。
写真左:2018年5月、静岡県富士市で行ったYOTA Japan主催のYouth Contesting Program(若手に大規模設備でのコンテストを楽しんでもらうイベント)での参加者との集合写真。左端が須田さん
写真右:2019年6月、ドイツ・フリードリヒスハーフェンで開催されたアマチュア無線イベント、HAM RADIO にて撮影した写真© HAM-YOTA
――長年アマチュア無線を続けていて、1番の思い出は何ですか?
2017年夏、大学3年生のときに、英国で行われたYoungsters on the Air(以下、YOTA)主催の「サマー・キャンプ」に参加したことです。YOTAとは、アマチュア無線を通じた青少年及び若手人材の育成を目指す団体であり、英国の若手が中心となって活動しています。YOTAでは、アマチュア無線の技術だけでなく人間的な成長を目指すこと、国際交流を目的として、毎年夏に国際合宿「サマー・キャンプ」を開催しています。私はこのとき、アジア太平洋地域の若手で初めて、サマー・キャンプに参加しました。
このサマー・キャンプに参加したことで、アマチュア無線に対する考え方が変わったように感じます。合宿プログラムの一環として、英国のアマチュア無線の資格も取得したのですが、そのテキストの中に、「アマチュア無線は人と人とのつながりだから嫌なことを言われることもある。しかし、そのような人はアマチュア無線の片隅にも置けない」と書かれていたんです。そのようなアマチュア無線に関わる際の姿勢や精神に関する内容は、日本のテキストでは今まで見たことがありませんでした。この経験から、海外でアマチュア無線と関わってみると新たな視点を持つことができることに気付きました。また、国民性なのかもしれませんが、海外の若手の明るさにも刺激を受けましたね。そしてこの合宿への参加報告として、2018年には国際会議において、若者育成に関する提言書を提出しました。
写真左:日本の国旗を背負う須田さん。サマー・キャンプの参加者は自分の出身地の国旗を持って集合写真を撮影するのが恒例となっている
写真右:サマー・キャンプ中の文化交流会にて、他国の参加者に箸の使い方をレクチャーしている様子© RSGB & HAM-YOTA
――須田さんは、中学生から大学院博士課程の現在に至るまで長年アマチュア無線を続けています。大変だったと思うことはありますか?
アマチュア無線と関わっているときは、夢中で楽しいという気持ちが強く、大変だと思ったことはありません。しかし後になって思い出すと、大変だったなと思うことはあります。私が2017年に設立したYOTA Japan(※)を2022年3月に一般社団法人にしたのですが、その手続きは大変でした。若手育成を掲げ、公益性を保証し、団体としての活動を拡大するためにも法人化が必要だったので、このときも夢中でしたね。
(※)欧州YOTAの理念に賛同し、日本において新しい若手アマチュア無線家を迎え入れ、また健全な若手アマチュア無線家を育成・支援するためのコミュニティ。
また、自分自身がアマチュア無線を楽しむだけでなく、アマチュア無線を楽しむ人を支える活動もしています。例えば、コンテストを審査する側になったり、自分自身で企画したり…。新しいことをするのはもちろん大変ですが、アマチュア無線が好きだという気持ちが何よりも強いので、楽しいと日々感じながら活動しています。
写真左:2022年8月に行われたアジア最大のアマチュア無線イベント「ハムフェア」に参加したYOTA Japanのメンバーとの集合写真
写真右:須田さんが所属する早稲田無線通信研究会で、戸山公園にてモールス信号で通信している様子
――ところで、大学院では何を学んでいますか?
基幹理工学研究科博士後期課程に所属し、偏微分方程式論を研究しています。大学入学前は、アマチュア無線とも関係している「電離層」に興味を引かれ、物理学科に入学し、数学に関する授業も多く履修しました。その中で物理学は自然との兼ね合いも考える必要があるのに対し、数学は何よりも論理性を重視する点を魅力に感じました。そのような理由から、修士課程からは田中和永先生(理工学術院教授)の指導の下、研究を進めています。
――これからYOTA Japanで取り組んでいきたい活動や、今後の目標を教えてください。
実は、YOTAでの「若者」は25歳までを指しています。私は今年で26歳を迎えるので、今後は自分が楽しむというのではなく、これからのアマチュア無線の発展を担えるような若者のサポートをする立場に回ることになります。一方、自分のアマチュア無線の楽しみとしては、今後何が主軸になっていくか、はっきりとは分かりません。ですが、やれることは多々あると思っています。
また、包括的に「アマチュア無線とは何か」という問いに対しても答えを自分なりに見つけたいです。アマチュア無線は、無線自体でつながることを楽しむ以外にも、無線を使った企画作りや、教育や災害分野での社会貢献などさまざまな関わり方ができます。今までの自分自身の経験や観察、アマチュア無線を通じて得た人とのつながりから、アマチュア無線とは何かという答えを表現できるようになりたいです。
須田さん作成のモールス信号で「早稲田ウィークリー」と打った動画。日本語と英語では打ち方が異なる
第829回
取材・文・撮影:早稲田ウィークリーレポーター(SJC学生スタッフ)
人間科学部 3年 佐藤 里咲
【プロフィール】
愛知県出身。東海高等学校卒業後、早稲田大学先進理工学部物理学科に進学。第一級アマチュア無線技士。現在は一般社団法人Youngsters on the Air Japan (YOTA Japan)で代表理事を務め、アマチュア無線の若手育成に携わっている。マイブームは、Amazon Prime Videoにて配信されている、英国の昔のテレビ番組やドラマを見ること。お気に入りは、有名刑事ドラマ『Inspector Morse』 のスピンアウト作品である、『Endeavour』(邦題:新米刑事モース -オックスフォード事件簿-)。「Morse」はモールス信号の「モールス」と同じつづりであり、テーマソングのモチーフとしてモールス信号のリズムが取り入れられている。

2020年12月、神奈川県横浜市の自宅から、インターネット経由でクロアチアにある無線機を運用したときの写真。YOTA オリジナルパーカーを着用している