Waseda Weekly早稲田ウィークリー

News

ニュース

初心者のあなたに伝えたい 俳優・安藤玉恵が語る演劇の魅力

早稲田小劇場どらま館」×「早稲田ウィークリー」による「演劇のはなし」のコーナーでは、「演劇入門」「誰にでも伝わることばで」をキーワードに、演劇の魅力を伝えています。今回からは、さまざまな分野で活躍し、演劇と関わりを持つ早大出身者にインタビュー。当時の大学生活や早稲田演劇との関わりの他、お薦めの演劇作品も紹介していただきます。第一回のゲストは俳優の安藤玉恵さん(2000年第二文学部卒)。学生時代は演劇倶楽部(公認サークル)に所属し、演劇を満喫したという安藤さんに、演じることの魅力や演劇の面白さを教えていただきました。

安藤 玉恵(あんどう・たまえ)東京都出身。2000年、早稲田大学第二文学部卒業。在学中は演劇俱楽部(公認サークル)に所属した。卒業後も演劇を続け、舞台だけでなく映画やテレビドラマなど活躍の場所を広げている。2013年、映画『夢売るふたり』で第27回高崎映画祭最優秀助演女優賞受賞。2022年6月26日より、ドラマ『拾われた男』がディスニープラスとBSプレミアムにて配信・放送予定。9月からは、舞台『阿修羅のごとく』(作:向田邦子、脚色:倉持裕、演出:木野花)に出演予定。Twitter: @tamaeando

現場で学ぶ楽しさが、素晴らしい作品との出合いを導いてくれた

――安藤さんは1996年に早稲田大学第二文学部(以下、二文)に入学。早稲田に入学してみて、どんな印象を受けましたか?

二文は夜間学部だったので、社会人の学生に出会うことが多かったです。私は上智大学を中退してから早稲田に入学したのですが、最初に仲良くなった5人全員がたまたま別の大学を辞めてきた人だったんです。それで「私の来る場所はここだったんだ!」と思いました(笑)。自由度が高いという早稲田のイメージがそういう人を呼んでいたのかもしれません。

――その後、安藤さんは演劇倶楽部(通称、エンクラ)に所属します。エンクラに興味を持ったきっかけや、入会後の学生生活について教えてください。

友達に「エンクラに女の子が少ないから今日来ない?」と誘われて行ってみたんです。そこにいたのが、当時の新人担当で、今は俳優として活躍している小手伸也さん(教育学部卒)。小手さんがもう衝撃的に面白くて! それで興味を持ってエンクラに入りました。そこからは正直、授業より課外活動の比重が大きかったかも(笑)。エンクラで芝居に打ち込んだり、映画研究会(公認サークル)に所属する友人がきっかけで、自主映画にいくつか出演したりしました。呼ばれたらどこにでも行って、演劇をやって、映画に出て…を繰り返していましたね。

早稲田小劇場どらま館で開催された「Japan Digital Theatre Archives 収蔵作品 学内上映会 関連イベント」にて

――安藤さんは大学卒業後も役者を続けていますが、当時は卒業後も演劇を続けていく人が多かったのでしょうか。

そうですね。特にエンクラのメンバーは、卒業後も演劇を続ける人が多かったです。演劇界で活躍する先輩が新人公演に来てくれたりして、在学中からプロの世界を身近に感じられる環境にあったのかもしれません。それと私の場合は、親に何も言われなかったのも理由の一つ。上智を中退した時はいろいろ言われたけども、早稲田で演劇を始めてから「居場所を見つけたのね」とふと言われたんです。あなたが楽しく生きてるならそれでいいよ、と安心してくれたのかもしれません。

――徐々に活躍の場を広げる中で、2013年に放送されたNHK連続テレビ小説『あまちゃん』では栗原しおり役を演じ、注目を集めました。この作品を経て何か変化はありましたか。

宮藤官九郎さんの作品が好きで、宮藤さんが脚本を務める『あまちゃん』には、どうしても出たかったので、実際に出演が決まった時はうれしかったですね。親戚からコチョウランをもらったりと(笑)、周りも朝ドラ出演を喜んでくれました。でも実は、自分の心境の変化は特になかったんです。

栗原しおり役を演じ、お茶の間に強烈な印象を残した。連続テレビ小説『あまちゃん』はNHKオンデマンドで配信中

――なぜ変化を感じなかったのでしょう。

現場で学ぶこと自体が好きだからだと思います。演技の仕方を習ってこなかった私にとって、各現場で学ぶことは多く、その時間が楽しくて仕方がない。それは早稲田で演劇をやっていたころから、今も変わらず感じていることです。もちろん、出演作にも恵まれていますよ。『あまちゃん』以前にも、「これで私の俳優人生、終わってもいいな」と思える作品にたくさん出合えていました。

――では、安藤さんが演劇の現場の中で、特に「楽しい!」と思う瞬間はいつですか?

一番楽しいのは、台本を読んだ時。最初の直感をものすごく大事にしているので、台本を読んだ時の感覚を覚えておきながら、役の背景やせりふの意図を考えるのが好きです。ただ、こういう芝居をしようとは決めずに現場に入ります。一緒に演じる相手、空間、音に委ねている感覚です。それと、演出家の意図を探りながら、求められているものは何かを考えて演じています。

――最後に、演劇初心者の方に向けて、演劇の面白さを教えてください。

どんな場所であれ、やる人がいて観る人がいると演劇になるんです。お時間とお金をいただくことを重々承知の上で、バカみたいなこともたくさんしていますが、そこで感じる人間はとても滑稽で、愛らしいものだと信じてやってきました。日常より少し緊張感のある何かが始まる場所。フィルター無しで見る、目の前の肉体の切実さや面白さ。演劇を見るたびに面白い表情に出会えますから、ぜひ気軽に足を運んでみてください。

安藤さん出演作品と、おすすめ作品の2本をご紹介

今回、安藤さんからJDTA(Japan Digital Theatre Archives)(※)に収録された2作品をご紹介いただきました。1つは、安藤さんご出演の作品『男女逆転版・痴人の愛』、もう1つは安藤さんご自身が気になっていたという『夢の島からーじめん』です。

(※)早稲田大学演劇博物館が運営する、舞台公演映像の情報検索特設サイト。収蔵作品は、早稲田キャンパス6号館3階閲覧室AVブースで視聴することが可能。

ペヤンヌマキ×安藤玉恵生誕40周年記念ブス会*『男女逆転版・痴人の愛』
上演:2017年、脚本/演出:ペヤンヌマキ、主演:安藤玉恵

あらすじ(JDTAより引用):
谷崎潤一郎の『痴人の愛』を、男女逆転させペヤンヌマキ独自の視点で現代的に描くブス会版『痴人の愛』。仕事人間の40歳独身女性の“私”は美しい少年ナオミと出会い、「小鳥を飼うような心持」で同棲を始める。人見知りで垢抜けない少年だったナオミは次第にその美貌を利用して奔放な振る舞いを見せるようになり…。

ブス会*『男女逆転版・痴人の愛』(2017年)撮影:宮川舞子

安藤

原作に登場する二役の性別を逆転させたことで話の雰囲気が変わっています。私が演じた洋子は、ナオミに対して恋愛感情だけでなく母性も抱いているので、余計こんがらがって複雑な面白さを生んでいるのかもしれません。そういった面白さを通じ、40代の私たちにとって「今結婚することの意味」を問いかけているように思います。また、この公演は、「ブス会*」(脚本家のペヤンヌマキさん〔1999年第一文学部卒〕が旗揚げした演劇ユニット)の生誕40周年記念公演。年齢が変われば、やりたいことも感じることも変わっていきますから、周年作品はペヤンヌさんと今後も続けていきたいですね。ただ、「生誕」という言葉は一般的に亡くなった有名な人に使うものだと知らずに、公演タイトルに使ってしまったので、そこは少し恥ずかしかったりはします(笑)。

宮澤賢治『夢の島からーじめん』
上演:2011年、構成/演出/出演:飴屋法水

あらすじ(JDTAより引用):
飴屋法水とロメオ・カステルッチによる、初のダブルビル上演。宮澤賢治のテキストから自由に発想し、それぞれ新作「じめん」(飴屋法水)、「わたくしという現象」(ロメオ・カステルッチ)を発表。二つの才能が宮澤賢治の世界を媒介に響きあう瞬間を、1000人もの観客が野外で同時に体験する。幼少のころから宮澤賢治の作品に親しんできた飴屋法水は、その作品世界にアクセスし、物質や生命をめぐる思索を繰り広げる。

©Yohta Kataoka

安藤

これは2011年の「フェスティバル/トーキョー」(日本最大級の舞台芸術フェスティバル)の作品で、江東区にある夢の島というごみの埋め立て地で行った野外劇。玉音放送が途切れ途切れに流れる中、男の子が地雷を探すシーンから始まるのですが、そういった説明はないまま1,000人の観客がその場で起きることを30分間見守ります。飴屋法水さんの作品は、公演場所がいつも面白いなと思います。ごみの上にできた「夢の島」という設定だけでも観たくなる。閉ざされた劇場で見る緻密な会話劇も好きですが、どこでも劇場になりうるということを教えてくれますし、天気などにも左右される偶然も、刹那(せつな)を楽しむ演劇の面白さのように感じます。

取材・文:どらま館制作部 文化構想学部 2年 関口 真生(せきぐち・まお)
撮影:石垣 星児
画像デザイン: 内田 涼

早大生のための学生部公式Webマガジン『早稲田ウィークリー』。授業期間中の平日はほぼ毎日更新!活躍している早大生・卒業生の紹介やサークル・ワセメシ情報などを発信しています。

Page Top
WASEDA University

早稲田大学オフィシャルサイト(https://www.waseda.jp/inst/weekly/)は、以下のWebブラウザでご覧いただくことを推奨いたします。

推奨環境以外でのご利用や、推奨環境であっても設定によっては、ご利用できない場合や正しく表示されない場合がございます。より快適にご利用いただくため、お使いのブラウザを最新版に更新してご覧ください。

このままご覧いただく方は、「このまま進む」ボタンをクリックし、次ページに進んでください。

このまま進む

対応ブラウザについて

閉じる