学生の頃から、時間があれば映画館に通うことが多かった。今やインターネットを通じて家で好きな作品を簡単に見られる時代だが、どうしても映画館で見たい作品や映画館でしか上映されない貴重な作品に関しては、時間を惜しまず名画座に出掛けている。
学生時代の京都、留学先のパリ、そして現在生活している東京と、これまで過ごしてきた街には、幸いなことに長い歴史を持つ多くの名画座やミニシアターがあった。そうした過去を振り返ったとき、映画作品そのものはもちろんであるが、映画館という場所とそのときの自分の状況とがもたらしてくれる偶然の出合いのようなものが、記憶の中に焼きついていることに気付く。もうずっと前のことだが、会社員として東京で暮らしていた時代、池袋の新文芸坐で、敬愛する映画監督の一人であるエリック・ロメールのオールナイト上映を見に行った折、入場の列に並びながら、ふと脇にある掲示板を見ると、そこにロメールの訃報を告げる記事があったことは、忘れ難い記憶の一つである。
ここ最近見た作品の中では、早稲田松竹で上映されたウクライナの映画監督セルゲイ・ロズニツァの『ドンバス』『国葬』『粛清裁判』といった圧倒的なドキュメンタリー作品、アッバス・キアロスタミやヴィム・ヴェンダース特集、そして渋谷のユーロスペースで見た2010年代から活躍するフランスの映画監督ギョーム・ブラック特集に大いに感動を覚えた。名画座でしか出合えない多くの作品がある。秋の夜長に名画座に出掛けてみよう。
(M.N.)
第1136回